特集 介護ウエア(1)/人材の確保と定着に一役

2024年09月30日 (月曜日)

 厚生労働省が今夏まとめた第9期介護保険事業計画では、今後必要となる介護職員数を2026年度に約240万人、40年度には約272万人と試算する。介護を必要とする人たちが毎年大幅に増える一方、介護関連施設では担い手となる人材の確保と定着が喫緊の課題となっている。その解決策の一つでもある働く環境の改善に当たっては、ユニフォームも大事な役割を担う。

 繊維ニュースでは8月までに介護ウエアを手掛ける主要メーカー11社に対し、現在の介護ウエア市場における課題についてアンケートを実施した(グラフ)。

 それによるとメーカーにとっては現在、円安、原燃料高に伴う製品値上げが引き続き大きな影響を及ぼしていることが分かった。中には「商品数を絞り、汎用性の高い商品展開を心掛ける」といった対策を行うメーカーもある。

 次いで介護スタッフ不足だ。介護施設は、経営状況が厳しい事業者が多く、そのことが待遇面や職場環境の改善に影響し、さらには採用数や定着率の向上につながらないという負の連鎖に陥っているケースが見受けられる。ユニフォームについては、スタッフが私服で対応するケースや、他業種と比較して製品の価格面だけを重視する傾向も根強く残っているとされる。

 一方、魅力ある職場づくりの一環として、快適な着心地のウエアやブランディングを目指し統一感あるユニフォームを積極的に検討しようとする事業者も徐々にではあるが増えてきている。「介護スタッフの疲労やストレスによるメンタルヘルスの改善をポイントに挙げ、モチベーションが上がり元気の出るユニフォームを求めるケースもある」との声もメーカー側から出ている。

 今年度の介護報酬改定による影響については、「処遇改善に重点が置かれており、インフレによるコストアップを考慮するとユニフォームの調達に予算が回るかどうかは不透明」との見方が多い。

 介護ウエアの着用者は今後も増加していくことは間違いない。ただ、それ以上に要介護者が増加しており、慢性的な人手不足はしばらく解消されることはないだろう。その中でも職場環境改善への意識の高まりは着実に広まっている。ユニフォーム導入の機会には、運営事業者に対して品質に見合った価格でどれだけ優位性を示せるかがポイントとなってくる。

〈胎動するケアウエア市場〉

 他方、地域包括ケアシステム構築に伴う在宅療養の促進でケアウエアへのニーズが高まりつつある。介護保険制度の要介護・要支援認定者数が715万人を超える中、患者のQOL(生活の質)向上と、家族、介助者の負担軽減に貢献する製品開発に注目が集まる。

 白衣生地、リネンサプライ向けウエア製造の冨士経編(福井県鯖江市)は、生地から縫製まで一貫して手掛けられる技術ノウハウを生かし、着る人と着せる人双方の視点から機能、デザインにこだわった自社ブランド「ケアム」を展開。

 縫製業のKUTO(松江市)は、介助する人が着せやすい服ではなく、障害のある人も自分で着ることができる服との考えに基づくインクルーシブウエアブランド「スルースリーブ」を立ち上げている。

 アパレルの着圧測定で活用されるスマートテキスタイルの技術を介護用品に応用するケースも見られる。画像処理検査装置開発を手掛けるタカノ(長野県宮田村)の「圧力分布センサシステム」を活用した介護向けシーツは、体圧の分散状況を感知し、寝返りや立ち上がり、転落、離床といった動きをタブレット一つで最大30床まで確認できる。

【アンケート協力メーカー】

アイトス、明石スクールユニフォームカンパニー、カーシーカシマ、KAZEN WLD、サーヴォ、シーユーピー、住商モンブラン、セロリー、トンボ、ナガイレーベン、ボンマックス(五十音順)

〈介護現場で広まるアシストスーツ〉

 多くの介護スタッフが抱える悩みの一つが腰痛。食事や着替え、移乗に加え、入浴、排泄も含めて介助動作は肉体的負担が予想以上に大きい。このことから介護施設事業者が安全衛生の観点からアシストスーツ(AS)を導入するケースが増えてきた。人材の確保と定着という面での効果も期待できる。

 ユーピーアールのASブランド「サポートジャケット」のBb+(バックボーンプラス)シリーズは、第2の背骨となるBb+が理想的な姿勢に導きながら、大きな腰ベルトで背骨と腹筋、背筋を包み込むことにより、腹圧が保たれ、作業時の腰や背骨への負担を軽減する。さらに膝から腰にかけてのゴムベルトにより、作業時における前屈姿勢や起き上がりの力をサポートする。介護をはじめ、農業、製造、物流、建設など、さまざまな業種に広まりを見せている。

 空気圧機器製造のコガネイ(東京都小金井市)は、主力事業の技術を活用したAS「アシストランバー」を開発し販売を始めた。介護、農業、物流分野に訴求する。

 駆動源は独自開発した空気圧人工筋肉「ニューマッスル」。直径10ミリのチューブに付属の手動ポンプで空気を注入することによって1本につき40ニュートンのけん引力が発生し、中腰作業や前傾姿勢時の腰部の負担を軽減する。

 スーツ内部に設けた独自の滑車機構「ラムダテンションシステム」は、アシスト力を腰部に集中させるとともに、歩行時に脚に伝わる力を分散させるため大きな開脚動作もスムーズに行うことができる。

 本体重量は700グラムと軽量で、装着時間は約1分。アシスト力の解除と復帰は肩ベルトだけで操作できる。付属の洗濯機用バッグに入れれば丸洗いも可能だ。