日本の合繊糸/差別化糸の輸出拡大/景気低迷など背景に

2024年11月08日 (金曜日)

 日本の差別化糸が中国など海外市場からも注目を集めている。糸からの差別化を志向する動きが出ていることが背景で、足元の景気低迷も関係している。海外では日本とは異なる視点で糸の特徴が評価されるケースも見られる。(星野公清)

 日本の差別化糸が注目されているのは、景気の低迷が背景にある。特に中国では経済が落ち込む中で繊維製品の需給バランスが崩れ、ボリューム品では価格競争に陥る局面も見られる。その打開策として糸からの差別化を志向する動きが見られ、日本の差別化糸が存在感を高める。特に機能性や感性を高めた糸への注目が高まっており、中には日本に先行して中国で採用が進む商品も見られる。

 東レの長繊維事業部は、ポリマー特品と紡糸技術の組み合わせで高度化した差別化糸に力を入れる中、足元では吸放湿ナイロン「キュープ」が中国向けで大きく伸びている。キュープは長く展開するロングセラー商品だが、これまではパンスト以外の用途になかなか広がらず、伸び悩んでいた。

 それがここに来て中国ブランドからの引き合いが増加。「中国では、価格競争から脱却するために日本製の素材を求めるアパレル・SPAが多くなっている」といい、キュープが注目された。中国アパレルの採用は数量も大きく、用途もインナーやTシャツ、ジャケット・パンツなどに広がった。今後は中国以外の市場でも拡大を狙い、キュープのリブランディングを進めている。

 ユニチカトレーディング(UTC)は、昨年に展開を始めたポリエステル長繊維「シルミードライ」で、中国内販に手応えをつかんでいる。これまでシルクのような風合いと機能性を両立させた素材として訴求してきたが、中国では特に風合いを評価して採用されると言う。

 シルミードライは、異形断面や常圧カチオン可染ポリマーなどUTCが持つ技術を結集して開発した。糸断面はさまざまな三角の形状で構成する「ヴァリアス断面」で、高い吸水性や遮熱性、UVカットなどの機能も兼ね備える。

 昨年からさまざまな特徴を訴求してきたが、価格が優先される市場ではなかなか響かなかった。その中で中国ブランドが「高級綿のような風合い」を高く評価した。日本よりも海外の方が風合いを重視する傾向があり、足元も海外からの引き合いが多い。今後はシルミードライ以外にも風合いを訴求する糸の品ぞろえを拡充し、差別化糸の販売を国内外で伸ばしていく。

 蝶理のピン仮撚り糸「SPX」は国内外での旺盛な需要に支えられて堅調に推移する。今年は4~5月に産地のスペースが空いた時期もあったが、その後はユニフォーム用途が回復し、ファッションなどの用途も伸びてタイトな状況が続く。

 中国内販など海外でも販売を伸ばしており、今後は国内外での拡販に力を入れる。輸出は中国やベトナム、インドネシア、タイなどが拡大している。海外にもピン仮撚り機はあるものの、日本ならではの糸作りが評価されている。特にバルキー性などは「日本の良さが出る」特徴と言う。