特集 高性能繊維/新分野にも広がる活躍の場/クラレ/東レ・デュポン/テイジン・アラミド/東洋紡エムシー
2024年09月10日 (火曜日)
新型コロナウイルス禍の影響から脱し、需要が回復基調にある高性能繊維。文字通り高い性能から幅広い用途に用いられているが、既存用途だけでなく、再生可能エネルギーや防災など、新しい分野での需要拡大にも期待がかけられている。活躍の場の広がりに、メーカーは高度化やサステイナブルで対応する。
〈東レ・デュポン/安心・安全、防災切り口に〉
東レ・デュポンは、パラ系アラミド繊維「ケブラー」の販売を伸ばしている。新型コロナウイルス禍の影響がなくなった2024年4~6月の販売は前年同期の数字を上回り、年間でも前年比数%増収を計画する。来年度以降も安全・安心や防災を切り口にした開発・展開の強化で、持続的な成長を目指す。
アラミド繊維の24年度の国内需要は、分野・用途で分かれるものの、コロナ禍の影響から抜け出して回復基調に入り、年率3~5%の拡大が予想されている。ケブラーの販売も自動車関連向けなどがけん引役となったほか、耐切創性手袋分野が堅調に推移し、4~6月の売上高は前年比、計画比ともに上回った。
年間でも増収を計画しており、下半期は拡販に力を入れる。顧客と一体となって商品開発を行い、電気自動車(EV)などの分野に製品を投入する。幅広い分野に目を向けているが、「安全・安心、防災などをキーワードに新しい需要を開拓していきたい」としている。
その中でも期待をかけているのが、重要施設の防護用途だ。ケブラーは高強度や耐熱性、耐切創性といった特徴に加え、耐衝撃性や軽量性にも優れており、施設防護に生かせるとみる。竜巻などで生じる飛来物の衝突・貫通から施設自体や建屋内部の設備を守る。
施設防護では、ケブラーを使ったシートが山小屋の噴石防護で採用されており、そこで培った知見やノウハウを発展させる。重要施設防護では、原子力や美術館・博物館などをターゲットにするが、原子力関連施設では複数の電力会社から問い合わせがあり、試験も始まっている。
安心・安全、防災関連では、建造物の補修分野に参入している。重要施設防護の本格化は26年度からと予想する。
〈クラレ/生産増強に向け用途開拓〉
クラレは、2025年から高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」の生産能力を現行比約20%引き上げる。このため用途開拓による需要掘り起こしが一段と重要になった。洋上風力発電分野やアウトドア分野などに向けた提案と開発を加速させる。
ベクトランは2024年度上半期(1~6月)も好調な販売が続いた。北米市場向け各種ロープ用途が堅調に推移し、スリング用途も需要が安定している。このため設備もほぼフル稼働に近い高水準を維持した。
旺盛な需要に対応し、販売量を拡大するために設備のボトルネック解消などで25年から生産能力も約20%引き上げる。このためさらなる新規用途開拓に力を入れる。
太繊度糸で期待が大きいのが洋上風力発電設備の係留索だ。高性能繊維による係留索が必要とされるテンション・レグ・プラットフォーム(TLP)型浮体式洋上風力発電の実用化が日本でも進められていることから、そこに向けた開発と提案に取り組む。ベクトランの特徴である低吸湿性(水を吸わない)、低クリープ性(伸びない)などが生きる分野として期待は大きい。
細繊度糸ではアウトドア分野がターゲット。近年、極薄軽量のリップストップ生地によるウエアやザックの人気が高まっており、そこに使うリップストップ糸として高性能繊維の需要が高まる。このため芯にベクトラン、鞘にポリエステル系樹脂を配した芯鞘構造糸も開発した。鞘部分の染色が可能となり、意匠性へのニーズにも対応できる。
そのほか、繊維強化複合材料分野にも力を入れる。これまでゴルフシャフトなどで実績も増えてきた。ベクトランの素材特性と樹脂の性質を組み合わせることでさまざまな物性が実現可能だ。それら物性が求められる用途の探索と提案を進める。
〈テイジン・アラミド/販売拡大のステージへ再び〉
帝人グループで、アラミド繊維を製造・販売するテイジン・アラミド(オランダ)が再成長の軌道上を進んでいる。オランダの工場火災の影響が解消したことなどから、2024年度は販売数量が回復基調にある。今後も自動車関連や防護用途などの幅広い分野で拡販を図り、25年度には利益を火災前の水準に戻す。
パラ系アラミド繊維の「トワロン」「テクノーラ」、メタ系アラミド繊維の「コーネックス」「コーネックス・ネオ」を販売している。23年度は、工場の火災によって供給量が減少したことから販売面で苦戦を強いられたが、その影響が解消され、在庫も確保できていることから、24年度以降は販売攻勢をかける。
パラ系アラミド繊維では、トップシェアながら一部の市場でポジションを失った。販売拡大によって失地を回復するとともに、製造設備をフル稼働の状態に戻す。
防弾チョッキやヘルメット、自動車の防弾をはじめとする防護関連や自動車分野に加えて、洋上風力発電の係留ロープや海底ケーブルといった再生可能エネルギー分野の需要を取り込む。新興企業の台頭によって競争が激しくなっているとする中国向けの光ファイバー分野にも引き続き目を向けている。
拡販のポイントはサステイナビリティーへの対応だ。アラミド繊維には幾つかのサステ対応があるが、このうち使用済み製品を回収し、パルプ状にして再利用する取り組みはパラ系アラミド繊維で従来から推進している。今後はケミカルリサイクル、原料のバイオ化の研究・開発を進めていく。
ペーター・テル・ホルスト社長は、パラ系アラミド繊維のケミカルリサイクルの実現時期について「28~30年をめどにしたい」との考えを示す。
〈東洋紡エムシー/洋上風力発電で新規需要〉
東洋紡エムシーは、高強力ポリエチレン繊維「イザナス」「ツヌーガ」、PBO繊維「ザイロン」いずれも新規用途開発に力を入れる。洋上風力発電施設などで新規需要が期待されるほか、国内外の展示会にも積極的に出展し、提案に力を入れる。
2024年度上半期(4~9月)の販売はイザナスが計画通りに推移している。係留ロープや釣り糸用途は需要がやや弱いものの、加工品向けが堅調。中国品との競争が激化していたツヌーガも主力の耐切創手袋向けが回復傾向にある。このため稼働率も75%まで改善しており、下半期には90%まで高める計画だ。
一方、ザイロンは苦戦。建材用途などは欧州市場の市況低迷の影響を大きく受けた。ただ、自転車用チューブレスタイヤ向けは好調。確実に需要が高まっている。
今後は3素材とも新規用途開拓に力を入れる。特にイザナスは現在、年産千トン体制だが2千トンへの能力増強を計画しているため需要開拓が重要になる。
期待が大きいのが洋上風力発電設備の係留索。大林組が青森県の沖合で実施する浮体式洋上風力発電施設のテンション・レグ・プラットフォーム(TLP)型浮体設置実験に東京製綱繊維ロープ(愛知県蒲郡市)とともに参画し、イザナスによる係留索の共同開発を進める。
ツヌーガは、まずは手袋向けを中心に拡販を進め、フル生産することが目標。その上で原着糸の開発も進めており、リップストップ生地向けなどアウトドア用途への販売を目指す。また、接触冷感性を生かして寝装用途への提案にも力を入れる。
ザイロンは、炭素繊維との複合化なども含めてゴム補強材や複合材料用途で開発に力を入れる。国内外の展示会などにも積極的に参加し、イザナスやツヌーガと合わせて改めて提案を強化し、需要の掘り起こしに努める。