2024秋季総合特集(7)/Topインタビュー/大和紡績 取締役産業資材事業本部長兼製品・テキスタイル事業本部長 青柳 良典 氏/スピード感持って意思決定/業界動向によらない開発強化

2024年10月21日 (月曜日)

 今期(2025年3月期)から資本関係が変わり、事業投資会社の支援のもと新たなスタートを切った大和紡績は、数年後のIPO(新規株式上場)に向けてまい進している。青柳良典取締役は「企業価値を高め、成長させていくための判断をしっかりとして、選択と集中で行動していく」と話す。その上でも重要なことは「意思決定のスピード感」。これを磨きながら成長分野への投資を加速する。「全般的には着実に前期よりも上向いている」として、業界の動向に左右されない独自性の高い開発に力を入れながら、収益力の向上に取り組む。

――この数年で大きく変わったことは。

 やはり当社にとって、ダイワボウホールディングス(HD)グループからアスパラントグループ(東京都港区)へ資本関係が変わり、それをもってわれわれ自身が変わったことが挙げられます。企業価値を高め、成長させるための判断をしっかりとして、選択と集中で行動していくことが基本になります。ダイワボウHDから離れ独自の体制になったことで、意思決定のスピード感をもっと生かしていきたい。まだまだ変化の途中ですからできていないことも多いですが、社員と一丸となって収益を上げる体制へと改革を進めています。

 独立化を発表してから、有地邦彦社長をはじめ、われわれ経営陣が従業員に説明をしながら、理解を深めるコミュニケーションを取ってきました。今は従業員と一緒になって頑張っていこうという雰囲気が醸成されつつあります。

――これから変わろうとするところは。

 技術力を生かせる部分をもっと伸ばしていきたいと考えています。今期は合繊事業がインバウンド需要の活況で、制汗シートやフェースマスクなど不織布製品の販売が好調です。これらは事業部と播磨研究所(兵庫県播磨町)、取引先がしっかり連携できていることで、順調に収益を伸ばせています。技術力によって収益が出ない商品から出る商品へとどんどん切り替えていきたい。まだまだ改善していかなければいけない部分はあり、半歩も進んでいない状況ですが、しっかり改革を進めていきます。

 そして収益力を高めていくことも重要です。産業資材事業では電子部品向けカートリッジフィルターが一時期、シリコンサイクルの影響を受け、稼働率が低下したこともありましたが、回復基調にあります。播磨研究所での研究と出雲工場(島根県出雲市)を連携させながら、高機能化を進めています。

 播磨研究所では合繊、産業資材、製品・テキスタイルの各事業分野横断で基礎研究や商品開発に取り組める体制が構築できており、具体化に向けて動いている開発案件が幾つもあります。

――上半期を振り返ると。

 先述したように制汗シート、フェースマスクの売れ行きが好調なことで、合繊事業がけん引しています。海水中生分解性を確認し、国際認証も取得している「エコロナ」や、廃棄綿布を原料としたリサイクルレーヨン「リコビス」といった環境配慮型の素材への需要も高まっています。

 製品・テキスタイル事業も同様で、リサイクルポリエステルを米綿で包んだ2層構造糸「ツインレット」といった環境配慮型素材の採用が増えています。インナー製品を中心とした対米輸出も回復してきました。国内向けのOEMビジネスも今夏はそれなりに気温が上昇したこともあり健闘しました。

 産業資材事業は凹凸があります。電子部品向けカートリッジフィルターは取引先の工場の稼働率が高まり、数量ベースでは回復しつつあります。価格改定の効果も下半期から出始めると思います。パッキン材などゴム製品分野も自動車・建機に向けて伸びています。

 土木シートの販売は公共工事の減少で苦戦しています。建材のコストアップや、何よりも暑すぎて工事がストップしたという話も聞きます。カンバス・メッシュベルトも不振です。新聞の購読者が減っていることに加え、中国での景気悪化で中国の製紙メーカーが東南アジア市場で攻勢をかけている影響が出ています。

――下半期に向けては。

 やはり順調でない分野をしっかりと軌道に乗せていかなければいけません。特に産業資材事業のカンバスは主力の製紙メーカーに対しいかに商権を維持するかとともに、技術を生かして搬送用途などに使われるプラスチックメッシュベルトといった他の分野への開拓も進めます。インドネシアのダイワボウ・インダストリアルファブリックス・インドネシア(DII)を通じて日本だけでなく現地を含めた海外販売にも取り組んでおり、生産キャパシティーまで十分稼働させる運営ができています。

 全般的には着実に前期よりも上向いています。順調ではない分野をしっかり軌道に乗せていくとともに、これから播磨研究所での研究成果が発揮されそうな分野は、攻勢を一段とかけていきます。特にフィルターでは新型の開発や、高性能化によって、業界の動向に左右されない独自性の高い開発をもっと進めていきます。

 製品・テキスタイル事業は流通の再編や、一部のGMSが赤字になるなど、その影響が衣料の販売にどう及ぶのかに注視しています。生分解性のポリエステル繊維使いの生地「パルテラ」、米綿100%の「テキサス7」をはじめ、環境配慮やトレーサビリティーに対応した素材を充実させ、市場のニーズを捉えていきます。

――合繊事業では国際販売室を軸に輸出拡大に取り組んでいます。

 日本からの輸出だけでなく拠点のあるインドネシアを軸にアジアへの市場開拓を進めています。当社はシリカ系防炎剤練り込みレーヨン短繊維「FRコロナ」といった特殊な素材も多く展開しており、海外への販路開拓のきっかけをつかんでいきたいと考えています。

〈自身の変化を感じた時/くっきり見える〉

 「9月前半に白内障の手術をした」という青柳さん。いつの間にか書類が見えづらくなり、眼鏡の度数を上げても改善しなかったことから、詳しく検査すると白内障だった。左目と1週間空けてから右目をそれぞれ手術したが、「くっきり見える」と感激。左目だけ手術して分かったことが、「いかに白色が黄ばんで見えていたか」ということ。今では社内でも眼鏡をかけずに過ごしている。白が奇麗な白に見える。当たり前のことだが、「ここ10年ぐらいない感動を覚えた」。

【略歴】

 あおやぎ・よしのり 1983年4月ダイワボウホールディングス(旧大和紡績)入社。2010年10月ダイワボウノイライフスタイル部長、11年6月同社取締役、14年4月ダイワボウプログレス取締役、16年6月同社常務取締役、20年4月大和紡績取締役(現任)