素材メーカー/トランプ2.0へリスク警戒/急激な情勢変化を注視
2024年11月12日 (火曜日)
米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利し返り咲く。“トランプ2・0”によって日本の繊維素材メーカーにどのような影響が出てくるか。自国優先主義や環境・エネルギー政策の転換、関税政策による貿易摩擦といったリスクへの警戒感が強く、急激な情勢の変化を注視しながら、今後の対応策を探る。(於保佑輔、桃井直人、宇治光洋)
トランプ氏は2017~20年の前大統領時に、法人税率の引き下げや個人の所得税の最高税率引き下げといった減税策を実施した。その延長線として、大統領に再び就任する際には、総額数兆ドル分に相当する複数の減税措置を講じるとしている。その減税分の財源となるのが、経済成長の拡大に加え、輸入品への関税引き上げだ。
ただ、関税引き上げや減税政策は米国内でのインフレを助長し、外国為替市場にも大きな影響をもたらす可能性がある。
また、環境・エネルギー政策の転換にも触れ、EV(電気自動車)や再生可能エネルギー発電などの需要動向に影響を及ぼしそうだ。
東レは、「トランプ氏が選挙時に唱えた政策を大統領就任後に実行した場合には」(萩原識副社長)とした上で、産業や通商、外交などでさまざまな影響が出ると予想。一つが環境エネルギーだ。化石燃料の増産を促すとされ、洋上風力発電などの事業への影響を示唆する。
通商や外交面では、保護貿易化が進められ、特に対中国で強硬な政策が取られると推測。中国製が米国市場に入りにくくなることで、日本製の関税率にもよるが、競争が緩和されるとみる。一方で、メキシコに自動車関連の拠点を持つ同社にとって保護貿易は「大きなリスク要因になる」。
日清紡ホールディングスは、米国に自動車のブレーキ摩擦材を展開する拠点を持つ。「摩擦材は原料の輸入にどれだけの関税が課せられるかになる」(塚谷修示取締役)とし、その上で「価格への転嫁がポイントになる」との認識を示した。
米国にはマリンシステム関連の拠点もあるが、こちらへの影響は限定的。ただし、ブレーキ事業もマリンシステムも為替動向がポイントの一つとし、注視を続ける。そのほか、半導体事業を手掛ける同社グループでは「ウクライナ情勢は半導体原料に影響を及ぼす」として、今後の動きに注目する。
半導体製造装置向けで業績が堅調なクラボウも「市場や客先において、米国の政策変更は一部で影響が出る」(西垣伸二社長)との見方。為替変動や原燃料価格、中国の輸出規制は「これまでの民主党政権下でもあったので、その延長線上の中でスピード感を持って対応していきたい」とする。
業績が上向きつつある繊維事業でも急激な為替変動を警戒するとともに、米中貿易摩擦が再燃すれば東南アジアにビジネスチャンスが広がる点を期待する。一方で「今でも苦労しているのが、中国から安い糸、生地が出てくる」(北畠篤取締役)として、一段の低価格品の放出による相場の下落を警戒する。
東洋紡では「現在、多くの素材産業は世界的に中国からの過剰供給問題に直面している」(竹内郁夫社長)と指摘。「この問題に対応する可能性があるのではないか」として、今後の情勢を見守る。