特集 アジアの繊維産業(4)/ベトナム/強まる付加価値化の流れ/糸・生地からの差別化など
2024年09月27日 (金曜日)
日本や欧米の衣料品アパレルの縫製地として確固たる地位を築くベトナムだが、2023年は欧米からのオーダーが急減したことで工場閉鎖や人員削減が相次いだ。昨年後半から徐々にオーダーは戻り、一部では縫製スペースの奪い合いも発生するようになった。
一方、対日縫製品輸出の23年は、新型コロナウイルス禍からのリベンジ消費で活況を呈したが、それも一巡、今は分野やアイテムによって濃淡はあるものの、全体として一服感が漂っている。在ベトナム日系繊維企業の直近業績は総じて堅調だが、安価な縫製品が周辺のミャンマーやカンボジアにシフトしていく動きが強まっていることなどから、「付加価値化がベトナムの方向性」との見方で一致する。
〈日系各社の業績は堅調/地産地消の流れ捉えて〉
帝人フロンティア〈ベトナム〉の今期業績は増収増益の見込み。衣料品縫製受注が好調だが、生産スペースの確保が課題になっている。今後のミッションは衣料品や同国製人工皮革生地の内販、輸出の拡大とする。
ユニチカトレーディングベトナムは、「23年度後半は厳しい状況だった」と振り返る。しかし、今年に入って受注は回復しており、法制変更なども落ち着き、「実商売に専念できる環境になった」と言う。今後は新規加工場の開拓、品質管理体制の強化、社員(現地スタッフ)教育の充実――に重点的に取り組む。
トーレ・インターナショナル・ベトナムの上半期は、主力の生地コンバーティング事業が好調に推移し前期比増益。「ベトナム繊維製造業の重要性は継続する」として、中国品のリプロ生産ができるよう、生産技術を引き続き引き上げていくことに注力する。
ヤギ・ベトナムの直近業績も、中国によるミャンマーからベトナムへの生産移管などを背景に前期比で拡大した。スポーツやユニフォーム、レディースカジュアルなどが増えた。今後の現法のテーマには内販や第三国向けの拡大を挙げる。重視するのは糸・生地で、ローカルブランドへの日本製生地・韓国製生地の提案に力を注いでいる。
伊藤忠グループのプロミネント〈ベトナム〉も今期業績は前期比で微増収微増益、計画比でトントンになる見込み。対米シャツ輸出が復調したほか、対日ではユニフォームやカジュアルが苦戦したもののスポーツで伸ばした。引き続きグループ連携や糸・生地からの差別化提案で内販や第三国向けの拡大を狙う。
副資材の島田商事ベトナムの24年1~6月は計画通り前期を上回った。対日縫製品向けはユニフォームやカジュアルが苦戦を強いられたが、大手SPA向け、脱中国の流れを捉えた欧米向けなどが伸びた。販売する副資材の95%が現地製という強みを生かし、強まる地産地消の流れを今後もつかんでいく。
清原ベトナムの24年1~7月は、前年同期比30%増と好調だった。手芸関連も伸びた。現地スタフの営業力の育成に取り組みながら、「組織的に素早く精度の高い発信」を心掛け、さらなる事業拡大を目指す。
〈シキボウベトナム/現地で糸備蓄開始〉
シキボウベトナムは年内をめどに現地で綿糸の備蓄販売を始める。地産地消と差別化品ニーズの高まりに対応したもので、対日縫製品向け、現地アパレル向け、欧米など第三国向けそれぞれの販路開拓を狙う。
今年1月の法人化の成果として、現地製生地の受け渡し(販売)が始まった。藤井靖之社長によれば生地は丸編み地で、パジャマ向けと言う。
2月下旬には、ホーチミンで初開催された繊維品の総合展「ベトナム国際アパレルファブリックス&繊維関連技術専門見本市」(VIATT展)に出展し、インドネシアやタイ、日本のシキボウグループと連携して差別化糸を中心に訴求。手応えはかなり大きく、改めてベトナム国内で差別化糸とその糸で作った生地のニーズが高まっていることを感じた。
このニーズの高まりを受けて現地で綿糸を備蓄販売することを決めた。現地で倉庫を借り、精紡交撚糸や細番手糸など「シキボウ品質」の綿糸10品番ほどから始める。
まずは対日縫製品向け現地工場への販売から拡大させ、その先に現地アパレル向け、欧米市場向けの開拓も狙う。
〈豊島ベトナム/地産地消ニーズに応え〉
豊島ベトナムの2024年度上半期は、前年同期比増収増益となった。今後は付加価値提案に改めて力を注ぐとともに、環境変化に対応してサプライチェーンの拡大に臨む。
上半期は、縫製品ではユニフォームが好調に推移し、素材では副資材や原糸販売で定番アイテムの受注が増えた。また雑貨など新規商材の販売も少しずつではあるものの増えてきていると言う。
最近の受注傾向として、「商品リクエストが多種多様になっている」と同社。またスペースの埋まった工場と運営が厳しい工場との二極化も進んでいることから、新しい優良仕入れ先を広域で探す動きを強めている。同時に、サステイナビリティーも関係して広がりを見せる地産地消ニーズの浸透に対しても、「コスト、納期、ロット、品質管理などが簡単ではないが、将来性のあるキーワードと捉え、引き続き挑戦していく」とする。
人件費などコスト高については、「コスト構造の変化に惑わされにくい」機能性のある付加価値品の提案を心掛ける。それにより安価な中国品との差別化が図られるとする。
〈STXベトナム/蝶理とのシナジー発揮〉
STXベトナムの1~7月は、前年同期比増収だったものの減益で推移した。
蝶理の縫製品OEM部門との統合から1年が経ち、蝶理グループのベトナム縫製品生産の工場背景整理や効率化が進んでいる。統合によって、これまで主力だった高級婦人服に加え、スポーツとインナーのビジネスが増えた。その素材や副資材をベトナム国内で開発、調達する頻度が増している。
円高基調を背景に日本への生産回帰現象が一部であり、対日は全体として苦戦を強いられているが、昨年移転を済ませたSVLファクトリー〈ロンアン〉は婦人の中軽衣料を中心に受注を拡大しており、生産ライン拡大も検討する。
米国のGMS向けは復調傾向にあり、とりわけ綿糸販売が拡大している。
内販ではベトナム現地婦人服ブランドのOEMがスタートした。素材提案を含めた製品販売に「昇華させていく」。
コスト構造の変化に対しては、生産効率の向上、品質の安定、QR対応を改めて追求するとともに、素材・副資材からの付加価値提案を充実させる。
〈MNインターファッションベトナム/第三国向け拡大へ〉
MNインターファッションベトナムの上半期は、対日が堅調で、輸出も回復、内需の引き合いも増えつつある。ただ好調だった対日は、リベンジ消費が一服したことが関係してやや落ち着いた様相になってきていると言う。
今後のテーマは対日以外のビジネス拡大。内販とグローバル取引の拡大に取り組んでいく方向性を鮮明にする。
幸い、ベトナム国内市場の景況感は上向いている。素材の現地調達を推進するなどコスト対応に工夫を凝らしつつ、「付加価値の高い商品の開発に注力」する方針だ。設備投資も踏まえた生産の効率化にも取り組んでいく。
グローバル取引拡大に向けては、グループ内の販売対応窓口である中国現法(中国内販)、香港現法(欧、米、豪向けなど)と連携したベトナム生産などを既に進めており今後も増やす。
ベトナムでもサステイナビリティーやトレーサビリティーの意識が高まっているため、「目先のコスト競争に引っ張られることなく、優位性のある商品開発と提案が重要になる」とする。