秋季総合特集Ⅳ(7)/Topインタビュー/スタイレム瀧定大阪 社長 瀧 隆太 氏/変化の160年これからも/国内苦戦も海外は拡大
2024年10月24日 (木曜日)
今年で創業160年を迎えるスタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)。長い歴史の中、幾度も時代の変化に反応、あるいは先を見据えて自らを変えてきた。2008年に社長に就任した瀧隆太氏も「常に変化し続けてきたし、これからも変化し続ける」と瀧定の遺伝子をしっかり受け継いでいる。紆余(うよ)曲折の道中と、根底に流れる意識について聞いた。
――この数年で何が変化しましたか。
どこを起点にするかによりますが、少なくとも私が社長に就任してからの17年間も変化の連続でした。その中で当社が内的・外的の両面で「変えていく」ということに対して強い意志を持って臨んできたことは間違いありません。
当社は今年で創業160年を迎えます。この歴史を見ても、間違いもあったかもしれませんが、その時々で最適な選択をし、未来を見据えて思い切った手を打ってきたことが想像できます。
――社長就任から振り返ってください。
17年前に私が社長に就いた時の当社は、業界の中で非常に強いポジションを既に築いていました。世の常として、その立ち位置に甘んじてしまう危険性もあった。だからこそ強い意志を持って、時代の変化に対応、あるいは先読みして変えていく必要があったのだと思います。リーマン・ショック、東日本大震災なども経験しましたが、その都度、未来に向かって持続していくビジネスを構築しようとトライを続けました。当時と比べて売り上げは減少しているものの利益を高水準で出せているのは、会社を変化させてきた結果だと思います。
一方、主戦場である国内市場は少子高齢化によりシュリンクしていっています。ここに大きな危機感を持っていました。そこで取り組んだのが、変革プログラムです。柱はグローバル化とデジタル化です。デジタル化の一環として2012年には基幹システムを刷新しました。紙の台帳やファクスをなくし、デジタル技術を導入しました。ところがシステムトラブルが発生し、生地が出荷できないという大混乱に陥りました。半年でなんとか一部復旧にこぎ着けましたが、目指していたあるべき姿になるまでは数年を要しました。
このシステムは逐次ブラッシュアップを施しており、今では会社の力になっています。
グローバル化については、09年に上海法人を設立したことがエポックでした。それまでは基本的に海外拠点の設立はタブーでしたからね。そこからは香港やイタリア、インド、インドネシア、米国など世界各地に拠点を設け、グローバル製販体制を構築しています。
――今後の変化については。
変えることが目的ではないですが、時代の変化に応じて当社も変わっていきます。これまでもさまざまな変化を遂げてきた当社ですが、実は世の中の変化のスピードのほうが速いのではないかという問い掛けを常にしています。だからこそ世の動きを常に注視することが重要になります。異業種やグローバル人材の採用拡大に力を入れていきます。サステイナビリティーやトレーサビリティー、デジタル技術など専門的なスキルを持つ人材も必要になってくるでしょう。
――業界の変化については。
サステとトレーサビリティー要求への対応がマストになってきています。大量生産でやってきた業界ですからこの対応は本当に大変。ですが、長い目で見ると絶対に変えていかなくてはいけないものです。欧州では法律として施行されだしていますので、業界全体が変革を余儀なくされるでしょう。納期短縮も同じです。適量生産を実現するためにも、納期短縮を目的としたモノ作りのサプライチェーンを早急に構築する必要があると考えています。環境認証など各種認証も必須になってくるので、その観点でのモノ作りも重要性が増しています。
――今期(25年1月期)の商況は。
海外市場向けがけん引し、ここまでは増収増益です。しかし課題は多い。国内向けは特に数量が減っており、「作り過ぎない」という流れの強まりを実感しますし、生地を中国やベトナムなどの縫製地やその周辺で調達する流れも強まっています。変化が必要です。
〈自身の変化を感じた時/3周目の人生〉
「2度生まれ変わった」と瀧さん。最初の生まれ変わりはソニーを辞めて2007年に瀧定大阪に入社した時だ。全くの異業種に移り、職種も立場も違い「一度生まれ変わるも同然の変化だった」。2度目は為替デリバティブ契約解約違約金などで特別損失300億円を計上した16年。「それまでの人生を全面的に見直す必要に迫られた」。3周目の人生を歩む瀧さんは「多方面に迷惑もかけたが、個人として捉えれば3度も人生を経験できるのは実は得な人生かも」と前向きだ。
【略歴】
たき・りゅうた 1999年ソニー入社。2007年瀧定大阪入社。08年4月から瀧定大阪社長。18年4月から兼スタイレム会長。瀧定大阪とスタイレムの吸収合併・社名変更に伴い21年2月からスタイレム瀧定大阪の社長