世界最強工場へ ~東レTSD30年の歩みと未来への挑戦(上)

2024年10月16日 (水曜日)

グループの“エース”に成長

 東レの中国法人で、合繊織・編み物の製布・染色加工・縫製および販売を行う東麗酒伊織染〈南通〉(TSD)が8月、1994年の設立から30年の節目を迎えた。当初は赤字続きだったが、この10年でグループに欠かせないエース級の工場に成長した。同社の歩みを振り返り、未来を展望する。(上海支局)

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 東レの中国での繊維事業は、江蘇省南通に拠点を置くTSDと合繊長繊維製造販売の東麗合成繊維〈南通〉(TFNL)、研究開発拠点の東麗繊維研究所〈中国〉(TFRC)に、上海の商事会社、東麗国際貿易〈中国〉(TICH)を加えた4社を中心に展開している。

 中でもTSDは、売り上げ規模が最大の中核的存在だ。合繊長繊維の織布から編み立て、染色加工、サンプル縫製まで一貫展開する。同じ敷地内にあるTFNLとTFRCと連携し、開発に取り組めることが強みで、ライバルが手掛けない高付加価値品を生産している。

 ある東レのベテラン社員は「グループの宝のような存在」と述べる。別の幹部は「東レ社員だったら一度は働いてみたい工場」と評価する。

 同社の社員数は約1700人で、月産能力は織布が1500万㍍、編み立てが300万㍍。国内外のスポーツ、カジュアルブランドや日系大手SPA向けの服地のほか、自動車エアバッグ用基布などを生産する。規模では地場大手メーカーに劣るものの、開発力から技術力、製品の品質、デジタル技術で企業を変革するDX活用、環境対応、販売力、ブランド力までさまざまな面でトップクラスと言える。

 もっとも最初から順風満帆だったわけではない。1996年に稼働してから10年間は赤字が続いた(表参照)。2000年から自販を始めるも、地場メーカーとの価格競争に巻き込まれ、販売単価は下がり続けた。

 転機は07年に訪れた。内部要因(工場管理の現地化や生産体制の再構築、製品の高度化)に、外部要因(08年の北京五輪を契機とした地場スポーツブランドの台頭)が重なり、反転攻勢に出た。

 10~18年度までは9期連続で最高益を更新。19年度と新型コロナウイルス禍が始まった20年度こそややもたついたが、21年度に早くも成長基調に戻した。今年度は中国経済が振るわないにもかかわらず、6年ぶりの最高益更新を視野に入れている。