2024秋季総合特集(12)/Topインタビュー/ダイワボウレーヨン 社長 巽 哲一 氏/特殊品と輸出で生き残り/早期に設備更新を

2024年10月21日 (月曜日)

 「原料事情も大きく変化し、もはや汎用品では戦えない時代になった」――ダイワボウレーヨンの巽哲一社長は指摘する。現在、日本で唯一のレーヨン短繊維メーカーである同社も、こうした変化に対応するために生産・販売品種の高度化を積極的に進めている。そのためには生産設備の更新も大きな課題。設備更新に向けた投資決定を早期に実現したい考えだ。

  ――ここ数年、繊維業界も環境が大きく変化しました。

 レーヨンだけを見ても、かつては防炎レーヨンの対米輸出が好調だった時期が長かったのですが、現在は需要が激減しています。新型コロナウイルス禍以降の世界的なインフレ高進と、それを抑えるために米国でも政策金利の引き上げが続けられたことが背景にあります。金利上昇によって住宅着工件数が減少し、それに合わせて防炎レーヨンの主力用途であるマットレス部材の需要も落ち込むという構図です。また、インフレを背景に各国の消費が低迷したことで汎用的なレーヨン短繊維の需要も落ち込みました。例えば、中国市場ではフェースマスクなどコスメティック用途の市況が良くありません。

 原料事情も大きく変化しました。近年、主原料である溶解パルプの価格が高騰し、カセイソーダなど副原料の価格も大幅な上昇を続けています。こうなると、もはや低価格な汎用品では利益率の面で戦えない時代になりました。

  ――それによって事業戦略も変わると。

 紡績用途も乾式不織布用途も汎用品では中国やインドのメーカーと価格競争をせざるを得ない状況ですから、非常に厳しい。やはり他社が作ることのできない特殊品で生き残るしかないと言えます。例えば難燃レーヨンや防炎レーヨン、練り込み技術による機能レーヨン、極細繊度レーヨンなどです。湿式不織布用のレーヨンショートカットファイバーも比較的競合が少ないため有望です。また、国内需要が伸び悩むのに対して、海外市場にはまだ拡大の可能性がありますから、輸出の重要性がますます大きくなりました。

  ――2024年度上半期(4~9月)も終わりました。

 非常に厳しい環境にあります。先ほど話したように原料価格上昇に加えて、物流費なども上昇したことによって製造原価が大幅に上昇してます。このため10月からもう一段の値上げに踏み切りました。

 不織布用途は販売数量こそ大きく減ってはいませんが、利益面が厳しい。防炎レーヨンの対米輸出も低迷しています。ただ、難燃レーヨンは官需関連も含めてアジア市場で販売が堅調です。紡績用途もまずまず。サステイナブル素材としてレーヨンへの関心が高まっていますが、需要が本格化するのはこれからでしょう。そうした中、当社はリサイクルレーヨン「リコビス」などの普及を進めました。原料サプライヤーと連携することで安定した供給が可能な体制を構築しています。海水中での生分解性も確認した「エコロナ」や、カーボンオフセット制度を利用したカーボンニュートラルレーヨンなども商品化しています。

  ――下半期に向けての課題や重点施策は。

 まずは工場の安定稼働を維持できるだけの販売量を確保することが大切です。そのためには輸出の拡大が重要になります。防炎レーヨンの市況回復にはもう少し時間がかかりそうですが、難燃レーヨンは引き続き堅調に販売できると考えています。官需関連だけでなくアジア地域でも安全意識の高まりによって作業服などに難燃素材が採用されるケースが増えており、需要が確実に高まっているからです。

 フェースマスクなどコスメ用途で高吸水や極細繊度など機能レーヨンの拡販に努めます。為替の面でも、円安傾向はやや弱まり、一時的に円高に振れる局面も増えてきましたが、それでも1㌦=140円までなら十分に輸出競争力を発揮できます。

 また、長年の課題である益田工場(島根県益田市)の設備更新投資も進めていかなければなりません。高経年化が進んでいるので、今後の事業継続のためにもできるだけ早期に具体的な投資の方向性や手順を決定し、着手したいと考えています。

〈自身の変化を感じた時/焼酎の銘柄を変える〉

 「単身赴任中なので買い物も自分でしています。すると最近のインフレをダイレクトに体感するようになりました」と言う巽さん。どうしても節約志向が強まってしまうのだとか。「いままで焼酎は『いいちこ』を飲んでいたのですが、昨年値上げされた。それでつい『かのか』を買うようになってしまいました」。ただし、「酒飲みなので、銘柄を変えても飲む量は節約できないのが問題」と笑う。

【略歴】

 たつみ・てつかず 1987年大和紡績入社。ライフスタイル部長などを経て2021年ダイワボウレーヨン入社、23年総務部長、24年管理部長、同年6月から社長