診 先高?先安?

2024年08月30日 (金曜日)

〈ポリエステル長繊維/ユニフォームなどに動き/不確定要素は為替動向〉

 ポリエステル長繊維の市況は7月以降も全体としては勢いがないものの、衣料用途を中心にやや動きも出てきた。ただ、先行きに関しては為替など不確実な材料も多く、楽観はできない展開が続きそうだ。

 日本化学繊維協会のまとめによると、2024年上半期(1~6月)のポリエステル長繊維生産は3万8579トン(前年同期比10・1%減)と大きく減少した。スポーツ・アウトドア用途の海外での市況が振るわなかったことやユニフォーム用途が流通在庫の増加で荷動きが低迷したことが要因だ。

 ただ、7月以降は一般衣料用途でやや荷動きが出始めたことや、ユニフォーム用途も流通在庫の整理が進んだことで糸の荷動きが回復しつつある。また、資材用途は自動車やインテリア分野の動きがいまひとつだが、一般資材用途の需要は低位ながら安定している。

 このため先行きに関しても底入れ感が強まっており、特に一般衣料やユニフォーム用途は現在の流れが継続するとの見方が強い。また、資材分野に関しても一般資材用途は底堅く推移するとみている。

 スポーツ・アウトドア用途は欧州の市況が回復傾向にあることから、輸出を手掛ける産地企業からのオファーも徐々に出始めた。あとは資材用途で自動車関連の荷動きがどこまで回復するかがポイントになる。

 一方、不確定要素となるのが為替動向。一時の急激な円安で原料調達コストの高騰に見舞われただけに、急激な変動に対する警戒感は強い。米国の大統領選挙や日本の首相交代も予定されており、政策変更による為替動向の変化も要注意となる。

〈ポリエステル短繊維/車両用途が回復傾向/生活資材向け猛暑で堅調〉

 ポリエステル短繊維の市況は、低迷していた車両向け不織布用途が回復傾向にある。不織布用途は生活資材向けも堅調に推移している。紡績用途も安定していることから、ようやく底入れ感が出てきた。

 日本化学繊維協会のまとめによると、2024年上半期(1~6月)のポリエステル短繊維生産は3万1723トン(1・1%増)とわずかに前年実績を上回った。ただ、昨年後半から自動車メーカーの不正発覚による生産台数減少で車両用不織布向けの需要が大きく減退したころから大幅な回復には至らなかった。

 それでも7月に入って以降は車両向け不織布用途も徐々に回復傾向となっており、ようやく底入れ感が強まっている。また、生活資材向けも猛暑で制汗シートなどの流通在庫が減少していることで不織布原綿も堅調な荷動きとなっているようだ。紡績用途もユニフォーム分野はワークウエア向けの低迷が続いているが、学生服用ウール混紡向けが安定している。資材向けも特殊品への特化が進んでいるため全体として荷動きは悪くない。

 このため先行きに関しても、低迷が続いている寝装向けや土木資材向けの動向が気になるところだが、全体として悪材料はかなり消化されたとの見方が強い。特に車両用の需要が安定的に続けば、市況をかなり下支えすることになる。

 ただ、為替動向には注意する必要がありそうだ。ここに来て一時の円安がピークアウトし、円高傾向となっているが、これがさらに続けば輸入わたの価格低下につながり、競争が激化する可能性が捨てきれないためだ。

〈綿織物/モノ作る絶対量が減少/需要不振で相場も弱く〉

 綿織物の需要不振が続いている。海外から製品での流入が加速していることに加えて、気候の影響やサステイナビリティーの流れからモノを作る量が減っている。需要が盛り上がらず相場も弱い状況が続きそうだ。

 ある商社は「カジュアル衣料向けがもう一段と悪くなっている」と話す。25春夏向けの仕込みが始まる時期だが動きは鈍いままだ。昨年の暖冬で秋冬向けの流通在庫が積み上がったことが影響した。商社は「モノを作る絶対量が減っている」と続ける。

 モノを作り過ぎない傾向はサステを意識し発注側が注文を抑制しているためだ。店頭ではプロパーでの消化率を高め、在庫を抱えることを回避する傾向が強まっている。モノを作る量が減れば、必然的に綿織物の需要も振るわない。

 店頭での販売が好調にもかかわらず、綿織物の国内需要が低迷しているのは、海外製品の流入加速も関係しているようだ。中国では景気の悪化で生産スペースが空いており、日本向けの小ロットでも受けるようになっている。特に衣料品は中国で生地から製品にまで仕上げて輸入されるケースが増えているとされる。

 衣料向け以外の用途も総じて厳しい。商社によると、切り売り向けはインバウンド需要で和柄が好調なものの、一部にとどまっており、「今後も伸びる要素はなさそう」。底堅く推移していた資材向けは反動減で落ち込んでいる。ただ、祭り向けは需要の回復で生地が不足している。

 需要が低調なため相場も弱い状況だ。商社は「今後も需要は厳しい状況が続きそう。当面は弱い相場が続くのでは」と指摘する。

〈アクリル短繊維/需給バランス改善傾向/生産規模は大幅縮小〉

 アクリル短繊維の荷動きは、7月以降も全体として勢いがあるわけではないが、日系アクリルメーカーの荷動きは比較的堅調に推移した。

 日本化学繊維協会のまとめによると、2024年上半期(1~6月)のアクリル短繊維生産は3万5091トン(前年同期比18・1%減)と大幅減少だった。三菱ケミカルグループが23年3月末で生産・販売を停止したのに続き、24年に入ってからは日本エクスラン工業も不採算品の縮小を進めたことで国内の生産規模が大きく減少したためだ。

 ただ、生産縮小によって今年に入ってから在庫は大きく減っており、需給バランスの改善が進んだ。需要も底入れ感が強まり、6月までは衣料用途が需要期のため堅調に推移した。

 7月以降は衣料用途が需要端境期に向かうため荷動きも鈍化しつつあるが、リビング・インテリア用途の動きが増えてきた。

 また、低迷していた中国向けも、ようやく市況に底入れ感が出ている。資材用途も引き続き安定している。

 このため9月以降も市況は改善傾向が続くとの見方が強い。国内、海外ともに今のところ大きな悪材料は少ない。しばらく需要端境期を経て次の需要期に向かうことになるが、衣料用途は懸念材料だった流通在庫の整理が進んでいることから、次の秋冬物に向けた需要が期待できる。アウターも現状が需要の底との見方が強く、今後の回復が期待される。

 資材用途では世界的な電気自動車(EV)シフトのトーンダウンでブレーキ・クラッチ摩擦材の添加材向けの需要が回復傾向となっていることも好材料となる。