特集 アジアの繊維産業(3)/インドネシア/生産と消費の両面で期待/付加価値ある商材開発進む
2024年09月27日 (金曜日)
インドネシアは中国、ベトナムに次ぐ、生産地として世界の注目を集めている。若い働き手も多く、有望な消費市場でもある。同国内での“地産地消”を見据え、新たなサプライチェーンの構築や現地での高付加価値素材の開発に乗り出す日系繊維企業は年々増えている。
日系繊維企業がインドネシアに進出して半世紀余りが経つ。本来、現地やASEAN地域で汎用的な生地のビジネスをする狙いで総合商社とメーカーが合弁で発足するケースが多かったが、現在その役目は価格競争力のある中華系企業やローカル企業が担っている。
1985年のプラザ合意以降、日本の繊維生産地が海外へと移転するようになり、インドネシアでは現地市場への素材供給よりも、日本市場で流通する製品に対して安く素材を供給する“持ち帰りビジネス”のための生産拠点として、その役割が変わってゆく。
だが、この10年ほどで日本市場の伸び代が少ない状態が続いており、現地でいかに高付加価値の素材を開発し、日本だけでなく現地やインドネシアから海外市場へとビジネスを広げるかをテーマとする日系企業が増えてきた。
GDP成長率5%台を継続するインドネシアでは、消費者の暮らしが豊かになってきたことで、日系企業の高機能素材のニーズが現地でも出始めている。豊富な生産労働人口を背景とした縫製地でもあることから、現地で糸、生地を作って縫製までして輸出、あるいは現地販売といった商流を模索する企業も目立ってきた。
ところが、2020年の感染症の世界的拡大以降、日系企業のビジネスに大きな影を落としてきたのが、“捨て売り”とも表される中国繊維企業による安価なわた、糸、生地、縫製品の価格攻勢だ。
長らく密輸として安い中国製品がインドネシア市場に流入するケースは指摘されてきたが、22年暮れにインドネシア政府が中国に対する繊維製品のセーフガードを解除してからは、中国の繊維消費の低迷も手伝う形で流入が加速し、日系やインドネシア企業にとっても深刻な打撃となった。
今夏には糸、生地、プリント加工などを手掛ける現地大手繊維メーカー6社が受注の著しい減少から、相次いで工場の閉鎖を決め、延べ2万人が失業するという衝撃的なニュースも飛び込んできた。
ただ、こうした状況を重く見たインドネシア政府は今年から再び、海外からの繊維製品の輸入の制限を強める動きに出ている。既に緩やかに中国品の流入量が減り、日系企業にとっても幾分かは商況の厳しさが和らぐという観測も出ている。
日本の消費社会が大量生産、大量廃棄の時代を終えた今、日系のインドネシア生産拠点の次なるミッションは、日本流の高付加価値を現地で作り、現地市場で、あるいはさらに欧州、中東、米国、アフリカといった新たな市場へとビジネスを広げることにある。
〈価格競争から脱却へ/東レグループ〉
インドネシアの東レグループは、日本向けやインドネシア国内にとどまらず、インドネシア国内外の縫製地を経由しアジア、中東、アフリカ、欧州、米国など世界をマーケットとして繊維素材から縫製品まで幅広く供給する。
インドネシア国内では樹脂事業と繊維事業の2事業があり、双方ともに中国からの安価品の流入の影響で厳しい状況が続いている。わた・糸のビジネスは、一部で生産の適正化により業績は改善しているものの、事業環境は依然難局にある。
シャツ地やポリエステル・綿混織物分野も伸び悩んでいる。欧州の金融引き締めは緩んだがウクライナ、イスラエル、バングラデシュなどの地政学リスクの継続、物流遅延・エネルギーコストや原材料高騰などの多くの懸念材料もあり、商況の先行きは不透明だ。
中国、ベトナムに次ぐ、繊維産業の新天地と目されるインドネシアだが、東レグループは生産地に加え消費地としても有望とみて、同国内での“地産地消”に向けた新たなサプライチェーンの構築と素材開発をミッションに掲げる。
わた・糸では原糸原料の供給拠点から商品開発力を高め、川中ではインドネシア国内での付加価値品の市場開拓と縫製品再輸出向けの生地供給がミッションとなる。今年度の商況の見通しについては「(中国からの)安価製品の流入が漸減し、テキスタイル販売は回復を見込む」としているが、事業環境は難しい状況が続くと想定した上で、原糸・原綿はサプライチェーン一貫での差別化品の販売拡大とトータルコストでの価格競争力の強化に取り組む。
今後も安価な中国品の流入は続くとみており、糸、生地、縫製品それぞれで価格のみでの競合から脱却するために、インドネシアで原糸、生地、縫製品の生産拠点を持つ強みを生かし、サプライチェーン全体でコストダウンを図るとともに、汎用品との違いを付ける特品の開発に力を入れる。
〈日清紡グループ/対日受注増へ“改善”〉
インドネシアの日清紡グループは、紡織のニカワテキスタイル、織布・染色加工の日清紡インドネシア、縫製のナイガイシャツインドネシアの3社で構成する。
今期は今のところ、主要商材である日本向けのシャツとユニフォーム分野で顧客の在庫調整における受注減を受け生産数量は前年同期に比べ減っている。
一方、インドネシアローカル、中東向けは好調なため、対日ビジネスの減少を補うことに加え、生産ロスを最小限に抑える“カイゼン活動”に取り組む。
生産では取引先からの環境・トレーサビリティーに対する要求が増しているため、環境負荷を低減させ、安全・安心につながるモノ作りを強化する。販売では、インドネシアローカル向けを強化する。インドネシア政府が推進する国産優先政策に沿って、国営企業向けの販売を強化する。欧州向けでは強みであるノーアイロン加工技術を生かした商品の拡販を行う。
〈製販でグループ連携強化/メルテックス〉
シキボウのインドネシア紡織加工会社、メルテックスは、日本、中国、台湾、ベトナム、タイにあるシキボウグループ会社との連携を強める。強みとする商材をグローバルなシキボウグループの製造、販売のネットワークを組み合わせて各拠点の相乗効果を狙う。
同社はポリエステル・綿混糸の紡績、織布、加工を手掛け、主力は日本向けの企業ユニフォーム素材と中東民族衣装用の生地輸出が売り上げの大きな柱となっている。まだ売り上げ規模は小さいがインドネシア国内でスクールシャツ素材や繊維資材も取り扱う。
汎用的な糸の生産も行うが、大半は2層構造糸「ツーエース」に代表される高付加価値糸だ。近年、リサイクル素材の認証やオーガニックコットン認証といった、環境に配慮した繊維素材を作る工場であることを示す国際認証も複数取得し、日系以外の企業とのビジネスにも備えている。
〈東海染工のTTI/多様な素材で加工対応〉
東海染工グループで生地のプリント加工を手掛けるトーカイ・テクスプリント・インドネシア(TTI、西ジャワ州ブカシ)は、主力の綿100%に加え、ポリエステル、レーヨンといった多様な原料への加工に対応することで受注数量を増やす。
新型コロナウイルス感染症の世界的拡大で2020年に加工数量が大きく減り同年夏には一時、最盛期の半分近くまで落ちたが、その後、ポリエステル綿混、レーヨン100%、レーヨン混、テンセル「リヨセル」混、ポリエステル100%といった従来の綿100%以外のプリント加工もできるようにし21、22、23年と数量を回復させてきた。
24年上半期(1~6月)は最大500万ヤード強の加工能力に対して月次平均で340~350万ヤードほど。下半期もこの数量が継続する見通しで、通期は増収増益を見込む。現地アパレルなどに対し、日系企業ならではの生地品質や納期の精度の高さなどをアピールし引き続き加工数量の増加を狙う。加工にとどまらず、自ら企画した生地をアパレルに対して輸出する事業にも力を入れる。
〈現地生産素材で需要拡大/蝶理インドネシア〉
蝶理インドネシアの上半期の商況は、日本で流通する商材として医療用やスクール用ユニフォーム分野が生産調整に入り、自動車、二輪車向けの資材供給は前年比でマイナスと厳しい状況。一方、中東民族衣装向け生地販売や現地の出生率の高さを背景としたオムツ関連の資材販売は引き続き好調を維持する。
同社は「今後も総じて繊維市況は厳しい状況が続く」とし、「特に現地の川上分野が厳しく、業界再編の動きが出てくるかもしれない」と予想する。「ここに来てようやく日系顧客を中心に日本のリサイクル原料の引き合いが活発化しているため、サプライチェーンを組んで重点的に対応を進める」方針。
日本向け以外の販路開拓については「小売大手が現地での出店を加速させている一方で、(インドネシアでの)現地調達は大きく他国よりも後れを取っているとの情報もある」とし、「現地で生産する素材への引き合いは旺盛なため、そこに商機を見いだす」と回答している。
〈各拠点の強み生かす/東洋紡グループ〉
インドネシアの東洋紡グループは、現地での高機能素材の開発を“量”と“質”両面で加速する。日本、ベトナム、マレーシアの拠点とも定期的な会議で連携を確認し、各拠点の強みを生かし業容の拡大を狙う。同グループは商社機能を担うTID、編み立て・染色加工のTMI、縫製のSTGの3社で構成する。
上半期(2024年4~9月期)の業績見通しは、TIDが繊維事業で前年同期比増収増益、TMIも当初予算を上回りそうだ。STGは前年と同水準で推移する。TIDには自動車パーツなどを現地で供給する樹脂事業があるが、こちらは現地の自動車市場がやや停滞しているため業績は前年比でやや下回る。
主力の日本向け繊維素材ビジネスは現地で生産するニットシャツ地を中心に堅調に売り上げを伸ばしている。スポーツ衣料用ニット生地も堅調。利益も生地、縫製品の生産数量が安定していることや内部でのコストや生産性改革により向上する見通し。インドネシア国内では現地アパレルへの丸編み地の販売が好調だ。