2024秋季総合特集(11)/Topインタビュー/新内外綿 社長 田邉 謙太朗 氏/シキボウとの連携で成果/海外拠点の人事交流も

2024年10月21日 (月曜日)

 シキボウグループの新内外綿の上半期決算は売上高、営業利益ともに前年並みとなったようだ。主力の紡績事業では、生産量は減っているが、製造コスト上昇分の価格改定を進めてきたことで、業績が改善している。定番糸が伸び悩む一方、顧客ごとに糸を開発する別注は増える傾向にある。親会社との人事交流も始まり、今後、製造、販売、両面での連携が加速しそうだ。

――この数年間での変化について。

 当社は杢(もく)糸を中心とする紡績糸の製造、販売が主力でこの事業が売上高の6割程度を占めます。次いで大きいのがアパレル小売りなどを取引先としてカットソーなどの衣料を供給する製品事業で3割程度、残りは協力工場で作るニット地の卸売り事業です。

 当社が2021年7月にシキボウの完全子会社になったことは大きな変化のきっかけとなりました。両社とも綿花を主な原料とする同じ紡績業ですが、それぞれの顧客や販売する糸の性質は大きく異なります。

 シキボウはユニフォーム、シャツ、寝装品といった織物製品に向いた均質性が高く細い糸を得意とするのに対し、当社はファッションに味わいをもたらす多彩な糸を得意としています。とりわけ異なる色のわたを混ぜて紡績する杢糸は、当社が日本で初めて製造したとあって、最もノウハウが豊富な商材です。

 シキボウグループとなり3年が経ち、展示会の共同出展や販路開拓での連携、糸の共同開発など親会社との製造、販売、両面での連携が着実に進んでいます。

――これから変えていくことは。

 近年、SDGs(持続可能な開発目標)が浸透し、ファッションビジネスでも、さまざまな観点から地球環境に貢献する取り組みが求められるようになりました。こうした時代の価値観の変化に合った商材をそろえることが欠かせません。

 既に、オーガニック綿糸の打ち出しを強めたり、あるいは綿花畑や生産者までトレースできる糸の輸入販売を始めたり、さらには従来、廃棄されてきた天然繊維から糸を作ることにも力を入れています。

 これまで竹、ヘンプ、葦(ヨシ)といった植物繊維を当社ならではのノウハウで、綿と混ぜて衣料品に遜色なく使える糸にして販売しています。現在、新たにパイナップルの葉脈繊維と綿を混ぜた糸の開発が最終段階に入っており、近い将来には販売が可能となるでしょう。

 親会社との連携では双方の海外拠点も含めた人事交流が始まりました。当社は海外子会社としてタイに、レンチング社の素材を扱う繊維商社、JPボスコがあり、シキボウから社長を迎えました。逆に、当社からはシキボウ上海に社員を出向させ、こうした人事交流から新たな商流が生まれることを期待しています。

――上半期(24年4~9月)の商況と下半期の方針は。

 売上高は前年並み、営業利益も少しずつですが改善の兆しが見られます。あらゆる製造コストが上昇する中、ここ数年、取引先に向けて糸値の改定をお願いしてきたことで、数量は減っても業績維持、利益面が改善しつつあります。定番となる杢糸は減り、別注品が増えています。独自性のある糸を、小量多品種生産で対応することが求められます。

 製品事業は、Tシャツやカットソーが多いので売り上げが春夏に偏る傾向があります。そのため、パーカなど冬のアイテムの提案に力を入れることで、通年で安定した注文が入るよう努力しています。下半期も、紡績ならではの糸から個性を付けた、当社でしかできないアイテムで取引先を増やしていきます。

――アパレルブランド「mocT」(モクティ)の現状は。

 モクティは杢糸を国内で初めて作った老舗紡績のアパレルブランドとして20年にスタートしました。国内に加え海外でも販売実績が出て、当社の杢糸の魅力を伝えるというブランドコンセプトはある程度、浸透したと感じています。

 次のステップとして、杢糸に縛られず、当社の糸のバリエーションを知っていただく新たな“見せ方”を研究しています。これまでグレーや白が主体でしたが、多色使いのアイテムを今開発しています。

〈自身の変化を感じた時/愛犬の老いに自身を重ねる〉

 一呼吸おいて「老化ですかね」と田邉さん。「愛犬がもうすぐ14歳で、散歩していても、本人(犬)は走っているつもりなんでしょうけど、実際はふらふらで…自分が重なります」。仕事外では学生時代から今もバンド活動を続けている。毎年、意欲的にステージに立つ。「助っ人として他のバンドに入ると興味が無かった曲でも聴き込むとだんだん好きになって、覚えたり、上達したりできる」と言う。何事にも興味や関心を持って取り組み続け、気持ちを若く保っている。

【略歴】

 たなべ・けんたろう 1985年、新内外綿入社。2013年取締役紡績部担当、18年取締役兼常務執行役員紡績部・テキスタイル部・製品部担当兼開発・マーケティング部長、20年取締役兼常務執行役員紡績テキスタイル部・製品部担当。21年6月に代表取締役兼社長執行役員就任。京都府出身