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浅野撚糸 世界へ、新時代へ(下)/無撚糸を超える糸、新領域へ

2024年08月29日 (木曜日)

 新たな糸を開発し、タオル販売とともに世界に打ち出す――。浅野撚糸はこのほど、無撚糸が持つボリュームと柔らかさを残しつつ、毛羽落ちを大幅に減らしながら耐久性を維持する特殊撚糸「超無撚糸」を開発した。同社によると“世界初”の開発だと言う。

 「スーパーゼロやタオルのエアーかおるがいつまでも需要があるとは限らない。新たな開発を急ぐ必要がある」と浅野雅己社長は常々話していた。超無撚糸の開発は実に17年の歳月が費やされた。開発途中でスーパーゼロの生産技術が有効だと分かり、その技術を応用した。

 スーパーゼロは綿紡績糸とクラレトレーディングの水溶性糸「ミントバール」を交撚し、通常の反対方向に2倍の撚りを掛けた強交撚糸だ。この撚り回転数を少なくしながら調整と研究を重ねた結果、綿糸と水溶性糸を通常の逆方向に1・3~1・5倍に撚り合わせて弱高撚糸にするのが最適だという結論に達した。

 次に大事なのが量産する環境の整備だった。糸が絡まる“ビリ”をなくすため、工場内の空調管理と徹底と、スチーム処理する蒸気の水温も重要だった。2023年4月、双葉事業所(福島県双葉町)にスチームセッター1台を導入し、量産に向けた調整を進めた。双葉事業所は空調管理がしっかりしており、地下水の水温が適切だったため、環境整備のめどが付いた。

 この超無撚糸は「スーパーゼロツイスト」と名付け、スーパーゼロと別の品種で拡販を狙う。毛羽落ち率は0・063%で、日本タオル試験協会が定める無撚糸基準のおよそ13%弱。タオル製造・販売企業も驚くような非常に少ない数値だ。

 タオルは「わたのはな」シリーズとして販売する。風合いを残しつつ、パイルがしっかり形成された表面が花のように開く形状を表現した。タオルは今治産が3種類、ベトナム製5種類。糸番手や撚り数で品種が分かれる。1・3倍に撚った糸のタオルを「八分咲き」、1・5倍は「五分咲き」とした。幅が通常のバスタオルの半分で、120×30㌢。このサイズを「バスタオル半分時代」の名称に統一する。

 初年度で糸は2億円、タオルの販売は3億円を見込む。糸の販売は中国やベトナム、ポルトガルなどのタオル製造企業に加えて、新たな販路を開拓する。タオルの海外販売も進めている。販売国は非公表だが、アジアの高級ホテルのアメニティー向けにアプローチ中。ホテル向けは高次元の耐洗濯性が求められるため、条件に合わせた調整が必要だが、具体的に進行している案件もある。

 新たな品種を含めた糸とタオルの販売で国内外の市場を切り開く浅野撚糸の挑戦は続く。福島県双葉町から世界へという震災からの復興ストーリーとともに。(おわり)