特集 安心・安全(5)/ウルトラマン空調服/熱中症対策/酷暑に欠かせない存在へ/チクマ/空調服

2024年08月09日 (金曜日)

 厚生労働省の人口動態統計によると、熱中症による死亡者数は1993年以前、年平均で67人だった。しかし、94年以降は急増し年平均で663人となっている。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス(C3S)」によると、6月は記録上最も暑く、13カ月連続で月の世界平均気温が観測史上最高となったと発表した。国内では7月後半から梅雨明けし、記録的な暑さが続く。この酷暑を乗り切るためにも、電動ファン(EF)付きウエアをはじめとした繊維に関連するアイテムがますます必要不可欠となってくる。

〈「氷点下ベスト」開発/ドライアイスで冷やす新機構/チクマ〉

 商社のチクマ(大阪市中央区)は、産業装置など機械製造の櫻製作所(同淀川区)と連携し、ドライアイスで冷却するウエア「氷点下ベスト」を開発した。櫻製作所が開発した簡単に手のひらサイズのドライアイスを作る小型装置と合わせて展開。防爆性が求められる製造業やエネルギー関連の業種など幅広い用途へ提案を図る。

 櫻製作所が開発したドライアイス製造装置「ドライアイスステーション」は、液化炭酸ガスを原料に毎分最大で手のひらに乗るくらいのドライアイス4個の製造が可能。そのドライアイスをベストの背中、両脇3カ所に設けたポケットに入れて冷却できる。ポケットは低温やけどをしないように構造を工夫した。

 持続時間は外気温が34℃の場合、2~3時間。保冷剤であれば水滴などで濡れることもあるが、ドライアイスは気化することから濡れる心配がない。櫻製作所によると同装置の価格は約300万円(税抜き)を想定し、レンタルでの展開も検討。液化炭酸ガスは一般的な産業用ボンベ(160キロ)で、ドライアイスが250個作れる。

 既に名古屋や東京の展示会で披露したところ関心が高く、鉄道や自動車メーカーなどに「興味を持ってもらっている」。7月に開催された「猛暑対策展」でも注目された。

 ユニフォーム事業部では氷点下ベストをはじめ、暑熱対策ウエアの販売に注力。特にEFウエア「チクマノスマファ」では、独自の2層内圧式構造によって他社にないウエア形状や、帝人グループや電動工具メーカー最大手のマキタと共同開発している信頼性から別注向けへ販路開拓が進む。自動車部品メーカーへ5千着の納品が決まったほか、鉄道やテーマパークなど、首都圏での採用も増えている。

〈初のキャラクター協業品/本格仕様ながらタウンでも/空調服〉

 昨夏に匹敵する今年の猛暑は、空調服(東京都板橋区)にとっては電動ファン(EF)付きウエア販売の追い風となっている。6月からの断続的な暑さで販売が急増、8月の追加発注を行った。来期に向けても早めの受注をとっている。

 今季の注目商品は、20周年企画の一環として、円谷プロダクションと協業で開発した「ウルトラマン」カラーを取り入れたEFウエア「空調服」。SF特撮ヒーローキャラクターとの直接的な協業商品は初の試みとなった。

 「灼熱(しゃくねつ)の暑さと戦う、地球のヒーローたちへ」をコンセプトに、デバイス2種計1500点、ウエアベスト4種計2千点の限定販売。スターターキットは、ウルトラマンカラーの最大電圧18・0ボルトバッテリーと最大瞬間風量毎秒106㍑のEF、充電器など起動時に必要なデバイスをそろえた。EFウエア初心者向けのモーター音を低減した小型軽量7・2ボルトバッテリースターターキットと合わせて2種ある。

 ウルトラマンカラーのベストは、ワークでもタウンユースでも着る場所を選ばないシンプルなデザイン。人気怪獣モチーフでは、特徴的な幾何学模様を脇下にプリントしたモノトーン仕様の人気怪獣「ダダ」タイプ、背中にちらっと見える「ピグモン」がキュートで左胸のメッシュポケットの下地にピグモンの手を再帰反射プリントしたピグモンタイプ。

 フルハーネス器具対応で「科学特捜隊」ユニフォームをモチーフにしたベストは、胸上部にハーネスの休止フック、ファン穴にはファン落下防止メッシュを採用した本格仕様。

 今期の販売が順調なら来期には第2弾も検討していきたいとしている。

 一方、防寒対策向け電熱式保温ウエアブランド「サーマルギア」は今冬に向けても例年通りの販売を計画する。空調服のバッテリーに対応し、強(約60℃)、中(約50℃)、弱(約40℃)の3段階で温度調整でき、約10秒で発熱する。ヒーターユニットは約0・5ミリと薄いフィルム状で曲げたり丸めたりしても耐久を保ち、シリコンベースで発火の心配がない点が特徴。

〈今夏はペルチェ式目立つ〉

 熱中症対策に有効的な暑熱対策ウエアは、電動ファン(EF)付きウエアをはじめ、ペルチェ素子式や水冷式など選択肢が増えてきた。今夏は電気の流れによって熱が移動する性質を利用して冷やすペルチェ素子式によるウエアの新商品が目立った。約10万点の販売量が推計され、各社から冷却装置の数や位置などさまざまな特徴を持つウエアが販売されている。

 チクマは、富士通ゼネラルが展開する暑熱対策に効果のあるウエアラブルエアコン「コモドギアⅰ3(アイスリー)」を組み込んだワークウエアを共同で開発した。コモドギアはペルチェ素子によって、首に装着した冷却部で頸(けい)動脈を流れる血液を冷却・加熱し、効率的に冷暖房効果を得ることができるウエアラブルエアコン。これまでに鉄鋼やプラント業界など500社以上で採用実績があり、ワークウエアと組み合わせることで新たな販路を広げる。

 水冷式ウエアは昨年、新商品の投入が目立ったが、今夏は少なめ。2時間に1回程度、凍らせたペットボトルまたは氷の交換が必要な点から、昨年は予想より販売が伸び悩んだ。ただ、バッテリーを使わないタイプは今後広がる可能性がある。

 酷暑を乗り切る上で必要不可欠となる暑熱対策ウエア。まだまだこれからも進化が続く。