繊維素材メーカー/“勝てる領域”に集中/構造改革・撤退相次ぐ
2024年12月04日 (水曜日)
11月28日、繊維業界に衝撃が走った。前身の大日本紡績の時代から日本を代表する繊維企業の一角を占め続けた名門、ユニチカが繊維事業からの撤退を発表した。近年、大手繊維素材メーカーの多くが繊維事業の構造改革に踏み切り、一部事業からの撤退も相次ぐ。背景には市場環境と経営政策の前提が変化したことがある。(宇治光洋)
ここ数年、繊維素材メーカーの事業撤退が急速に進んだ。三菱ケミカルグループは2023年にアクリル繊維の生産・販売を停止し、24年9月にはトリアセテート繊維事業をGSIクレオスに売却することを決め、衣料用繊維から撤退することを明らかにした。22年には日東紡が紡績事業から撤退しており、23年には東洋紡が国内の紡績工場と染色加工場を統合・集約するなど構造改革が加速していた。
東レも収益が低迷しているポリプロピレンスパンボンド不織布(PPSB)やポリエステル短繊維の生産適正化を進めており、既に韓国子会社でPPSBの製造ラインとポリエステル短繊維の連続重合・直接紡糸(連重)設備を一部停止した。今後、愛媛工場(愛媛県松前町)の連重設備も停止する予定だ。
こうした中でユニチカが衣料繊維、不織布、産業繊維まで含む繊維事業全体から撤退することは、現在の日本の繊維産業を取り巻く環境の変化を改めて浮き彫りにする。
その一つが新型コロナウイルス禍による供給・物流制約とウクライナ紛争などに端を発する世界的なインフレ高進。原燃料価格の高騰が続いており、物流費や人件費の恒常的上昇が重なる。このため値上げによる価格転嫁が進まない商品は即座に採算性を失う。一方、市場では汎用品を中心に内需減退に直面した中国メーカーによる安値攻勢が続いており、供給過剰問題が深刻化した。これが汎用品の値上げを難しくし、日本の繊維企業は採算性が悪化した分野への抜本的対策に迫られる。
もう一つは、資本市場が求める収益性のハードルが高まったことだ。近年、株式公開企業は株主から投下資本利益率の向上など資本効率の改善を強く求められており、黒字でも低い利益率では事業継続の是非が問われる。繊維事業も一定以上の利益率を確保することが至上命題となり、それが不可能な商品や用途は撤退せざるを得なくなった。
こうした環境の変化を受けて、日本の繊維素材メーカーのキーワードになっているのが“勝てる領域”だ。東レの大矢光雄社長は「繊維事業も“勝てる領域”を見極め、グローバルに戦う」と強調し、帝人の内川哲茂社長も「事業ポートフォリオ変革を進め、“戦える領域”で勝つ」と言う。
“勝てる領域”が何かは企業ごとに異なるが、スポーツ用途などの機能繊維やエアバッグなど産業資材が一例だろう。蓄積した技術や構築してきたグローバルサプライチェーンを生かした競争力が共通する。繊維素材メーカーの構造改革は、“勝てる領域”に経営資源を集中させるための“生みの苦しみ”と言えそうだ。