特集 安心・安全(2)/難燃・防炎/意識の変化で需要拡大へ/クラボウ/ユニチカトレーディング/大和紡績/ダイワボウレーヨン

2024年08月09日 (金曜日)

 厚生労働省によると2023年の労働災害における「火災」での死傷者数は49人で、前年の70人に比べ減少した。しかし、「高温・低温物との接触」では3628人で、前年の3073人からは大きく増えた。また、消防庁によると23年の総出火件数は、3万8659件で、前年の3万6314件に比べ6・5%も増加した。平均すると、約14分ごとに1件の火災が発生していることになる。労働安全や家庭内での防災意識の高まりによって、燃えにくい性質の難燃素材に加え、難燃剤を付与し燃えにくくした防炎素材の需要は、今後も拡大していくものとみられる。

〈2素材、ユニフォームで拡販/安全衛生の高まり捉える/クラボウ〉

 クラボウは難燃素材の拡販に力を入れている。今期(2025年3月期)に入ってから、モダクリル・綿混を中心とした素材難燃「ブレバノ」、綿100%を中心とした後加工難燃「プロバン」といった難燃関連の販売量は前期比5~10%のペースで増えている。

 ブレバノの販売は既に製造業向けのユニフォームを中心に複数の大口案件が決まり、「計画達成が見えてきた」。ISO(国際標準化機構)やNFPA(全米防火協会)基準に対応しており、円安で海外の難燃素材が割高になっている中、「日本にもハイスペックな素材がある」として、認知度も高まってきた。アラミド繊維が過剰品質だと感じるユーザーに対する受け皿にもなっている。

 プロバンでは綿100%だけでなく、合繊混などの素材開発も進む。海外製の後加工難燃では洗濯耐久性があまりないケースが多いが、プロバンは洗濯50回が可能で、その性能が認識され、販路が広がる。

 海外へは拠点のある東南アジアを中心に販路を開拓。ベトナムやインドネシア、タイで開かれた展示会に相次いで出展し「数件から引き合いがあり、現在も交渉を進めている」と言う。

 企業での安全衛生に対する意識の高まりを受け、アシストスーツ「CBW」、体調管理システム「スマートフィット・フォー・ワーク」でも市場深耕に取り組む。CBWではカタログ卸への掲載によって販売が増加。採用企業のユニフォームに合わせて色や素材を合わせることができるカスタマイズ性から大手企業への採用も決定した。

 スマートフィットは熱中症対策だけではなく、転倒検知機能や位置情報機能などの付加機能が評価され、複数の大口顧客への採用が決まるなど、順調に販路開拓が進んでいる。

〈難燃から感染防護まで/猛暑対策で注目の「ハイグラ」/ユニチカトレーディング〉

 ユニチカトレーディングは高機能素材「プロテクサ」シリーズで難燃、高視認、感染防護まで幅広い分野での提案を進めている。特に難燃分野は難燃作業服だけでなくアウトドア用途でも採用されている。

 難燃素材「プロテクサ―FR」は、難燃ビニロン・綿混素材。後染め可能なことで小ロットにも対応できる点で評価が高い。また、ビニロンは合繊の中でも数少ない親水性繊維のため、吸放湿性に優れ、着心地の面でも優位性がある。このため難燃作業服に加えて、近年ではアウトドア衣料でも採用が進む。

 高視認染色素材「プロテクサ―HV」はポリエステル100%品だけでなく裏綿タイプもそろえる。夏用裏綿タイプは特許も取得した。警備服や物流関係のウエアで採用が進むほか、電動ファン付き(EF)ウエアでも実績が増えている。

 感染防止素材「プロテクサ―PS」は使い捨てではない感染防護服へ提案を進めた。総務省消防庁の「消防防災科学技術研究推進制度」にも採択されており、大学や自治体の消防本部・消防組合との共同研究・開発が進む。

 一方、猛暑対策のクーリング素材として改めて評価が高まっているのが吸放湿ナイロン長繊維「ハイグラ」。特にニット生地で採用が拡大している。オンワード樫山とのコラボレーションで「23区ゴルフ」に採用されたほか、ユニフォームでも企業別注を中心に実績が増えている。そのほか、太陽光遮蔽(しゃへい)によるクーリング機能ポリエステル素材「サラクール」もEFウエア向けなどで提案に力を入れる。

〈カジュアル、寝装で広がる/柔らかい風合い「ノンブレイズ」/大和紡績〉

 大和紡績は、セルロース混難燃生地「ノンブレイズ」の拡販に力を入れている。生地の風合いが柔らかく、他の難燃生地にありがちな硬さがあまりないことから、24春夏向けでTシャツに採用されたほか、24秋冬でもカジュアル用途で採用されるなど、少しずつ広がりを見せる。

 ノンブレイズはセルロース混難燃生地で、ダイワボウレーヨンの練り込みタイプ難燃レーヨン「DFG」とモダクリル、綿の混紡糸を使用。26以上で難燃性があるとされるLOI値では、未洗濯の生地とともに試験洗濯10回後でも26以上の数値を確保する。炭火による火の粉防融試験でも溶融孔なしという結果を得ているほか、顧客の要望から実施した日本防炎協会の防炎性能試験にも合格しており、安全性もしっかりと訴求できる。

 アウトドアブームがやや下火となり、カジュアル向けで難燃素材を求める動きは鈍化しつつある。しかし、今年1月に能登半島地震が発生するなど、災害への備えに対する意識の高まりを受け、毛布など新たな用途への提案も強化。労働環境の安全性向上を目的に、難燃素材の採用が増える傾向にあるユニフォーム用途でも使うことができる。

 独自技術によるノンブレイズの新たな素材の開発も進めており、難燃素材を必要とする市場を深耕する。

 同社は繊維製品の機能性を示す「SEKマーク」認証の清潔や快適、衛生といった加工素材群を充実。また、撥水(はっすい)加工では、「フッ素フリー」を用いる動きが増えていることを受け、「レインペットNW」などフッ素フリー撥水加工素材の拡充にも取り組む。

 安心、安全を切り口に、インナーや寝装品、インテリアなど幅広い用途へ販路開拓を活発にしている。

〈消防などの分野で評価/米の重金属規制強化追い風/ダイワボウレーヨン〉

 ダイワボウレーヨンは、リン系難燃剤練り込みレーヨン短繊維「DFG」とシリカ系防炎剤練り込みレーヨン短繊維「FRコロナ」シリーズという異なる特性の防炎・難燃レーヨンをラインアップする。特に近年、難燃レーヨンの需要が海外を中心に拡大している。

 DFGは輸出を中心に販売が拡大した。主に難燃防護服での採用が中心だ。近年、アジア諸国でも労働現場での安全意識が高まり、難燃作業服の採用が増えたことで需要が拡大している。また、民需だけでなく消防や安全保障分野でも評価が高まる。このため引き続き民需、官需いずれでも案件を獲得することでさらなる販売拡大を目指す。

 一方、FRコロナは炎に対するバリア性という特性を生かし、米国を中心にベッドマットのウレタンを包む防炎材として豊富な実績を持ち、現在は紡績可能な「FRL」が販売の中心だ。ここ数年は米国での金利上昇に伴う住宅着工件数の減少などもあって需要が減退傾向。このため現在は販売も鈍化している。

 ただ、米国のベッドマット分野には底堅い需要があることも変わりはない。このため米国のインフレが収束し、金利も低下して住宅着工件数が回復すれば、再び販売量も拡大できるとの期待を寄せる。

 また、米国では重金属規制が強化されており、アンチモンを含む防炎剤を使った防炎素材からシリカ系防炎剤を使うFRLへの切り替えが進む。こうした動きを追い風にして、新規案件の獲得を目指す。