秋季総合特集Ⅳ(1)/自らを変える 人が変える

2024年10月24日 (木曜日)

 川上、川中、川下企業を問わず、変化の波はとどまることなく押し寄せている。その変化を捉え、自らが変わることで成長を遂げようとする企業は多い。その姿勢はビジネスだけでなく、人事政策にも表れている。各社の取り組みに焦点を当てる。

〈合繊メーカー/人材育成で新たな取り組み/会社支える人が変わる〉

 少子高齢化による働き手不足、人材(人財)不足は、中小・零細企業だけでなく、大手企業も抱えている、産業界共通の課題と言える。優れた人材の確保は当然ながら、育てることが必要不可欠になっている。合成メーカーは、育成や人事制度で新たな取り組みを進めており、各社を支える「人材」が変わりつつある。

 日本企業の人材育成は、職場の上司や先輩が実際の仕事を通じて指導し、知識や技術を身に付けさせるOJTが広く行われてきたが、問題点も浮かび上がる。一つは働き方改革に起因する時間的制約。若手世代のキャリア観の多様化などもあって指導する側の質・量の負荷が増えている。

 また、「人事部内に人材開発・組織開発の専門家が少ない状況」(合繊メーカー)にある。同時に人事業務が高度化し、従来とは異なるスキル要件が必要になったとも指摘される。こうした状況の中で合繊メーカーは、独自の教育体系や人事制度によって自社を支える人材の育成を図っている。

 旭化成の「新卒学部」は、新入社員対象のラーニングコミュニティーで、2022年に始動した。新入社員の成長を同期同士のつながりで支援する学び合いのコミュニティーであり、24年度は316人(高専卒、大卒以上が対象)が参加している。

 事務局伴走の第1クールと新人が主体的に活動する第2クールに分けて実施。第2クールは新人がゼミを作成し、今年は英語や経営視点を学ぶゼミが作られた。新卒学部の成果は大きく、23年度に入社した社員は、前年度入社社員と比べて学習時間が3・5倍に増えた。

 東レは、自ら考え行動するリーダーを育成する「東レ専修学校」を1994年に開校している。入社5年目からの社員(高卒)を対象とし、1年間をかけて英語や数学、化学工学、工務基礎などを学ぶ。全員が受けられるわけではないが、30年間で844人が卒業した。

 新たな人材教育制度として「現場力強化スクール(GKS)」も22年に立ち上げた。掛長候補者らが対象で、ソフトスキルを伸ばす研修などが行われ、全5セッション延べ18日間前後のカリキュラムとなる。専修学校と隔年で開催される。

 帝人は、24年からの中期経営計画で人的資本経営の強化に取り組んでいる。会社自身が変化するためには社員の意識の変化も必要とし、人事施策も刷新する。会社と社員でフラットな関係を構築し、成長に向けて共に挑戦できる環境を作り上げる。

 具体的な施策として、ジョブ型処遇の導入を検討するほか、自律的なキャリア支援を行う。これらをベースに人材獲得競争を強化する。数年先には、適材適所(メンバーシップ型)ではなく、適所適材(ジョブ型)をグローバルで促進する。

〈副資材企業/「一歩前に」が合言葉/消費者への直接訴求も〉

 ボタンやファスナー、テープや芯地を生産、あるいは取り扱う副資材企業が変化している。ほぼ共通するのが「一歩前に出る」という意識。背景には少子高齢化で縮小が進む国内アパレル市場への危機感がある。

 「副」という漢字に象徴されるように、副資材にはサブという意味が含まれる。「縁の下の力持ち」「黒子」という立ち位置にあり、その存在が最終製品の主役になることはほとんどなかった。

 市場が縮小する中、自らの存在をもっと際立たせようという動きが活発化している。それは主役を張れる新商品開発であったり、BtoCへの挑戦であったりする。

 紳士スーツ向けを主力とする室谷(大阪市中央区)は、同市場の量的回復は望めないとして、副資材とは異なる新商品の開発・投入に力を入れている。砂漠緑化事業に貢献できるホホバオイル配合生地・製品「ハグクム」や、寝装関連で実績のある特殊なマイクロカプセルを生地にプリント加工して付着させたウエアの販売を始めたのは市場縮小を見越した危機感が背景にある。

 モリトグループは2022年の会社分割の際、ブランドロゴの刷新と同時に「あたりまえに、新しさ。」というタグラインを新たに設定した。この方針に基づき、独自の新商品開発を加速させている。

 廃漁網を再生したナイロン製品「リデコ」や「ミューロン」がその代表。加えて、ダウンウエアの「ヨソオウ」、バッグブランドの「52バイヒカルマツムラ」といったBtoCブランドの拡販にも意欲的だ。プロスポーツチームのスポンサードや産学連携、主体的な環境保護への取り組みにも力を入れている。これからの成長には「副資材という縁の下の力持ち的な立場から一歩前に出た事業展開が必要」と認識するためだ。

 バイアステープのトップマン工業(大阪府東大阪市)では、高弾性素材「ネオラバーテープ」(NRT)とその細幅タイプである「ネオラバーストラップ」(NRSTP)が売れ筋商品の一つになっている。それを広幅化して生地タイプに仕立てたのが「ネオラバーファブリック」(NRF)だ。価格面がネックになりまだヒットには至っていないが商品には自信を持っており、「あとは売り方だけ」とする。

 島田商事(大阪市中央区)は3Dデータの活用を進めている。21年に設立した100%出資子会社、F.D.I(ファッション デジタル イノベーション)で行うもので、製品・業界問わずどんなモノでも3DCG制作を請け負う新規事業だ。

 市場縮小が不可避な中、今後は副資材関連企業による新規販路の開拓、BtoC事業の深耕が数多く見られそうだ。