特集 アジアの繊維産業(2)/タイ/開発型拠点への転換が不可欠

2024年09月27日 (金曜日)

 ASEAN諸国の中でも、タイは繊維産業にとって最も厳しい事業環境にある。中国品の流入に加え、生産拠点として他のASEAN諸国との競争でも苦戦が続く。このためタイの日系繊維企業も、これまで以上に生産品種を高度化し、ASEAN地域における“開発型”拠点へと転換することが不可欠となっている。

〈自動車生産台数が大幅減〉

 タイ国家経済社会開発委員会によると、2024年の実質GDP成長率は1~3月が1・6%、4~6月が2・3%だった。年間予想も2・3~2・8%としており、プラス成長こそ維持しているものの、総じて勢いがない。

 タイ経済の勢いのなさを象徴しているのが自動車生産台数だろう。タイ工業連盟によると24年上半期(1~6月)の生産台数は76万1240台(前年同期比17・4%減)と大幅減少した。このため年間生産台数予想は170万台と前回予想から20万台下方修正。かつて200万台以上を生産していただけに、落ち込みの大きさが目を引く。

 自動車生産減少の要因は、消費者の購買力が減退していることがある。そこにローンの与信審査が厳格化され、借り入れが難しくなったことで国内販売が大きく減少した。自動車産業は裾野が広いためタイの景気全体を押し下げている。

 国内消費低迷に加えて、人手不足と人件費上昇が繊維産業に重くのしかかる。安価な中国品の流入による価格競争も激化した。さらにベトナムなど他のASEAN諸国との競争でもコスト競争力の面で劣勢に立たされる。

〈環境配慮型素材へ〉

 このため日系繊維企業の間では衣料用途を中心にタイでの汎用品生産は難しいとの認識が一段と強まり、各社とも高付加価値品を中心とした“開発型”拠点への転換が不可欠となった。

 例えば帝人フロンティアグループのテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)は定番のSDYやPOYの自販が縮小する一方で、再生ポリエステルチップ製造設備を導入するなど環境配慮型素材へのシフトを強める。タイ・ナムシリ・インターテックスも環境配慮型素材供給工場としての立ち位置を強める。

 クラボウグループのタイ・クラボウも高付加価値品生産を拡大しており、タイと周辺国の富裕層向けビジネスの構築に取り組む。染色加工のタイ・テキスタイル・デベロップメント・アンド・フィニッシング(TTDF)も機能加工のバリエーションを拡充し、商品力の強化に取り組む。

〈産資はインド市場も視野〉

 一方で、自動車関連など産業資材分野は衣料用途と比べて相対的に安定している。国内だけでなく、欧米への輸出拠点としての役割があるためだ。

 例えば、ユニチカグループのポリエステルスパンボンド不織布製造販売のタスコは輸出比率が80%を超えており、欧米向けの自動車用途や建材用途が堅調に推移している。

 また、タイはインド市場への橋頭保としての役割が高まっている。東レグループや旭化成アドバンスがエアバッグ関連などでタイからインド市場へのアプローチを進めている。

〈タイ東レグループ/衣料用途中心にR&D機能強化〉

 タイ東レグループは、衣料用途を中心に開発機能を強化し、R&D型拠点への転換を進める。また、エアバッグ原糸・基布を中心とした産業資材はインド市場への参入を進める。

 2024年度上半期(4~9月)は、これまで続けてきた生産品種高度化の成果もあって業績は堅調に推移した。合繊長繊維製造のタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)は生産・品質管理強化の成果もあってエアバッグ原糸が好調。衣料用のポリエステル長繊維は、横ばいで推移している。

 紡織加工のトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)もエアバッグ基布がTTSとの連携で好調だ。衣料用途は長繊維織物がリサイクル原料使いを中心にスポーツ衣料向けで堅調だった。短繊維織物は市況が低迷するシャツ地向けポリエステル・綿混織物などを縮小し、中東民族衣装向けなどのポリエステル100%織物を拡大するなどポートフォリオ転換を進めた。

 こうした中、TTSとTTTともに開発機能を一段と強化し、R&D型拠点への転換を進める。TTSは新たに複合紡糸機の導入を進めており、独自の複合紡糸技術「ナノデザイン」を活用した糸開発に取り組む。TTTも風合い加工機や液流染色機の新規投資や更新を進めた。課題の短繊維織物についても長短交織や風合い加工など高付加価値品の開発と提案を強化する。

 エアバッグ基布やブレーキホースなどゴム資材はインド市場への参入を進める。

 こうした取り組みによって、東レグループのASEAN地域における生産品種高度化の起点となることを目指す。

〈タイ旭化成スパンデックス/「ロイカ」の最大拠点へ〉

 ポリウレタン弾性糸製造のタイ旭化成スパンデックスは、ポリウレタン弾性糸「ロイカ」の価値を認める取引先との連携を強め、差別化糸を中心に拡販に取り組む。ロイカの最大生産拠点であると同時に最大利益拠点としての役割を担うことを目指す。

 2024年度上半期(1~6月)は売上高、利益ともに計画通りに推移した。需要回復は若干遅れているものの、原料価格が下落したことが業績を下支えしている。同社は現在、高付加価値品を拡大するポートフォリオ改革を進めており、アパレル向けは消臭機能糸やリサイクル原料使い「ロイカEF」などの販売が拡大した。衛材向けは輸出を中心に堅調だった。

 今後に関しても引き続き差別化糸の拡販を進める。サステイナブル素材に力を入れ、LCA算定への対応や再生可能エネルギーへの転換にも取り組む。また、衛材向けはインド市場への参入も強化。インドに進出する日系企業への販売に取り組む。

〈旭化成アドバンス〈タイランド〉/新規用途開拓にも注力〉

 旭化成アドバンス〈タイランド〉は、主力のエアバッグ包材やカバーリング糸の販売拡大に加え、撚糸やテキスタイルコンバーティング事業で新規用途の開拓に力を入れる。

 2024年度上半期(4~9月)は産業資材分野が堅調だった。カーシート用撚糸は国内の自動車生産台数減少の影響で勢いがないが、エアバッグ包材はタイ国内への販売だけでなく、インドへの輸出が拡大している。

 衣料分野はカバーリング糸が堅調だった。主力用途であるソックスの需要が底堅い。一方で、テキスタイルコンバーティング事業は転換期となっている。日本向けだけでなく、ミャンマーやバングラデシュなど縫製拠点への供給を模索する。また、樹脂など非繊維分野のトレーディングも拡大した。

 下半期もエアバッグ包材やカバーリング糸は引き続き堅調に推移するとみる。一方、撚糸はカーシート用途で合成皮革などとの競争が激化していることから、自動車以外の用途開拓も模索する。テキスタイルコンバーティングも衣料だけでなく生活関連資材などで新規商材に向けた種まきを進める。

〈資材分野を重点拡大/タイ蝶理〉

 タイ蝶理は、資材分野で商品開発を強化し、新規開拓に重点的に取り組む。衣料分野は中東民族用織物に一段と力を入れる。

 2024年度(12月期)は、ここまでやや苦戦した。原料販売事業はカーシート原糸・原反ともに自動車生産台数減少の影響で勢いがない。衣料用途も中国品との競争激化の影響を受ける。

 一方、テキスタイル事業は中東民族衣装用織物が安定している。ただ、現地の政情不安定化を背景に縫製品は低調だった。一般衣料向けも低迷が続いている。

 このため原料販売は今後、資材分野の拡大を重視する。カーシート以外の用途に向けた商材開発に力を入れ、不織布やロープ、建材などで新規開拓を進める。

 テキスタイル事業は引き続き中東民族衣装用織物に力を入れる。生産を担う東レグループと連携して商品の品質を一段と上げることでブランド力を高めることを目指す。