秋季総合特集Ⅲ(7)/Topインタビュー/クラレトレーディング 社長 山田 武司 氏/量から利益重視へ/特殊原料の活用強化
2024年10月23日 (水曜日)
「“量”を追う時代から、はっきりと“利益”を重視する時代に変わっていった」――クラレトレーディングの山田武司社長は近年の日本の繊維産業の変遷を振り返る。こうした変化に対応するためには構造改革が不可欠だが、実践は容易なことではない。「当社もいまの形になるのに20年かかった」と指摘する。引き続き事業モデルを変革することが基本戦略となる。
――近年の日本の繊維産業の変化をどのように見ていますか。
売り上げ規模など“量”を追う時代から、はっきりと“利益”を重視する時代に変わっていると思います。規模は小さくなったけれども、しっかりと利益を確保できている企業が増えてきているのではないでしょうか。当社も、早くからその方向にかじを切り、事業構造の改革を進めてきました。糸・生地など原料の販売だけではなく、縫製品にまで取り扱い分野を拡大することで利益率を高めてきたわけです。
なぜそれができたかというと、当社はポリエステル繊維メーカーとしては小規模だったからです。どうしてもコスト競争力で大手に勝てなかった。そこで縫製品を拡大することでしか生き残れなかったという面があります。その過程で、例えば婦人服地からは撤退するといった構造改革を実施してきました。こうした改革は簡単ではありません。今の形になるのに20年かかっています。しかしその結果、事業の中身が非常に良くなりました。
例えば現在、当社の売上高の35%が繊維関係、65%が化学品関係ですが、利益は50%を繊維関連が生み出しています。化学品はクラレの販社としての事業が多いため大きな利益率とならない一方、繊維関連は自前のビジネスが増えているためです。
――2024年度(12月期)も終盤に入りました。
化学品は中国市場の市況低迷の影響を受けていますが、繊維は堅調に推移しています。全体では過去最高の取扱高、営業利益を狙えそうです。繊維は特にスポーツが製品化の拡大で伸びました。強いアパレルとの取り組みが成功しています。原料から縫製まで一貫で担うことで、取引先に安心感を持っていただいていることが強みです。一方、学販体育服は少子化に加えてアパレルの在庫調整の影響を受けました。ブラックフォーマルも低調。ただ、これは冠婚葬祭需要の減退という構造的な要因ですから、当初から想定していたことです。ユニフォームはワークウエア分野から撤退しました。白衣やサービスユニフォーム分野も市況にやや一服感があります。
――来期に向けた課題や戦略は。
繊維は縫製品の拡大をさらに進めます。そのためにベトナム拠点の建屋も増築し、ミシンの増設やプリント加工の能力拡大を進めました。スポーツを中心に縫製品が拡大しましたが、学販体育服分野などは、まだ生地販売が多い。国内の縫製キャパシティーに限りがありますから、この分野でも縫製品を拡大する余地があります。
また、原料面での強化を進めます。クラレが持つ特殊原料を繊維で活用する。例えばSPS(シンジオタクチックポリスチレン)繊維「エプシロン」の商品化など成果が上がっています。ビニロンやポリアリレート繊維「ベクトラン」などもあります。これら特徴のある繊維の用途・アイテムの開発を進めることで、付加価値をさらに高めていくことが当社の役割です。
そのためにクラレが事業横断で商品開発や用途開拓、マーケティングを進めるために設置した「イノベーションネットワーキングセンター」(INC)にも積極的に参画し、既に具体的な開発や提案を進めています。
グループ外との取り組みも重要です。クラレグループが持っていないユニークな原料を活用したい。そのために他社とのコラボレーションも積極的に進めます。その点は当社の商社としての機能が強みになるでしょう。
現在の戦略で当面はやっていけるでしょう。ただ、今後も事業環境は変化します。その中で当社がさらに次の段階へと昇るためには、別の戦略が必要になると思います。それに関しては、次の世代に考えて欲しいと思います。
〈自身の変化を感じた時/構造改革へ「人を残す」〉
「最近、自分が成果を上げることよりも、若いスタッフが成果を上げたときの方がうれしく感じるようになった」という山田さん。「『金を残すは三流、仕事を残すは二流、人を残すは一流』(後藤新平の言葉)の心境ですか」と聞くと「それそれ。良い言葉だね」と笑う。それだけに繊維業界の一部にまだ残る不合理な商習慣で若いスタッフが疲弊してほしくないとの思いは強い。これも構造改革へのモチベーションになっているようだ。
【略歴】
やまだ・たけし 1984年クラレ入社、クラレトレーディング衣料カンパニーテキスタイル部長、同カンパニースポーツ部長、衣料・クラベラ事業部副事業部長、可樂麗貿易(上海)総経理などを経て、2015年クラレトレーディング取締役、18年常務、18年常務繊維事業統括兼衣料・クラベラ事業部長、20年から社長