チクマ/“服育”とできる20のこと

2024年09月02日 (月曜日)

 商社のチクマ(大阪市中央区)は8月2日、大阪市内で「服育とできる20のこと」をテーマとしたイベントを開いた。「衣服を通じて心を育む」という意味を込めた概念「服育」の取り組みが今年20周年を迎えた。多様性の尊重といった取り巻く環境の変化によって服育が目指す方向性も変わりつつある。そのような未来に向けて、服育の7ステップを服育とできる20のことを込めながら、改めて衣服が持つ力を発信した。

〈つながる 広がる/服育でつながる つながりで支える 子どもたちを応援する〉

 服育は学校の制服の枠にとどまらず、企業の制服も含め、ユニフォーム全体のソリューションのプラットフォームへと変化しつつある。服育でつながった仲間とともにより良い未来を目指すためにも、チクマはさまざまな取り組みをこれからも実践していく。

〈こころを育む/大切にする心を育む 関心を育む 着こなす力を育む〉

 服育では活用できるさまざまな教材も用意している。制服の一生(原材料から縫製、着用、リサイクル、廃棄)における環境負荷について、特に温暖化の原因とされているCO2の排出量を見える化した「制服の一生すごろく」や、服育を楽しく気楽に学べる「服育四コマまんが」などを紹介した。ニッケの教育支援プログラム「ウールラボ」を含め、担当者の説明に熱心に耳を傾ける学校関係者の姿が目立った。

〈人をまもる/事故・災害 暑さ・寒さ 快適性 動きやすさ〉

 学生服やユニフォームの大きな役割として、「人をまもる」という機能がある。安全で安心できるくらしを守る上でも服育の中で重要なキーワードとなってくる。特に最近は地球温暖化の影響からか猛暑日が増え、熱中症患者も増加傾向にある。

 そのような環境下で注目されるのが電動ファン(EF)付きウエア。チクマは2018年に帝人グループ、電動工具メーカー最大手のマキタと共同開発した2層内圧式構造のEFウエア「チクマノスマファ」を展開している。

〈環境をまもる/長寿命設計 サステイナブル素材 リサイクルアップサイクル〉

 日本でSDGs(持続可能な開発目標)や環境問題に対する意識の高まりとともに、エコデザイン(環境配慮設計)に沿った取り組みが今後増える可能性がある。

 チクマでは業界内でも早くから環境問題に取り組み、05年には「広域認定制度」(環境大臣認定)第1号の企業になり、ユニフォームのリサイクル推進に率先して取り組んできた。14年には北九州市と国内初となる官民共同で古着リサイクル事業を開始。22年には古着回収リサイクル事業を「チクマノループ」としてブランド化し、さまざまな企業との連携が広がる。

 23年にはイオンリテールと連携し、全国の「イオン」「イオンスタイル」の店舗内に衣類の素材別回収ボックスを設置し、不要衣類を回収。ボックスには服育も表記し、衣類回収・リサイクルを通じて消費者へ服育に対する認知度も高めた。今年も実施しており、服育に対する認知は消費者へも着実に広がりつつある。

〈伝える 感じる/自分を伝える〉

 社会の中で自分は何者かを伝達する上で、衣服は「自分を伝える」という重要な要素を持つ。特に警察や消防といった制服やユニフォームは、そのような存在を伝えることで、社会の安心・安全に直結する部分もある。

 IRいしかわ鉄道(金沢市)や、神姫バス(兵庫県姫路市)の制服を展示。「安心感」「信頼感」「親しみやすさ」をコンセプトに、地元に根付く公共交通機関の顔として制服がその一面を担っている。

〈気持ちを変える/服でスイッチ 雰囲気を創る 帰属意識〉

 制服やユニフォームは、オンとオフの気持ちを切り替える上でも重要な役割を果たしている。事務服では着用環境やその日の気分でアイテムを選択することができ、好みのウエアを着用しても集団美を崩さない多様性を考慮した新しい「働・楽・服」を発信。「ユキトリイ」シリーズでは心地良いシャリ感とドライタッチ、吸水速乾性に優れた夏らしいギンガムチェックを使ったトップスなどを展示した。

〈多様性と公平性/居心地よく共存 持続的な社会発展〉

 近年、性的少数者(LGBTQ)へ配慮する流れから、制服をブレザーへモデルチェンジする動きが活発になっている。学校だけでなく社会においても多様性、公平性といった考えは誰もが居心地よく共存し、今後の持続的な社会の発展のためにも切っても切り離せないテーマになりつつある。

 愛知県の小牧市立中学校では「第3の制服」を採用。個人の価値観や多様性を尊重することを考え、第3の制服として今年から導入している。重ね着をしても奇麗なシルエットを保てるゆとりのあるジャケットに、オリジナルチェックのスカート、スラックスを採用。動きやすさや寒暖へも対応し、制服の進化を感じられる展示で来場者の関心を高めた。

〈未来を語る上で外せない「服育」に/社長 堀松 渉 氏〉

 「衣服を通じて心を育む」という意味を込めた概念「服育」の取り組みが、今年で20周年を迎えました。最初は学校との取り組みが中心でしたが、時を経て学生服メーカーや販売代理店をはじめ、さまざまな連携先と力を合わせながら、服育は今や共通理念として広がり始めています。SDGs(持続可能な開発目標)や多様性など、これまでなかった概念によって服育の考え方も変わってきました。今後は古着回収リサイクル事業「チクマノループ」やユニフォーム管理システム「チクマノハブ」などを通じて、服育をユニフォーム業界全体のソリューションのプラットフォ―ムにしていこうと考えています。これからも当社だけでなく業界の未来を語る上で、服育は重要な概念として発展させ続けます。

〈講演/4識者が服育の可能性・必要性を力説〉

【第一部】 「服から暮らしを変える」

チクマ服育net研究所 有吉 直美 氏

 衣服は「衣食住」の一つでありながら、おしゃれの観点から語られることが多く、「生活を支えるさまざまな役割を担っているものと意識されることは少ない」と指摘。グローバルや環境といった世界の流れを「衣服を通して考えることで、アイデンティティーを育て、多様性や公平性を考えられる服育を広げたい」。

お茶の水女子大学 グローバル リーダーシップ研究所特別研究員 内藤 章江 氏

 被服心理学を通じて開発された「着こなしワークシート」は13年に開発され、900校を超える全国の学校で活用されている。ワークシートを介して生徒同士で「まずは意見を交わすことが大切」と指摘。「共通認識は何かを話し合ってみる」ことで服装の効果を生かした教育、生活につながるとの認識を示した。

【第二部】 「服から社会を変える」

帝人グローバル管理管掌補佐兼RePEaT代表取締役 宮坂 信義 氏

 日々進化するグローバルなリサイクルの最前線情報や、サステイナブルな社会実現に向けて、衣服からできることを紹介。20年以降、将来あるべき社会の実現を見据えた、「社会価値起点」での考えが広がる中、さまざまな視点から「時間はかかるが総合的にやっていく」ことで服育に対する認識を広げる必要性を説いた。

宝塚大学 看護学部教授 日高 庸晴 氏

 調査によると、5・85%の人がLGBTQであると推定されている。日本では学校だけでなく全体でも諸外国に比べ、LGBTQに関する取り組みも法制度も大きく遅れている。教育現場で状況を把握しながら制服をきっかけに「一歩踏み込む」とともに、「制服は子供を守るツールであり、社会の取り組みにもつながる」。