合繊メーカー/背景に需給構造、資本政策/構造改革が加速
2024年10月11日 (金曜日)
近年、合繊メーカーの繊維事業の構造改革が相次ぐ。事業の縮小・撤退や生産設備の再編が加速しており、業界地図も大きく変わりつつある。背景にあるのが、事業環境悪化だが、資本政策上の要請も大きい。(宇治光洋)
近年、最もドラスティックに動いたのは三菱ケミカルグループ。2023年にアクリル繊維事業から撤退し、24年9月にはトリアセテート繊維事業を25年3月にGSIクレオスに譲渡することを発表した。これにより繊維関連事業は炭素繊維だけとなり、事実上、衣料用繊維から撤退することになる。アクリル繊維は日本エクスラン工業(岡山市)も不採算・低採算品の販売を大幅に減らし、生産能力も縮小した。
不織布分野では東レがプロピレンスパンボンド不織布の生産規模適正化に着手し、三井化学と旭化成は23年に不織布事業の合弁会社、エム・エーライフマテリアルズ(東京都中央区)を設立した。クラレクラフレックス(大阪市北区)は乾式不織布から撤退し、メルトブロー不織布も生産能力縮小を発表した。東洋紡エムシーも短繊維不織布製造子会社である呉羽テック(滋賀県栗東市)をニッケに売却した。
ポリエステル短繊維は東レが愛媛工場(愛媛県松前町)の連続重合・直接紡糸設備の停止を決めた。その他、テキスタイルではクラレトレーディングがワークウエア向けから撤退し、東洋紡せんいもワークウエア向け短繊維織物の販売を大幅に縮小している。生産も国内の紡績拠点だった入善工場(富山県入善町)と井波工場(同南砺市)を休止し、織布・染色加工の庄川工場(同射水市)に一部移管・集約した。
構造改革が相次いだ背景にあるのが事業環境の悪化だ。ここ数年、世界的なインフレ高進で原燃料価格が上昇し、物流費や人件費も増加することで生産コストは上昇の一途をたどった。一方、やはりインフレを背景に需要は伸び悩んでおり、国際市場では中国企業との競争が激化した。このため販売量の減少と利益率の低下に見舞われた。
こうした中、各社とも値上げにより採算の改善に努めながらも、もはや汎用品では事業継続が難しいという判断に至る。高付加価値品のウエートを高めながら、採算を維持できる生産規模を模索する動きが強まった。
もう一つ大きな要因が資本政策だ。近年、株主からは投下資本利益率(ROIC)など資本効率を高めることが強く求められるようになった。このため繊維事業も、たとえ黒字でも十分な利益率がなければ継続する意義が問われる。既に合繊メーカーは総合化学企業となっており、繊維事業は一事業に過ぎなくなっていることがこの傾向に拍車を掛ける。
今後は、さらなる高度化・高付加価値化によって利益率を高めることが事業継続の絶対条件となる。現在進められている構図改革は、そのための基盤整備ともいえる。