秋季総合特集Ⅴ(4)/Topインタビュー/豊島 社長 豊島 半七 氏/高度化した消費者志向に対応/海外見据え新商流構築へ
2024年10月25日 (金曜日)
豊島は、さまざまな切り口で高付加価値商材の供給を進める。素材部門は少なくとも20年以上前からさまざまな環境配慮型商材を確立。それにとどまらず機能性の付与や新たな視点で地球環境に配慮した商材を拡充する。製品部門は販売先の志向やニーズの先にあるライフスタイルを想像し、適切な商品を開発・販売していく。豊島半七社長は「未来に視点を置き、今何が必要かを想像する」ことが大事だと話す。今期(2025年6月期)は「海外を見据え、新たな種まきを強化する1年」とし、さらなる成長を期す。
――繊維産業でこの数年大きく変化を感じたことは。
消費者が求める条件が高度化かつ多様化したと痛切に感じます。環境への意識の高まりや少子高齢化も一因です。新型コロナウイルス禍後もその傾向が強く、厳選して必要なモノだけを消費する傾向にあります。
商品を購入する動機が複雑なので、複数の要素や利点をそろえる必要があります。例えば、それは機能の充実かもしれません。サステイナブルな原料使いや生産経路の追跡が可能な安心・安全を切り口にする訴求も必要です。それらを複合した付加価値のある商品をいかに包括的に供給できるかが重要です。販売先への精度の高い提案を支える、デジタル技術で社会・企業を変革するDXの活用も不可欠です。
――ビジネスで変化したと思うことは。
当社は原料・原糸・生地などの素材供給と、製品供給を中心に事業を展開しています。素材のビジネスは“すっきりしてきた”と思います。半面、製品ビジネスは販売先の要望が高度化して“厳しく”なってきました。
素材のビジネスは環境配慮や再生、循環といったサステ商材や難燃性、耐摩擦性に優れた素材の提案など、打ち出しが明確になりました。綿花販売は相場や為替により売上高や利益が乱高下するリスクもあります。限度を決めて販売する仕組みにしました。
半面、製品ビジネスは複雑な条件や要素を満たす、高次元なものでなければなりません。サプライチェーンでCO2をいかに削減できるかなど、環境への配慮も必要です。商品に必要な機能や素材特性に加え、確かな出自を証明する認証制度の活用もマストです。
世界的にも“ムダなモノは作らない”というのが常識です。国内でも猛暑や高温が続く気候の変化は無視できず、秋物や冬物の計画が減ります。環境や市況の変化に対応し、従来の商習慣にとらわれない柔軟な発想と提案が必要になります。
――前期(24年6月期)を振り返ると。
売上高は2202億円で減収も、営業利益88億4500万円、経常利益は116億2100万円で、ともに最高額を更新しました。
素材部門は726億円で108億円の減収でしたが、製品部門は1439億円で55億円の増収でした。素材は綿花相場の下落と販売数量減の影響が主要因ですが、ある程度想定していました。製品はトレンドの情報共有による提案強化が奏功し、商品を拡充できました。成長を続ける販売先との取り組みも深耕し、服飾雑貨など非衣料品の販売も進みました。
部門により差はありますが、数字の増減を全体でカバーしようという意識が強まった結果、経常利益が100億円を超えるという成績につながったと思います。社員の皆さんが個別の商売に向き合うことができたのではないかと想像します。
――今期の目標と重点政策は。
売上高2千億円、経常利益90億円が目標。第1四半期は減収傾向で、上半期の回復は少し厳しいかと予想します。
今期は将来に備え、新たな種まきをする1年としながら、新商流の構築を進めます。現在の役員や幹部社員が若い時に“将来はこうあるべきだ”と考えていたアイデアをひもといてほしい。それを具現化するのもヒントかもしれません。未来に視点を置き“いま何が必要か”を想像しながら商材の開発と供給を進めてもらいたいと考えます。
――素材部門に期待することは。
海外への販路をどれだけ広げるかがポイントで、その種まきを進めてもらいたいと思います。当社はテンセルにはじまり、オーガビッツ、フードテキスタイルなど環境に配慮した素材の開発と販売を先駆けてきました。その特徴を生かした商取引がさらに広がることを期待します。原糸の販売は天然繊維だけでなく合繊繊維製の商材も広げています。生地販売は中国・欧米・中東向けに積極的に提案を進めていますので、その成果が出てくることでしょう。
――製品部門の展望は。
今後も積極的に事業を拡大する販売先との深みのある協業が必要です。価格の訴求ではなく、必要な仕様や機能などをかなえた、付加価値付与型の商材を提供し続けることが重要です。販売先とともに生活様式を想像しながら、適品が供給できるよう知見を広めてほしいと思います。
一方で販売先の価格帯や条件に合わせた生産経路の構築も進めなければなりません。現状、中国の生産が80%ほどありますが、東南アジアなど第三国生産も必要となります。“オール豊島”として対応するために、国内ならびに海外拠点や現地法人とのさらなる連携も深めていきます。
――ライフスタイル提案商社としての浸透度はどう評価するか。
まだまだ道半ばです。“ライフスタイル提案商社”だと強く意識し、言い続けることが大事です。
今では想像できない、異業種や新たな業態の企業とつながる可能性はあります。素材部門は多種多様な提案を広げようとしていますが、一部の製品部門はまだアパレルを軸に組み立てしたいという意識が見えます。非衣料など関連商品を含めた厚みのある提案を増やすことで、新たな領域を広げていきます。
〈自身の変化を感じた時/1年、1日の時間を大切に〉
「新型コロナウイルス感染拡大以降、予想できないさまざまなことがあり精神的にもキツかった」と話す豊島さん。想像を超える変化についていくことが本当に難しいと考えたと言う。近年の酷暑が原因なのか体力の低下も感じているもようで、同世代の経営者と「お互いの調子や体調について話すことが多くなった」と話す。今後は「1年、1日という時間をより大切にしなければならない」と考える。未来に向けて何が大事なのか。自問自答を繰り返す日々が続く。
【略歴】
とよしま・はんしち 1985年豊島入社、90年取締役。常務、専務を経て、2002年から現職