秋季総合特集Ⅱ(6)/Topインタビュー/帝人フロンティア/代表取締役社長執行役員 平田 恭成 氏/かじ取りを短時間で判断/収益力向上に磨きかける

2024年10月22日 (火曜日)

 帝人フロンティアは、収益力に磨きをかけている。2025年3月期の事業利益見通しを当初の125億円(帝人の繊維・製品セグメントの数字。以下同)から145億円に上方修正し、24年4~9月期は修正後の目標に向かって堅調な推移を見せる。平田恭成代表取締役社長執行役員は「基礎収益として100億円の事業利益を安定して計上できる力が付いてきた」とし、下半期も衣料繊維と産業資材ともに施策を進める。中長期視点では衣料繊維でASEAN地域を強化する方針で、収益力のさらなる向上につなげる。

  ――この数年間で変わったことは。

 この4、5年を振り返ると、変化が激しかったという印象を持っています。中でも新型コロナウイルス禍は社会や企業にさまざまな変化をもたらしたと言えるのではないでしょうか。ビジネスが急にストップするケースもあり、最初の数カ月間はどのように経営のかじを取っていけば分からない状態でした。

 22年になるとロシアによるウクライナ侵攻が始まります。22年度後半からはコロナ禍もある程度落ち着きが見えたのですが、原材料の上昇や円安の進行などで難しい状況が続きます。かじの取り方が分からない状態からは抜け出せたのかもしれませんが、かじ取りを短い時間で判断しなければならなくなったのが、今だと思います。

  ――これから変えていくことは。

 これまでも取り組んできたことであり、変えていくとは言えませんが、一つは環境配慮型のビジネスをさらに加速することです。もう一つはデジタル技術で企業を変革するDXの推進やAI(人工知能)の活用などによって、もっと効率的に働ける仕組みを構築することです。

 環境に対する意識は、当社社員の間で高まりを見せていますが、それは顧客も同様です。リサイクルの推進に目を向ける顧客は増えていますが、複合素材のリサイクルを含めて帝人フロンティアが解決能力を持っています。さまざまな顧客とさまざまな検討を行っており、当社に対する期待も大きいと感じています。

 環境配慮を重視する流れは、衣料繊維だけでなく、産業資材でも強くなっています。例えば、自動車分野では部材のリサイクルに関する検討が進みつつあります。リサイクルシステムが動き始めるのにはまだ数年かかるかもしれませんが、着実に進展していくのではないでしょうか。

  ――そうした変化の中で収益力を高めてきました。

 21年3月期は医療従事者向けの医療用防護具(ガウンなど)の供給が大きく貢献し、175億円の営業利益を計上しました。その特需がなくなった翌22年3月期の営業利益は56億円となり、大幅減益を強いられました。不採算のビジネスをやめたことに加え、コロナ禍前の投資も実り始めたことで以降は収益力が高まります。

 23年3月期は約100億円の営業利益を計上し、今期(IFRS適用)は145億円の事業利益を計画しています。利益は市場動向や景気に左右されるので、「常に145億円の利益が計上できる」とは言えませんが、基礎収益として100億円を確保できる力は付いてきたと思っています。

  ――その今期も半分が過ぎましたが、事業を取り巻く環境は。

 衣料繊維は、国内は顧客の動きを見ると足元の状況は悪くないと感じます。ただし、夏の極端な暑さや恒常化する暖冬などの気候要因もあって不安定感は拭えません。海外に目を向けると欧州は厳しいのですが、少しずつ回復の兆しが出ています。米国は堅調に推移し、中国はハイエンドゾーンが堅調です。

 産業資材は、環境・インフラ関連(土木・建築)は底堅い動きを続けています。自動車関連は、国内は不正問題などで揺れましたが、年後半からは落ち着くと予想しています。海外は、米国は衣料繊維と同様に堅調です。その一方で欧州はいまひとつ勢いが感じられないといった状況でしょうか。

  ――そのような事業環境下での業績は。

 4~6月期は売上収益830億円、事業利益44億円で増収増益を確保しました。先ほどお話しした通り、年間の事業利益は145億円を計画していますが、当初見通しから20億円上方修正しています。4~9月期は上方修正後の数字を変更しなくても良いペースで着実に前に進むことができています。

 けん引役は衣料繊維です。国内のテキスタイル販売は“悪くはないが、大きく伸びていない”という水準ですが、海外は、ポリエステル長繊維を中心とする化合繊織・編み物を製造・販売する中国拠点の南通帝人が健闘しています。

 産業資材では、インテリア・寝装関連の生活製品本部のテレビ通販やEC(電子商取引)販売が順調でした。冷感寝具や除湿剤などが良好な動きを見せており、毎年収益が拡大しています。下半期以降に新たな手を打つということはありませんが、立てた計画に沿って進みます。

  ――中長期的な視点では。

 衣料分野は2、3年かけてASEAN地域での生産を強化します。タイの合繊織布・染色加工会社であるタイ・ナムシリ・インターテックスの収益強化を図り、インドネシアの拡充にも目を向けています。ニットが中心になりますが、早い段階で決定する方針です。

 ASEAN地域では製品の内販にも力を入れます。中国の次の市場としてベトナムの開拓を1年以上前から進めています。中国市場の販売もスタートした当初は「本当に売れるのか」という疑問がありましたが、現在は形になっています。同じようにベトナムの開拓に挑戦します。

 産業資材では、タイでポリエステル繊維を製造・販売するテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)を中心に強化します。

〈自身の変化を感じた時/飛距離が10~20ヤード〉

 還暦を超えて「ゴルフの腕が落ちてしまった」とこぼす平田さん。その一番の要因は飛距離が出なくなったことで、ドライバーショットは10~20ヤードほど落ちたと言う。自身のその変化にショックを受け、同社のウエアラブルゴルフレッスンソリューションの「マトウスゴルフ」を活用。クラブを構えたときの角度など、レッスンプロから「40年間、間違ったゴルフをしていた」という助言を得て改善に取り組んだ。その結果、飛距離は戻りつつあるのだとか。

【略歴】

 ひらた・やすなり 1985年日商岩井入社、2005年NI帝人商事繊維資材本部繊維資材第二部長、13年帝人フロンティア繊維資材本部繊維資材第二部長、14年繊維資材本部長、18年取締役執行役員、20年取締役常務執行役員などを経て、21年4月から代表取締役社長執行役員