特集 スクールスポーツウエア(1)/体育着の価値伝える

2024年08月20日 (火曜日)

 今春の入学商戦では、素材の入荷遅れなどがありながらも、大手学生服メーカーを中心に各社が安定納品に注力した。来春に向けても早期対応などによって安定的な生産、納品ができる体制を整える。また、さまざまなコストが上昇する中、アイテムの価格改定も焦点となる。一部で体育着の自由化の動きが出る中、改めて体育着の価値を訴求することも重要だ。

〈差別化提案で新規獲得〉

 今春もスクールスポーツ事業を展開する学生服メーカーなどは、近年のニーズを捉えた体育着の提案によって新規校の獲得につなげた。

 スクールスポーツ市場ではトップシェアの菅公学生服は自社の「カンコー」ブランドを中心に提案。特に「カンコープレミアム」ブランドの販売がけん引する。軽量性や耐久性、防風性といった高い機能性が評価されており、今春は同ブランドで「60校の新規校を獲得し、累計採用校は560校」(勝山裕太営業本部企画推進部スポーツ企画推進課長)となった。

 同ブランドは高校向けのシンプルなデザインが特徴だが、2年ほど前から展開する活発的なイメージを与える明るめの色を採用した中学校向けの商品も採用に貢献した。

 トンボは2022年から展開するライセンスブランド「アンダーアーマー」の新規獲得が拡大する。同社の強みである昇華転写プリントも、学校独自のオリジナルデザインで差別化が図れることから、新規獲得校の半数以上の学校が採用している。“次世代型体育着”として訴求するウオームアップウエアの「ピストレ」も、豊富な素材ラインアップによって新規獲得校の半数近くの採用を得る。

 「ほぼ例年並みの新規校を獲得した」とするのは、明石スクールユニフォームカンパニーの中村孝営業本部スクール営業部長兼第二営業課長。「デサント」ブランドの採用が順調で、今春は80校の新規校を獲得し、累計採用校数は2300校となった。

 大手学生服メーカーと差別化した提案で販売につなげる企業も。オゴー産業(岡山県倉敷市)は近年の体育着ニーズに応える体育着をそろえる。また、小学校向けの体育着も提案できることも強みだ。

 スポーツ専業では、ユニチカメイト(大阪市浪速区)は今春の入学商戦、前倒しの生産や公立高校での入学者数の定員割れなどで在庫が若干増加。展開する「プーマ」の採用は20校にとどまった。

〈新ブランドの動きも〉

 学生服分野では20年ごろから中学校を中心に、制服をブレザーへと刷新する動きが進んでいる。4年ほど経ち、「今後は体育着のモデルチェンジが本格化しそうだ」との声も聞かれる中、各社は来入学商戦に向けても新規校からの受注獲得に向けて攻勢をかける。

 菅公学生服は引き続き自社ブランドを軸に拡販する。さらに同社はこのほど、新ブランドの「カンコーブルイク」を打ち出した。スクールバッグやゴルフバッグ、アクセサリーのOEM生産などを手掛けるEQ japan(千葉県松戸市)のスポーツブランド「ブルイク」とのコラボレーション体育着で、ニュアンスカラーを使った色合いが特徴。勝山氏は「どのスポーツにも合うマルチスポーツウエアとして展開していく」と説明する。

 昨年に新たな自社ブランド「FEEL/D.」(フィール/ディー.)を発表した明石スクールユニフォームカンパニー。体育の授業以外に体育着の着用シーンが広がる中、シンプルでかっこいいデザインを取り入れる。来春が初年度投入となるが、「目標50校の7~8割決まっている」(中村氏)。今後は同ブランドをスクールスポーツの新たな柱として育てる。

 トンボでは、アンダーアーマーやピストレなど、各ブランドを伸ばす。また、昇華転写プリントの採用が増加傾向にあることから、昇華転写プリンターやプレス機、自動裁断機(CAM)などの設備投資も計画する。

 “フェーズフリー”という新しい観点から販路拡大を目指すのは瀧本(大阪府東大阪市)。フェーズフリーとは、平常時、災害時ともに役立つデザインにしようとする考え方だ。同社はフェーズフリー協会から、学生服メーカーとして初めて「フェーズフリーアクションパートナー」に認定。「ヒュンメル」ブランド3型で認証を取得した。

 ユニチカメイトはプーマで約30校の獲得を目指す。吸放湿素材「ハイグラ」使いなど、独自素材による商品開発で他社商品との差別化を図る。同ブランドでは体育館シューズを今春から投入するなど周辺アイテムも拡充した。ワコールが女子中高生の声を基に企画したスポーツブラやショーツなどの販売も始めている。

 体育着でも環境に配慮した素材を採用する動きも進む。ミズノは25春夏から、ペットボトル由来の再生ポリエステル使いの「フィールドドライ」で企画したウオームアップスを発売する。

〈価格改定ポイントに〉

 原材料価格の高騰が続いていることから、各社は利益確保が難しい状況となってきた。来春に向けては商品の値上げも焦点となってくる。

 菅公学生服は「昨年ごろから価格改定に動いている」(勝山氏)。「原反が毎年のように値上がりしているほか、海外の仕入れ商品も円安の影響もありコストアップとなっている」とするのはトンボ。同社では5年ぶりの価格改定に向けて交渉を進めている。明石スクールユニフォームカンパニーも同様で、「顧客の理解を得ながら価格改定を進めていく」(中村氏)とする。

 今春に引き続き、来春に向けても安定した納品が鍵となる。素材の供給などが安定しない中、各社は早期の注文の締め切りや生産キャパシティーの確保など、早めの対応に注力することで安定生産、安定納品につなげる。

 体育着においては「体育着を廃止して自由化する動きが局地的にではあるが出てきている」(明石スクールユニフォームカンパニーの中村氏)との声も上がる。中村氏は「体育着の価値を改めて伝えていかなければならない」と語る。菅公学生服も「体育着の自由化を危惧している」(勝山氏)とする。「安心感や耐久性、集団美や、着用するとスイッチが入るといった体育着の価値を今まで以上に伝えていかなければならない」と強調する。