繊維ニュース

特集 商社原料・素材ビジネス(1)/トレサビや循環の仕組み構築も/サステ対応で提案力発揮/蝶理/豊島/ヤギ

2024年09月13日 (金曜日)

 揺れ続ける国際情勢、物価高騰、気候変動…。社会の変化が激しさを増す中、繊維産業の構造も変革が迫られている。

 原料・素材から衣料品が完成するまでのさまざまな過程で生産を支える商社も、求められる役割が変化している。こうした状況下で、「原料・素材から一貫して」生産過程に携わることができる商社の機能を、一つの強みとして活用する動きも見られ始めている。

 どの産業分野でも環境に配慮したモノ作りが企業活動の必須条件となる中、特に環境負荷に対して厳しい視線を向けられる繊維産業は一層の対応が求められており、その範囲は原料・素材にも及ぶ。そのため、商社が長年担い続けてきた原料・素材を供給する役割の重要性が増し、その要望に応える商材の提案もなされるようになった。

 商社によって、トレーサビリティーの要求に応える商材も増えてきた。産地までさかのぼって確認できる体制を構築した事例もある。

 さらに、廃繊維を多様な原料に再生させる循環システムの構築に自ら取り組むのも、商社の動きとして見受けられる。〝つなぐ〟機能が新しいビジネスモデルを生み出そうとしている。

〈原料起点で持続可能推進/「ブルーチェーン」発信/蝶理〉

 蝶理は2020年から、サプライチェーン全体のサステイナブル化を目指す「ブルーチェーン」を展開している。糸・生地・製品という繊維産業の川上から川下に至る各段階で、サステに対応した取り組みを行い、それらを柔軟に掛け合わせていく。

 原料を起点とする蝶理ならではの発信により、繊維業界の賛同者を着実に増やし、現在は約140社がパートナーとして名を連ねる。この〝つながり〟を生かし、持続可能な社会の構築という目標を達成するためのビジネスモデルを追求する。

 その推進役の一つが、廃棄される繊維を循環させるスキーム「B―LOOP」(ビーループ)。繊維製品の製造工程で発生する繊維くずや古着を回収し、新しい繊維に再生させて価値を持たせる循環の仕組みを築く。各企業に向け、このスキームの共用を呼び掛けている。

 環境配慮の取り組みを社会にも発信するため、サーフィンの日本代表「波乗りJAPAN」とスポンサー契約を結んだ。

 7日に静岡県御前崎市の御前崎ロングビーチで開かれたサーフィンの大会「WSL Asia/Men‘s &Women’s QS3000『whitebuffalo OMAEZAKI PRO』」では、選手らによるビーチクリーン活動が行われた。蝶理の社員も参加し、選手とともに海岸の美化に励んだ。

〈ヘンプ使い打ち出し強化/成長早く環境にも配慮/豊島〉

 豊島はサステイナブルな打ち出しとして、ヘンプ使い素材の提案を強化する。生育する土壌や環境に優しく成長が早い特徴を生かし、リネンに近い風合いを持つ点をアピールしていく。

 ヘンプは成長が早く、およそ90~100日間で高さが3メートル超まで伸びた後に収穫を迎える。農薬や化学肥料を使用しないため栽培する土壌や環境にも優しい。さらに、同じ土壌で繰り返しの栽培が可能だ。一般的にリネンの栽培は5~7年の休耕と輪作が必要だといわれるため、調達しやすい新たな夏向け素材として訴求を高める。

 素材ブランド名は「グレースヘンプ」とした。主に中国・黒竜江省産のヘンプを使用し、綿・ポリエステルやポリエステル・レーヨン混原料と複合して糸や生地にする。リネンと遜色ないシャリ感と光沢を持ち、強度も高い。多孔性構造のため吸湿性や速乾性に優れる。

 ヘンプを安定的に調達するための取り組みも進めている。昨年6月、豊島が運営するCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を通じて産業用ヘンプを扱う米国の「FYBERX」に出資済み。ノースカロライナ州の農場を中心に追跡可能性を担保できる安定した品質のヘンプの育成で協業を深める。

〈海外製販拡大に本腰/中国事業も再構築して/ヤギ〉

 ヤギは糸・生地のグローバル製販拡大に本腰を入れている。

 綿糸・綿生地販売部門ではオーガニックコットン(OC)関連が好調に推移。OC糸の総称ブランド「ユナ・イト オーガニック」の認知度が向上しているほか、長年にわたって同商材の開発、発信、供給を担ってきた実績が顧客に評価されている。インド産OCのトレーサビリティーを高いレベルで確保する「コットンiD」も絡めながら「消費者にも響くよう」リブランディングを進める。

 合繊糸と同生地の足元の商況はやや苦戦中だが、反転に向けて生地の取り扱いを増やす。北陸だけでなく、播州や和歌山、三備などの産地に糸を供給しつつ生地まで仕上げる取り組みが進行しており、この取り組みをインドネシアにも広げる。バイオワークス(京都府精華町)の改質ポリ乳酸繊維「プラックス」がその中心。編み地から先行し、年内には長繊維織物も生産する予定。欧米など海外市場も狙う。

 上海法人での糸・生地販売も再構築する。同法人独自の中国製綿100%強撚糸約10品番で備蓄販売をスタートしたほか、中国製丸編み地も8品番から備蓄販売を始めた。