秋季総合特集Ⅲ(4)/Topインタビュー/東洋紡せんい/東洋紡常務執行役員 機能繊維・商事本部長 東洋紡せんい社長 清水 栄一 氏/チームで強み発揮する/次の成長に向け基盤整備

2024年10月23日 (水曜日)

 「全てを自前で担うのではなく、強みを持った企業が連携することで“チーム”として強みを発揮する時代になった」と東洋紡せんいの清水栄一社長は指摘する。そのためには、自社の強みとは何かを改めて問い直すことが不可欠だ。東洋紡せんいも発足から3年目となり、構造改革が進む。次の成長に向けた基盤整備も視野に入ってきた。

――近年、繊維業界も大きく変化したと言われています。

 日本の繊維企業は大手を中心に自前主義が強かったのですが、近年は得意とする素材や用途への選択と集中が進みました。自社の強みがある素材や工程、用途は自前でやりながら、そのほかの部分は、それぞれ得意とするプロに任せるという形です。そして、強みを持つ企業が連携し、“チーム”として強みを発揮する時代になったと思います。そのためには、自社の強みとは何かを改めて検証する必要があるでしょう。また、非衣料分野の重要性が一段と高まったのも近年の特徴です。やはり衣料分野だけでは、海外企業との競合も含めて、競争が激しすぎるからです。

――変化に合わせて、変えていかなければならない部分もある。

 現在は一種の過渡期です。その中で、変化を恐れるのではなく、変化を楽しむようなマインドが必要。そのために従業員のマインドを変えていくことがますます大切になっていると思います。

――2024年度上半期(4~9月)も終わりました。

 当社は22年4月の発足から、今期で3年目に入ります。これまで改革を進めたことで全体として収益改善が順調に進んでいると言えるでしょう。24年度第1四半期(4~6月)は増収増益となり、黒字も確保しました。この傾向は上半期を通しても継続しています。事業別に見ると、中東民族衣装用織物を中心に輸出織物事業がリードしました。やはり円安が追い風になっています。スクール事業も堅調です。アパレルが余裕をもった生産となっていることで市況としてはやや踊り場感がありますが、次に向けた開発に当てる時期だと考えています。

 ユニフォーム事業は備蓄アパレル向け短繊維織物の販売が落ち込んでいますが、これは想定内です。逆に合繊ニット生地は「スクラムテック」など差別化品を中心にアパレルとの取り組みで好調。企業別注の獲得も成果が出ています。合繊長繊維織物はベトナム、合繊ニット生地はインドネシアの拠点の活用が進みました。マテリアル事業も糸売りが悪くありません。インドの大手紡績と連携して商品化したリサイクル綿糸「さいくるこっと」も注目を集めています。

 一方、スポーツ事業は改善途上です。当社は、価格は高いけれども高性能な素材を提案することを基本戦略としてきました。ところが近年、スポーツ衣料の分野では性能だけでなくブランド戦略で商品を販売する傾向が強まっています。そこで当社の提案とアパレルの販売戦略に、ややミスマッチがあるのでしょう。

――下半期に向けた課題や方針は。

 通期でも営業黒字を確保することが必須。今期目標である営業利益10億円を確保してこそ東洋紡せんいとして本当の意味でのスタートを切ったことになります。将来的には売上高500億円、営業利益20億~30億円規模の企業になることを目指したい。そのためにはM&Aも含めて、今はない事業を取り込んでいくことも必要でしょう。そういった取り組みができるような基盤整備を進めたいと思います。

――今期から東洋紡の機能繊維・商事本部長として日本エクスラン工業とエアバッグ事業も管掌しています。

 日本エクスラン工業は機能材を中心に利益が出ており、改善が進みました。アクリレート繊維など非常に競争力のある商材がそろっているということが明確になりました。あとは、この強みを生かす生産体制をどのように構築していくかが課題となります。エアバッグも順調に改善が進んでいます。供給先の4M変更承認などが進んだことでタイでの生産も本格化します。26年度までには赤字も解消できるでしょう。そこに向けたロードマップができています。

〈自身の変化を感じた時/言われるとちょっと寂しい〉

 「“変わらない”ことが長所だと思っているので、周りの人から『(態度などが)変わった』と言われると、ちょっと寂しい」と言う清水さん。立場が変われば考え方も変わるし、発言内容も変化していくもの。「でも、人間性は変わらないようにしたいですね」。営業畑出身で「お客さんにかわいがられ、引き上げてもらった“でっち上がり”の社長」を自負するだけに、今でも進んで下座に座る心がけを忘れないようにしている。

【略歴】

 しみず・えいいち 1986年東洋紡績(現・東洋紡)入社。生活テキスタイル事業部ワーキングサービスグループマネジャー、グローバル推進部主幹兼東洋紡インドネシア社長などを経て2021年執行役員東洋紡STC社長、22年東洋紡せんい社長、24年4月から東洋紡常務執行役員機能繊維・商事本部長を兼務