ベトナム北部の水害/9月前半は輸出減少/GDP0.5%押し下げも
2024年10月03日 (木曜日)
9月上旬にベトナム北部を直撃した台風11号(国際名=ヤギ)の経済への影響が広がっている。税関総局によれば、9月1~15日の輸出額は140億㌦で前年同期比3%減だった。15%増だった8月から一転してマイナスとなり、北部で外資系企業が主導する電子産業の生産が落ち込んでいることを裏付けた。台風被害は製造業だけでなく農林水産業や観光業にも及んでおり、三菱UFJ銀行は2024年のベトナムの国内総生産(GDP)を0・2~0・5%押し下げる可能性があると予測している。
単月の輸出額は3月以降、2桁%の伸びで推移している。9月は後半に挽回できず月を通じてマイナスとなれば、テト(旧正月)のずれの影響があった今年2月を除くと23年8月以来の前年割れとなる。
輸出額は8月後半と比べると3分の2に減った。税関総局の機関紙は具体的な分析はこれからとしつつ「台風の影響は否定できない」と指摘する。
台風被害は主要な輸出品目に軒並み影を落としている。北部に中国や韓国系工場の集積が進む電子・電子部品は、年明けから3割近いペースで増加してきたが9月前半は1%増にとどまった。2割ペースで成長してきた機械・機械設備は4%増に減速した。
落ち込みが大きかったのは23%減の電話・電話部品。バクニン省とタイグエン省でスマートフォンを量産しているサムスン電子のサプライチェーンに影響が及んでいる可能性がある。
〈災害の「ニュー・ノーマル」に備えを〉
輸出額の減少幅は、加工製造業の中核で輸出の7割を占める外資系企業に限ると5%に広がる。在ベトナム日本大使館などの調査によれば、12日午後時点で何らかの被害を受けた日系企業は166社に上った。うち69社は事業活動に影響を受けていると回答した。
東レが出資する香港の繊維大手、互太紡織控股(パシフィック・テキスタイルズ・ホールディングス)は9月11日、北部ハイズオン省の工場が被災し、生産を停止したことを明らかにした。復旧まで約4週間を見込む。
三井住友海上火災保険のベトナム現地法人MSIGインシュアランス・ベトナムではこれまでに、損害保険の顧客である日系製造業の工場を中心に約200件の被害報告を受けた。
清水真副社長は「窓が割れたなどの被害が多いが、屋根が吹き飛び屋内の在庫や製造設備が雨水で濡れた工場もある」と明かす。清水氏は台風のシーズンはまだ終わっていないとして屋根の補強や軽量な資機材の固定などの事前準備や、万一屋内が浸水した場合のアクションプランを事前に見直しておくことを推奨している。
被害を受けたのは日系企業だけではない。南部ホーチミン市に拠点を置くコンサルティング会社CELが9月15日に発表した報告書によれば、調査対象216社のうち、事業活動の停止など深刻な影響を受けている企業は15・4%、軽微な影響は53・6%だった。深刻な影響を受けている企業のうち73・3%はサプライチェーンの断絶や物流の停滞によるものだった。
CELのジュリアン・ブルーン・マネージングパートナーは「台風11号のような災害はもはや例外的とは言えなくなっている。『ニュー・ノーマル』に備えたサプライチェーンの見直しが必要だ」と警鐘を鳴らす。
政府は9月15日時点で被害総額を40兆ドンと試算し、24年通年のGDPを0・15%下押しすると発表したが、損失はさらに膨らむ可能性がある。
三菱UFJ銀行は9月16日に発表した報告書で、24年のGDP成長率への影響は0・2~0・5%とし、成長率予測を従来の6・1%から5・8%に引き下げた。25年については6・5%から6・8%に引き上げた。
同行は復旧までの期間をおおむね2~3カ月と想定しているが、長期化すればハイフォン市やクアンニン省を中心とした輸出製造業などの回復がずれ込み、24年の成長率の押し下げ幅は0・9~1・5%に広がるリスクがあると指摘している。
[NNA]