秋季総合特集Ⅳ(10)/Topインタビュー/宇仁繊維/社長 宇仁 麻美子 氏/開発力を磨き続ける/全世界に日本製生地を
2024年10月24日 (木曜日)
宇仁繊維(大阪市中央区)は2023年8月期単体決算で、創業以来の過去最高売上高を更新した。新型コロナウイルス禍では大きく落としたが、力強く戻した格好だ。前期もさらに伸ばす計画だったが、国内衣料品市況の低迷などからかなわなかった。生地も縫製も海外で一貫生産する一般貿易の流れが強まっている。難局を乗り切る方策を宇仁麻美子社長に聞いた。
――この数年で業界、あるいは会社が変化したこととは何でしょうか。
業界の変化で言えば、消費の二極化、セールの廃止、作り過ぎは悪という価値観などが挙げられると思います。二極化については、当社は中間層を主なターゲットに生地を開発してきましたから、手痛い現象だと言えます。今後の方向性は二極化の上のゾーンになります。
――具体的にはどのような策が。
少し手の込んだ生地が売れる傾向が強まっています。当社の商品で言えば、日本形染(浜松市)さんの「ミラクルウェーブ」、大長(滋賀県東近江市)さんの「近江晒」、小松マテーレさんの「ビンテージ繊意」、各種ジャカード、ラッセルレース、デニム調プリント、高密度のリバーシブルなどが売れています。伴って平均単価が上がっています。
逆に、以前の売れ筋商品だった定番のデシンやシフォンはほとんど売れなくなりました。「せっかく国産の生地を購入するのなら少し変わったものを」という買い手側の思惑があるのだろうと思います。加えて、中国など海外で、定番生地の品質レベルが上がっていることも関係しているのかもしれません。
こうした傾向から、当社は上のゾーンに向けた生地開発に改めて注力していきます。昨今の社会的なトレンドと言える効率化とはある意味で逆の方向性ですが、それが国産生地の生きる道だと信じています。
――メンズやユニフォーム分野の開拓にも力を入れています。
当社は長らくレディース向けの服地を開発、販売してきました。今後はそれに肉付けする形でメンズやユニフォーム分野を開拓していきます。近年の気候は夏が長くなり涼しい生地が求められていますし、ジェンダーレス化も進んでいます。当社がレディース向けに開発してきた生地がメンズでも売れてきています。提案が実り、メンズのセットアップやコートに採用されるケースが増えています。この流れを加速させたいですね。
ユニフォーム向けはまだまだこれからというところですが、サービスユニフォーム系を中心に少しずつ採用が増えてきてはいますので、ユニフォームに特化した生地も開発しながら開拓作業を続けます。
――24年8月期が終わりました。
単体の売上高は77億5100万円で前期比1・5%の減収でした。営業利益も減りましたが、純利益は前の期に特別損失を計上していたことの反動で増加しました。グループ売上高は95億円で、0・7%のマイナスでした。
減収は前の期が創業以来の過去最高だったことの反動でもありますが、生地の出荷数量が減っている点が気掛かりです。付加価値系生地の充実による単価アップや価格改定がなければもっと減収幅は大きくなっていたわけなので、危機感を持っています。
――輸出拡大にも精力的です。
前期はその前の期の反動や大口を落としたことなどで減収となりましたが、まだまだ伸ばしていきます。「プルミエール・ヴィジョン・パリ」「ミラノ・ウニカ」「インターテキスタイル上海」など、出られる海外展示会には全て出展しており、その回数は年間30回近くに上ります。「全世界に日本製生地を売っていく」というテーマの下、これからも輸出拡大方針がぶれることはありません。
――今期の数値計画について教えてください。
売上高目標として単体で10億円増、グループ売上高で100億円を目指しますが、市況から判断すると少し難しいかもしれません。来期には単体100億円、グループ120億円という大きな目標を掲げていますので、そこにどれだけ近づけられるかというところですね。
〈自身の変化を感じた時/軽装化の流れは自身にも〉
現会長である父・龍一氏のあとを継いで社長に就いて丸3年がたった麻美子さん。元々おしゃれが好きで、好きな服を毎日着用してきたが、社長になってからはやや襟をただしてフォーマルな服を着るようにしていたと言う。しかし今年は気付けばカジュアルな服を着ることが増えたそう。暑すぎる夏や軽装化の流れがその理由だと自己分析。カジュアル化の流れは今後も定着していくとし、「それに対応した生地を開発していかなければ」と誓う。
【略歴】
うに・まみこ 合繊メーカー勤務を経て1999年宇仁繊維入社。2002年取締役、08年常務、18年専務。21年10月から現職