世界最強工場へ ~東レTSD30年の歩みと未来への挑戦(下)

2024年10月18日 (金曜日)

次世代幹部の育成へ

 東麗酒伊織染〈南通〉(TSD)は北京五輪後も、商品と商流の高度化を図りながら、業容を拡大させていった。中国内販、欧米、日本大手SPA向けの服地に加え、エアバッグ基布などの非衣料分野の開拓にも力を入れた。

 2016年からはスマートファクトリー化に着手する。染工場の省力化と効率化を目的としたIT技術やビッグデータの活用、設備自動化を本格化した。これらが軌道に乗ったことから翌年末、織布・編み立て工場も含めた「全社業務革新活動」を始動。不合理な作業の改善による効率アップや、危険物、重量物搬送の自動化、設備運転管理のシステム化、生産状況の見える化に取り組んだ。

 スマート化は、業界トップレベルに達した。日本能率協会から「ICT活用により各ラインの状況や異常の見える化が進められ、タイムリーにPDCAを回している」ことが評価され、「2019年度グッドファクトリー賞」を受賞した。

 18年には、東麗合成繊維〈南通〉(TFNL)と東麗繊維研究所〈中国〉(TFRC)との連携を強化した。TFNLが設備改造による製品の高度化に乗り出したことを機に、3社で一体となって素材の高度化、多品種化を加速し、研究開発から製品投入までスピード感を持って取り組む体制を整えていった。付加価値志向を高める地場スポーツブランドに向け、3社連携で開発した差別化織物を拡販し、成果を上げた。

 20年1月末から新型コロナウイルス禍が広がり、中国のほぼ全ての工場が休業の憂き目に遭った。TSDも例外ではなかったが、地場や台湾系のライバル工場が再稼働にもたつく中、同社は2月下旬にはいち早く操業を再開した。地元政府との信頼関係や危機管理能力がなければなし得ないことだった。

 前述の通り、同社は21年度に早くも業績を成長基調に戻し、今年度は6年ぶりに過去最高益を更新する可能がある。「市況の低迷を受け、定番品が厳しくなる一方、差別化素材のニーズは拡大している」(東レ中国事業の統括会社、東麗〈中国〉投資董事長兼TSD董事長の三木憲一郎氏)ことが好調の背景だ。

 中国でもまれな、ハイレベルの工場に成長した同社は今後、世界一を目指す。その実現の鍵を握るのが、次世代幹部の育成と編み物事業の拡大、さらに「コンバーティング事業」の強化だ。

 同社は人材現地化に成功している。総経理を筆頭に、大部分の幹部をナショナルスタッフが務める。一方、次世代の幹部の育成が課題だ。そのため「2、3年以内に採用と育成の構造を作る」と三木董事長は述べる。

 編み物の生産は16年後半から本格化したが、現状は織物の売り上げ比率が圧倒的に大きく、伸び代がまだまだある。そのため、付加価値の高い編み物の開発とそれを実現するためのサプライチェーン構築、プロモーション強化に取り組んでいく。

 生産キャパシティーを大幅に拡大することが物理的に難しい中、今後の成長の鍵を握るのが外注工場を活用したコンバーティング事業だ。そのため、東麗国際貿易〈中国〉(TICH)との連携に乗り出した。TICHが培ってきた中国でのコンバーティング事業の知見を生かし、同事業の拡大を加速していく。(おわり、上海支局)