不織布新書24秋(3)/東洋紡エムシー/クラレ

2024年09月25日 (水曜日)

 繊維素材メーカー大手による不織布事業の構造改革が相次ぐ。2024年業界を驚かせたのが東洋紡エムシー(TMC)とニッケ、そしてクラレだ。TMCは短繊維不織布製造子会社、呉羽テック(滋賀県栗東市)をニッケに売却。クラレは乾式不織布の撤退を決め、メルトブロー不織布(MB)を縮小した。

〈東洋紡エムシー/ニッケに呉羽テック売却/不織布は改善事業だった〉

 TMCは8月26日付で短繊維不織布製造子会社、呉羽テック(滋賀県栗東市)をニッケに売却した。

 ポートフォリオ戦略で不織布を収益改善・事業モデル改革の事業と位置付けるTMCと、不織布事業の収益強化を掲げ積極投資を行うニッケの利害が一致した。ニッケは4月にTMC子会社で集塵(じん)機やエアフィルター加工・販売を行う東洋紡カンキョーテクノ(現・カンキョーテクノ)も買収している。

 業界関係者からは「何かあるのではないか」と事前に察知していたところもあり「合繊メーカーの不織布事業再編は続く」と今後を予想する企業もある。一方で「ニッケグループとの取引がなかったので、呉羽テックを通じて商いが広がればプラス」と前向きにとらえている企業もあった。

 呉羽テックは資本金4億円、従業員数266人。1960年呉羽紡績の子会社として発足した。一時期(91年~98年)、営業部門のみ東洋紡に移管していたこともある。ケミカルボンド不織布(CB)、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布のほか、スパンボンド製法の接着シート「ダイナック」、TMCの繊維クッション材「ブレスエアー」と同製法の低目付品「クレバルカー」も製造販売する。主力はエアフィルター・内装材などの自動車資材や貼付基布。

 不織布メーカーの中では海外進出も早く、88年に台湾、2001年にタイ(ともに台湾の不織布製造大手の新麗企業との合弁)、03年に米国(生産は撤退)に拠点を設けている。化学品専門商社のオー・ジー(大阪市淀川区)が14年にインド紡績大手のアーヴィンドとの合弁で設立したバグフィルター用不織布など製造のアーヴィンド・オー・ジー・ノンウーブンズは同社が技術指導を行う。

 買収したニッケによると、呉羽テックの24年3月期の売り上げ規模は80億円強。また、官報によると、前々期に純損失1億5500万円を計上したが、前期は1億3800万円の黒字転換。それ以外も黒字経営を続けてきた。

〈クラレ/乾式不織布から撤退/MB岡山休止し西条集約〉

 クラレは7月26日、不織布製造子会社のクラレクラフレックス(大阪市北区)が製造販売する乾式不織布(CB、スパンレース不織布、水蒸気不織布)の生産を2024年末に休止し、MBの生産能力は既に縮小したと発表した。

 同社は1972年から乾式不織布、89年よりMBを製造・販売するが、アジア企業の設備増強に伴う供給過剰と国内需要減から「事業環境が厳しさを増していたため、能力縮小による再構築が不可欠と判断した」と言う。

 業界関係者からは「数年前までさらに拡大する話も聞いていたので驚いた」「残念」との声は多いが、一方で「価格競争で値が通らなかったのではないか」と分析するところや、「特徴のないものは厳しい」「合繊や化学など事業の一部として不織布を手掛ける企業では今回のような決定は不可避」との厳しい見方もあった。

 クラレクラフレックス岡山工場(岡山市)で生産する乾式不織布は2024年12月末で生産終了、25年3月末に販売も終える。MBは20年に岡山工場に導入した最新設備(年産900㌧)を既に6月末で休止。クラレ西条事業所(愛媛県西条市)に置く設備(1800㌧)のみに縮小した。休止したMB新鋭機は「マスク等生産設備導入支援事業費補助金」を得て、新型コロナウイルス禍で増設中にマスク対応にも改造した設備でもある。

 クラレクラフレックスは資本金1億円。売り上げ規模、従業員数などは非公表。官報によると、23年度(12月期)は純損失5億7600万円を計上したが、22年度は1億6200万円の黒字、それまでも5億~7億円の純利益を計上していた。

 同社の特徴は不織布原反だけでなく、不織布製品も販売する点にあった。特に業務用ワイパー、クラフレックス「カウンタークロス」は業界トップ。クラレと米国のジョンソン・エンド・ジョンソン社が合弁でクラレチコピーを設立し、1972年から販売を始めた祖業でもある。クラレの発表を受けてカウンタークロスの販売代理店であるオザックス(東京都千代田区)は3日後の7月29日に「クラレクラフレックスの技術協力・支援の下、高い品質と供給体制を徹底し、引き続きクラフレックスブランドで販売する」との声明を発表している。

〈ニッケ/取締役常務執行役員 産業機材事業本部長 日原 邦明 氏/国際競争には規模必要〉

  ――繊維素材メーカー大手は不織布事業の構造改革が活発ですが、貴社は逆に拡大戦略を取っています。なぜでしょう。

 構造改革が進む不織布の多くは衛生材料向けです。大型の高速生産設備であるスパンボンド不織布(SB)などは設備更新しないと、競争力を保てません。しかし、中国中心に過剰設備による価格競争で販売価格が下落しており、コスト上昇の中で採算が悪化しています。幸い、当社は衛生材料がほとんどありません。今回、買収した呉羽テックも同様です。不織布は製法、用途によって状況は異なります。当社で規模が大きい自動車内装材は輸入が少ない。かさばる上に単価が低いためです。ほとんどが地産地消です。

  ――自動車資材は採算が厳しいのでは。

 自動車内装材は採算を見ながら対応していますが、その他の自動車資材や成長できる分野はあります。

  ――それが呉羽テックの買収につながる。

 呉羽テックは前3月期売上高が80億円強、今期は85億円を見込んでいるなど一定規模があります。東洋紡グループでの管理手法もしっかりしており、人材もそろっている。不織布製造子会社、エフアンドエイノンウーブンズ(FANS)と重なる部分もなく、技術力も含めてポテンシャルがあると判断しました。呉羽テックも自動車資材が中心ですが、しっかりと利益を出している。そこにはノウハウがあるはずで、FANSにも生かしていきます。台湾、タイ、米国に拠点を持つ点も魅力でした。呉羽テックはまだまだ利益を伸ばすことができるはずです。精査しながら拡大します。

 今回の買収で不織布事業の売り上げ規模は約200億円に拡大し、不織布の幅も広がりました。当社は不織布でも他産業と同様に規模を重視しています。規模がないと国際競争力を保てません。

  ――今後、呉羽テックの運営はどのようになりますか。将来、FANSとの統合はお考えですか。

 呉羽テックはFANSとは事業構造が異なりますので、当面は変わりません。

  ――呉羽テックの主力、自動車のエアフィルターは機能紙へのシフトや電気自動車の増加などから苦戦しています。

 現状はその通りですが、他用途でいったん機能紙にシフトした分野でも不織布に戻ったところがあります。可能性はゼロではないと考えています。

  ――呉羽テックよりも先に東洋紡カンキョーテクノ(現・カンキョーテクノ)も買収しました。

 交渉は並行していましたが、別の案件です。カンキョーテクノはフィルター事業強化の一環です。

〈東洋紡エムシー/代表取締役副社長執行役員 馬場 重郎 氏/戦略明確化が売却理由〉

  ――今回の呉羽テック売却の経緯は。

 強いところを強くするポートフォリオ戦略の明確化です。不織布は構造改革事業でした。コモディティー化するものは再編しないと、海外勢と対抗できません。不織布を強化するニッケに売却した方が呉羽テックの成長にも良いと判断しました。

  ――東洋紡エムシー傘下では成長できないのでしょうか。

 東洋紡グループが収益的に厳しい中、限られた資金で成長投資をしています。残念ながら呉羽テックには資金を投入できません。不織布は国内での競合も多い。銀行、鉄鋼など他産業は統合されていますが、不織布は遅れている。

  ――呉羽テックは前々期を除き利益も上げており、グループに貢献してきました。

 一定の貢献をしてきたことは間違いありませんし、思い入れもあります。一緒に働いた仲間であり、じくじたる思いもあります。当社との連携強化という議論もありましたが、これまでも連携をそれほどしていないのに、今後できるのかどうか。十分にサポートもできていませんでしたし、むしろニッケ傘下の方がより良い選択だと判断しました。

  ――4月に同じくニッケに売却した東洋紡カンキョーテクノ(現・カンキョーテクノ)は呉羽テックの売却と連動しますか。

 並行して交渉しましたが、元々別の案件です。

  ――不織布製造子会社では活性炭素繊維の製造も行う、ユウホウ(大阪市北区)もあります。

 ポートフォリオ改革を進めますが、活性炭素繊維の賦活などユウホウならではの加工技術がありますし、熱可塑性炭素繊維ニードルパンチ不織布「疾風(HAYATE)」のような技術もあります。もちろん、改革の議論は連携して行っています。

  ――SBも苦戦しているようですが、SBの構造改革はどのようにお考えですか。

 SBは新興国とのコスト勝負が難しく、アドバンテージがある商品は国内生産し、それ以外は海外生産するしかありません。ただ、国内も今のラインアップでは不足です。開発は進めていますが、今は過渡期です。改革はできると考えています。

  ――SBは海外企業に生産委託もしています。海外生産はOEMを拡大するのでしょうか。

 海外でのOEM拡大は選択肢の一つですが、SB設備がある岩国事業所(山口県岩国市)も重視しています。自家発電を更新し、液化天然ガス廃棄物固形燃料に転換し、温室効果ガス排出量を大幅に削減できました。これは武器ですし、価値を訴求していきます。