呉羽テック買収劇/ニッケ「規模の追求」 TMC「戦略の明確化」
2024年09月20日 (金曜日)
ニッケは8月26日付で東洋紡エムシー(TMC)の短繊維不織布製造子会社、呉羽テック(滋賀県栗東市)を買収した。4月には同じくTMC子会社の東洋紡カンキョーテクノ(現カンキョーテクノ)を傘下に収めるなど不織布の拡大に動く。繊維大手が不織布事業の構造改革を活発化するだけにニッケの動きは真逆。なぜ、不織布に力を入れるのか。そしてTMCはなぜ、呉羽テックを手放したのか、両者の狙いを探った。
呉羽テックは短繊維不織布製造大手の一社で台湾、タイ、米国(生産からは撤退)にも拠点を持つ。ニッケによると、呉羽テックの2024年3月期売上高は80億円強。今期は85億円を見込む。主力用途は自動車資材。
一部報道で「東洋紡グループの中で特に採算が悪化しており、撤退が必要と判断した」とあったが、利益を出していないわけではなかった。官報によると、半導体不足で自動車生産が大きく落ち込んだ23年3月期に純損失を計上した以外は黒字経営だ。にもかかわらず、なぜTMCは売却を決めたのか。
TMCの馬場重郎代表取締役副社長執行役員は「強い事業を強化するポートフォリオ戦略を明確化した結果。不織布を強化するニッケへの売却が呉羽テックの今後にとっても良いと判断した」と語る。
TMC傘下で成長できない理由は何か。「グループの収益が厳しい状況にある中で、限られた資金で成長投資を行っており、残念ながら呉羽テックに成長資金は投じられない」と説明する。TMC発足時から、不織布は収益改善・事業モデル改革の事業との位置付け。呉羽テック売却はそれに沿った具体策なのだろう。
ただ、「呉羽テックがグループに一定の貢献をしてきたことは間違いない。じくじたる思いもある」とし「十分な支援もできなかった。今回の売却は呉羽テックにとってより良い選択になる」と馬場氏は述べる。
では、ニッケの狙いは何か。その一つが「規模の追求」とニッケの日原邦明取締役常務執行役員産業機材事業本部長は話す。買収でニッケの不織布事業売上高は約200億円に拡大し、不織布製造子会社、エフアンドエイノンウーブンズ(FANS)と重なる部分も少なく生産品種や用途の幅も広がった。「当社は不織布でも他産業と同様に規模を重視する。一定規模がないと国際競争力を保てない」と言う。
繊維素材メーカー大手はこの数年、不織布事業の構造改革が相次ぐ。7月にはクラレが不織布製造子会社のクラレクラフレックス(大阪市北区)の短繊維不織布撤退とメルトブロー不織布縮小を明らかにした。
繊維素材メーカー大手の動きに対しても「構造改革の多くは衛生材料向け。当社は幸いほとんどない。規模が大きい自動車内装材も輸入は少ない。かさばる上に単価が低いためで、ほとんどが地産地消」と指摘する。ただ、自動車資材は採算が厳しいのも事実。それについても「内装材は採算を見ながらの対応だが、それ以外の自動車資材やその他の成長分野が不織布にはある」と言い切る。
呉羽テックは自動車資材中心ながら利益を上げており「そこにはノウハウがあるはずで、FANSにも生かす」考え。もちろん、呉羽テックの利益も「伸ばすことができる。技術力も含めてポテンシャルがある」と今後の成長に自信を見せる。運営も当面は変わらないという。
業界を驚かせた今回の買収劇。「不織布を重点事業に位置付けるニッケの方が呉羽テックもやりやすいのではないか」と、ある業界関係者は言う。果たして、ニッケ傘下で呉羽テックが今後、どのような成長を見せるのか。注目される。