特集スクールユニフォーム(9)/素材メーカー/素材の力で学生服を進化
2024年10月31日 (木曜日)
素材メーカーは、学生服メーカーの在庫調整の影響を受け、前年に比べ販売が低調になりつつある。一方で値上げも進めていかなくてはならず、厳しい情勢にある。そのような中で自社の強みを改めて見直し、次世代の学生服に向けた素材開発や、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った新たな仕組み作りに挑戦する動きが活発になっている。
〈ニッケ/「WAONAS」始動/服から服への循環で一歩〉
ニッケは、使わなくなったウール衣料品を回収・再生し廃棄ゼロを目指す、「服から服」への循環プロジェクト「WAONAS」(ワヲナス)を始動する。使用済みウール混の衣料品を回収し、原料の状態まで戻し、再び糸から服へとよみがえらせる取り組みとなる。
同社は1998年から、ウール100%およびウール混衣料品を回収する「エコネットワーク」システムを構築。回収した衣料品を自動車用内装素材など産業資材の原料として再生し活用してきた。
さらにウールと他繊維の複合回収原料を衣料用の梳毛糸に再生する、ハードルの高い技術開発も推進。2021年から私立駒場学園高等学校(東京都世田谷区)の協力を得て「循環型学生服」の実証実験を開始。今年4月には新入生に、卒業生の制服から再生した糸を使った制服を実際に着用する段階にまでこぎ着けた。
学生服だけでなく企業制服も含め、WAONASによる仕組みによって、再生ウール繊維を使用した制服を30年までに10万着の販売目標を掲げる。反毛、紡績、生地製造工程は印南工場(兵庫県加古川市)で実施。不織布製造卸子会社が最新のリサイクル設備を導入し来年1月に稼働させる予定で、その活用についてもこれから調整する。コスト面など課題はあるものの、「考えを同じにしながら、一緒になって取り組む」考え。独自の環境教育プログラム「ウールラボ」と連動させながら、WAONASを広げる。
〈東洋紡せんい/新開発こそ“生命線”/トータル提案でシェア拡大〉
東洋紡せんいの上半期(4~9月)は、学生服メーカーの在庫調整を受け苦戦するものの、ニットの生地・製品販売を伸ばしている。「新しいものを生み出すことこそ生命線」として、ニット化やポリエステル高混率化の流れを捉えながら、製品OEMも含めたトータル的な提案力によってスクール市場でのシェア拡大に取り組む。
ニットの中でも紫外線遮断機能と防透け機能に特化したUPF50F+の編み地「レイブロック」や、ドライシートと吸収シートの二層構造で優れた吸汗発散性を発揮する編み地「アルティマ」などの販売が堅調だった。
生産拠点の確保やコスト面の問題からポリエステル・綿混から「ポリエステル100%化も進んでいる」。その流れを捉えながら26年の入学商戦に向けて攻勢をかけていく。
中東向け民族衣装用生地から着想し開発したのが織物の「@(アット)シャツ」。ノーアイロンで速乾性に優れるとともに「かなり着心地が良い」生地に仕上げた。シャツではトリコット地の需要が増えているが、ドレープ性によって見栄えがあまり良くないという声もあった。@シャツでは正装感を出せる。
高通気で防透け性が高い「サマークール涼夏」でより通気性が向上した「サマークール風夏」や、ダブルフェースの丸編み地を使った新発想のセーター「NEOセーター」で生地バリエーションを変えた進化版も打ち出す。
〈東レ/ポリエステル高混率化追い風に/部門連携で展開生地広げる〉
東レは来入学商戦に向け、ブレザー化によって詰め襟服、セーラー服の定番商品への生地供給の減少で厳しい環境にあるが、それを補う形でシャツ向けのトリコット地などの販売を伸ばす。ブレザー向けに梳毛調ポリエステル織物「マニフィーレ」の採用も増えており、「ポリエステル高混率化がかなり受け入れられる」環境になってきたことを追い風にする。
柄物ではウール混だけでなくポリエステル100%の先染め織物の提案が増えてきた。インクジェット捺染による柄物生地は、まだ採用に至っていないが、「物性のエビデンスへの担保をクリアできれば大きく広がる」。供給のリードタイム短縮や、先染めには出せない柄の表現といったメリットを訴えながら採用につなげる。
さらに強みとするバイオ原料ポリエステル「エコディア」、ペットボトル再生繊維「&+」(アンドプラス)といった環境配慮型素材に加え、スクール以外の分野で使われていた素材の訴求を強化。婦人服やスポーツ衣料で展開している生地をスクールに広げ、販路拡大に対し「テキスタイル部門の連携で力を出す」。
特に気温が高く、猛暑日も増える傾向からハーフパンツといったアイテムの採用が増えていることを受け、盛夏向けの素材提案にも注力。独自技術で生地に通気孔を発現させたポリエステル織物「ドットエア」では、スクール用途でも使えるように強度を高めるといった素材開発にも取り組む。
〈東亜紡織/「制服物語」で柄充実/他校との差別化に強み〉
東亜紡織は来年の入学商戦に向けて、柄物の生地を豊富にそろえる「制服物語」を中心に販売を伸ばしている。アパレルメーカーに対して意匠権まで含めて提供できるフリー柄素材で、100種類前後の多彩な柄をそろえる。LGBTQ(性的少数者)に配慮したブレザー化による制服モデルチェンジは依然として高水準であり、ボトムスで柄物が採用されるケースが増加。これまで30年展開し、豊富な採用実績から提案の際に「強力な武器になっている」と言う。
制服のカラーでは濃紺が選ばれるケースが多い。しかし、他校と差別化した場合、グレーを選ぶ場合が多く、制服物語では「霜降り」のグレーの生地バリエーションが充実しており、「選びやすい」という点も評価されている。
2026年以降の入学商戦に向けて、サステイナビリティーに沿った素材の提案や取り組みを加速。制服物語ではいずれ全品番を再生ポリエステルに置き換えるほか、別注対応として、ウールと生分解性ポリエステルとの複合素材「バイオハーモニー」にすることができる。
尾州の染色最大手ソトーなどと連携する、持続可能な調達・製造工程のトレーサビリティーの達成に向けた「グリーンウールバリューチェーン」の提案も加速。その製品が循環型社会の実現に向けてどう貢献するかを一目で分かるラベルを作成している。サステや環境問題に対する学校教育が活発になる中、新たな提案の切り口にする。
〈シキボウ/暑熱対策に肌触り向上/製品対応も強化〉
シキボウは、スクールユニフォーム市場へカッターシャツ地を中心に供給している。学生服メーカーの在庫調整を受け、来入学商戦への販売は低調であるものの、気温の高い日が長くなる傾向を受け、得意とする暑熱対策素材を軸に攻勢をかける。
一つは主力素材の校倉(あぜくら)造り構造織組織の高通気生地「アゼック」。「年間を通じて受注が増えている」状況で、フェアトレード綿糸「コットン∞(エイト)」や生分解性ポリエステル「ビオグランデ」など、SDGs(持続可能な開発目標)に関連した素材と組み合わせた開発も増える傾向にある。
シャツでトリコット地の採用が増えていることを受け、台湾の合繊素材による提案も強化。今月、大阪と東京で開催した展示会では新開発素材を多数披露した。中でも注目されたのが、二層構造の優れた吸汗速乾機能で爽やかな着心地の「コンフ」と、トリコットを掛け合わせた生地。ポリエステル100%使いにすることで、汗によるべたつきを軽減し、より肌触りが向上した。ポロシャツやTシャツ、インナーといった用途へも最適だ。
今年1月、ベトナムに現地法人を開設するなど、海外拠点も整いつつあり、ポロシャツ、Tシャツなどの製品供給も強化している。現状ユニフォーム事業の売上高のうち製品は1割ほどしかないが、要望が増えつつあり、もっと対応力を高める。