特集 染色加工(4)/新しい市場の形に対応/吉田染工グループ/尾張整染/帝人テクロス/鈴木晒整理/艶金

2024年08月29日 (木曜日)

〈環境への取り組み強化/生地染め順調/吉田染工グループ〉

 吉田染工グループ(和歌山県紀の川市)は環境負荷低減に向けた取り組みを重視し、温室効果ガス排出量削減に向けて取り組む。省エネなどの取り組みを強化していく考えで、SBT(サイエンス・ベースド・ターゲッツ)認定の取得も計画している。

 足元の商況は分野によってまだら模様で、生地染めの貴志川工業は、主力のインナー用途、アウター用途とも堅調に推移する。海外向けのニットドレスシャツ用途が引き続き堅調なほか、インナーなども伸びている。市場環境は不透明感を増しているが、日本で綿ニットの染色加工を行う企業が少なくなったことも数量増につながっているとみられる。

 糸染めの吉田染工は、前期(2024年3月期)が順調だったが、足元は減速感が見られ、昨年に好調だった資材用途も減少に転じている。今後は「環境」をキーワードにした取り組みを強化していく考えで、新商品開発のほか、生産工程や設備の見直しを含めて取り組みを進める。

 保有する横編み機を生かして展開するジャカードニットのオーダーシステム「ソメカラ」の拡大にも注力する。デザイナーのコレクション関連や展示会用などさまざまな分野で活用されており、今後はBtoCでも拡大を狙う。

〈開発と投資は継続/柔軟な生産計画組む/尾張整染〉

 カーシート地染色が主力の尾張整染(愛知県一宮市)は今期(2025年3月期)も開発に力を入れる。昨年9~12月、自社で「第7回加工技術プレゼンテーション」を4年ぶりに開き、各種新加工を紹介したが、同展を通じてさまざまな業種から引き合いがある。工場見学も増えており、年間約50社。7月は6社も訪れた。自社展に続き、今年は10月30日~11月1日に開催される、日本最大級異業種交流展示会「メッセナゴヤ2024」に出展する。

 開発強化の一方で設備投資も計画通り。5月には日阪製作所の最新鋭液流染色機を導入した。「従来機の2倍の生地を使用できる一方、水の使用量は従来機と同じで済む」(中島俊広常務)と言う。起毛機も1台入れ替える。猛暑による熱中症対策で工場の遮熱塗料の塗布、スポットバズーカの導入など労働環境改善の投資やデジタル技術で企業を変革するDX化も引き続き行う。

 当面は自動車メーカーの不正に伴う生産減の影響やインテリアの不振などから「先行き不透明感が強い」上、製造コストも上昇する中で「いかに工場運営するか」が課題。コストを抑えられるように柔軟な生産計画を組む。

〈稼げる体制へ整備/一貫生産への切り替えで/帝人テクロス〉

 糸染め、織布などを行う帝人テクロス(愛知県稲沢市)は引き続き生産体制の整備を進める。同社はチーズ染色機、織機、撚糸機など各種設備を持ち、カーシート地の生産を主力とする。ナノファイバーやマイクロファイバーなどの特殊な糸染めも行うなどの技術開発力も備える。

 しかし、採算的に厳しい状況が続いていたため、構造改革による収益改善に着手した。その一つが自社での一貫生産で、高かった外注比率を引き下げ、稼げる体制への切り替えを図る。老朽化織機の更新は順次進め、今夏に撚糸機も入れ替える。チーズ染色用の先巻き(染色前に穴開きボビンに糸を巻き直す)ワインダーも6錘増強し10錘体制に増強する。

 「一貫生産で存在価値は高まる。バリエーションも広がり、さまざまな企業と取り組みも構築できる」(中島俊広取締役)とし、そのためにもハード面に加えて従業員の意識改革、育成に力を注ぐ。

 同社は自動車内装材製造のスミノエテイジンテクノ(STT、大阪市中央区)の子会社で、尾張整染(愛知県一宮市)の親会社でもある。

〈新市場へ訴求、拡販へ/起毛など機能付与加工も/鈴木晒整理〉

 天然繊維向け加工の鈴木晒整理(浜松市)は新市場に向けた訴求を強めながら拡販を図る。ファッション以外に資材・スポーツ向けの機能付与加工なども力を入れる。

 前期(2024年7月期)はスポーツや資材向けが堅調で、厚手物関連の加工が好調だった。売り上げ比率では全体の3割まで高まる。

 東京営業所の生地販売事業も順調に販路を広げている。年2回の単独展に加えて、製販で協業する企業との合同展にも出展を続ける。

 現場の若返りも進む。今春は新卒、中途含めて5人の若手が入社し平均年齢は40歳まで引き下がった。半面、70代以上のベテラン従業員も健在で、培った技術を駆使しながら後進の指導を行う。

 遠州産地や愛知県蒲郡市が中心の三河産地の企業とも生産面で協業を続けている。企業双方が学ぶ姿勢を持ちながら、技術向上を図る機会の創出にもなっていると言う。

 生地に風合いを付与する加工以外にも、起毛加工も順調に増やす。アサヒ起毛(愛知県蒲郡市)が所有する起毛機を使用した加工依頼も増加。スエード調の起毛加工への依頼が多いそうだ。

〈自販事業など多彩に/製品染めも検討/艶金〉

 編み地染色の艶金(岐阜県大垣市)は多彩な事業を展開する。本業の染色加工に加えて、衣料向け生地や資材向けのロボットスーツ、環境配慮の製品ブランドの販売といった自販事業も手掛ける。

 上半期(2~7月)売上高は前年同期比8%の減収だった。染色加工の落ち込みが響いた。ただ、自販事業のロボットスーツの販売は堅調で、自動車向け以外の用途開拓が進んだ。

 新たな事業の立ち上げも計画中だ。大学や大学発ベンチャーと環境に配慮した染色技術や染料の研究・開発を共同で進めており、将来的には環境問題の解決につながる事業とする。

 本業の生地染めに加えて、製品染めを手掛けることも検討する。古い染色機を撤去し、来年までに製品染め用の設備を導入する。古着などを染め直して付加価値を高めた商品として提案する。

 同社は多様な機能加工をそろえており、製品染めではこうした加工もプラスして差別化を図る考え。UVカットや抗菌防臭、接触冷感、汗染み防止などの加工を生かす。本社の一室に特殊加工をまとめた部屋も設けた。