特集 アジアの繊維産業(1)/変化への対応力が問われる/存在感を際立たせつつ

2024年09月27日 (金曜日)

 欧米ブランドによる脱中国の流れ、コスト増、地産地消ニーズの高まりなど、アジアの繊維産業を取り巻く環境は刻一刻と変化している。伴って各国に進出する日系繊維企業の役割も変わる。各拠点の企業が自社の存在感発揮に奔走している。タイ、インドネシア、ベトナムの日系繊維企業に、環境変化への対応を聞いた。

〈ミッション変化/拠点独自のビジネス構築へ〉

 現地法人あるいは事務所の役割変化についてタイの日系繊維企業からは、「特に大きな変化はない」(クラボウグループ)という意見があった一方、「従来型の汎用品生産では完全に立ち行かなくなった」(東レグループ)、「従来は対日の生産拠点の役割を担ってきたが、今後はASEANのサプライチェーン全体の再構築の拠点、環境配慮素材供給拠点に深化していく」(タイ・ナムシリ・インターテックス)といった声も上がった。

 インドネシアでは、「量と質の向上がこれからのミッション」(東洋紡グループ)、「製造におけるグループ拠点との位置付けに加え、今後は開発能力の増強を図り、販売面ではグローバル販売の拠点になっていく」(日清紡グループ)などの声が出ている。

 ベトナムからは、「生地事業の拡大」(帝人フロンティア〈ベトナム〉)といった新規商材の取り扱いを始める機運が高まるとともに、内販、第三国向けなど「対日以外のビジネス」を模索する動きが活発化している。

〈地産地消と「対日以外」/越で素材の現地調達進む〉

 「対日以外」の販路開拓についてタイの日系繊維企業からは、「タイの重要性は変わらないが、インド市場の重要性が高まっており、その橋頭保としてタイの役割が増してくる」(東レグループ)、「今後はインドが重要な市場であり注力する」(テイジン・フロンティア〈タイランド〉)などインド市場を狙うもくろみが聞かれた。二酸化炭素排出量やコスト削減を狙って強まる地産地消ニーズについては、「ASEANを一つの地域としてビジネス構築を進める。そのため縫製工場とのコミュニケーションを増やしていく」(タイ・クラボウ)などベトナムなど周辺の縫製地との関係強化を図る動きが目立つ。

 既に内販を軌道に乗せる日系繊維企業が多いインドネシアでは、「元々、地産地消型。今後は米国やASEANへの輸出も拡大していきたい」(トーカイ・テクスプリント・インドネシア)、「7割が内販だが、対日比率を上げていく」(ユニチカトレーディングインドネシア)など同国独自の事情が垣間見える。

 ベトナムでは「内販でユニフォームとファッション衣料に注力しているが、コストが最優先されているのが現状。ただ、機能性、安全性を求めるところも増えており、提案を強めていく」(MNインターファッションベトナム)、「スポーツとインナーで現地製生地・副資材の起用が進んでいる」(STXベトナム)、「グループ連携で独自生地の開発を進めており、新規開拓を狙う」(ヤギ・ベトナム)といった戦略が聞かれた。

〈コスト構造変化への対応/効率生産と付加価値提案〉

 原材料高、為替などコスト構造が変化する現状への対応策についてタイの日系繊維企業からは、「バーツ安で有利な状況。原燃料価格も想定の範囲内のため大きな影響はない」(帝人グループのTPL)という底堅い現況が聞こえるほか、「衣料用途は短繊維織物を中心に低採算品を縮小した。為替は引き続き不安要素」(東レグループ)といった指摘が上がった。

 インドネシアでは、「価格転嫁と内販拡大」(クラボウグループのクマテックス)、「国際認証の取得推進」(ユニチカグループのユニテックス)、「ロス率の低減、納期の正確さなどを競争力として受注拡大を目指す」(シキボウグループのメルテックス)などでコスト高を乗り切ろうとする方針が見られる。

 ベトナムからは、「人件費など単純な縫製コストではバングラデシュやミャンマー、カンボジアに勝てない」という現実の中、それらの国とは違って糸・生地・副資材が現地で一定調達できることを生かした付加価値開発と提案に力を入れる動きが目立つ。生産の効率化を図りつつ、ベトナムならではのモノ作りによる、価格競争とは差別化された打ち出しが重要になる。