特集 スポーツ&アウトドアウエア(2)/素材編 高機能と循環経済実現を追求/東洋紡せんい/ユニチカトレーディング/クラレトレーディング/旭化成アドバンス

2024年08月02日 (金曜日)

 持続可能な素材開発や効率的な製造、耐久性の高い製品、リサイクルプログラムの確立など、循環経済実現に向けた取り組みが各方面で進んでいる。スポーツ・アウトドアウエア業界においてその一翼を担う素材メーカーの注目商品を紹介する。

〈風合に優れる“一格上”/東洋紡せんい〉

 東洋紡せんいは、アパレルがスポーツ・アウトドア分野で“一格上”の商品企画を強めていることを受け、これに対応する高付加価値素材の提案を強化する。得意の長短複合紡績技術を生かし、天然繊維の活用も進める。

 同社のスポーツ素材販売は、市況に勢いが感じられないものの2024年度第1四半期(4~6月)は販売数量、売上高ともに計画を上回る勢いで推移した。特にスポーティーカジュアル用途が堅調となり、ポリエステル長繊維高密度編み地「スクラムテック」などが好調だ。

 また、フルダルポリエステル長繊維によるUVカット機能編み地「レイブロック」も海外を中心に引き合いが増加した。スピンドル方式仮撚り糸によるハイゲージ編み地のため、一般的なフリクション方式仮撚り糸による生地と比べて風合いに優れる点で評価が高い。このため改めて打ち出しを強化する。

 また、ウール・ポリエステル長繊維複合紡績糸「マナード」など天然繊維を活用した生地もアウトドア分野を中心に提案する。

 スポーツ・アウトドア分野では最高級ゾーンを中心にウール、綿、麻など天然繊維のニーズが底堅くあることから、そこに長短複合紡績技術を生かした高付加価値素地を提案し、需要の掘り起こしを進める。

〈吸放湿ナイロンが伸長/ユニチカトレーディング〉

 ユニチカトレーディングは、ナイロンフィラメント「ハイグラ」の提案を強化している。ロングセラー商品の一つで、吸放湿性による蒸れ軽減などの機能が改めて注目を集める。春夏は高遮熱生地、秋冬は蓄熱保温素材と組み合わせるなど、年間を通じて展開できるのも強みだ。

 ハイグラは、独自の複合紡糸技術で開発した吸放湿性ナイロンフィラメント。ナイロン本来の特性や質感を維持しながら、蒸れ感やべとつき感を抑制し、さらっとした着心地を実現する。ゴルフをはじめとするスポーツ関連のほか、ユニフォーム用途でも採用が増えている。

 春夏シーズン向けでは、遮熱クーリング効果やUVカット性を持つ「こかげマックス」と融合した「ハイグラクール」を提案。秋冬向けでは、蓄熱保温や起毛と組み合わせた「ハイグラウォーム」を投入する。ユニチカグループの検査機関であるユニチカガーメンテックと連携し、機能の可視化も図っている。

 持続撥水(はっすい)の「タクティーム」の注目度も高まっている。独自の特殊複合糸を使用することで生地表面に微細凹凸構造を形成し、高い水滴転がり性を実現している。

〈最高級ラインに独自素材/クラレトレーディング〉

 クラレトレーディングは、スポーツ・アウトドアブランドの最高級ラインに向けて独自の高付加価値素材提案を進める。昨年発表したシンジオタクチックポリスチレン(SPS)繊維「エプシロン」も採用が始まった。

 同社の2024年度上半期(1~6月)のスポーツ素材・製品販売は、学販体育衣料が流通在庫増加で苦戦したが、スポーツ・アウトドアが好調に推移。取引先アパレルの販売が好調で、特にインバウンドが需要を底上げしている。

 十字断面ポリエステル繊維「スペースマスター」はマテリアルリサイクル原料に変更し、透け防止・遮熱・UVカット機能素材「エクステージ」はJEPLAN(ジェプラン、日本環境設計)のケミカルリサイクル原料を使用したタイプを提案している。

 エプシロンも25春夏から採用が始まった。疎水性の高さを生かし、撥水(はっすい)加工なしで速乾性を実現できる。撥水加工剤に含まれる有機フッ素化合物(PFAS)への規制が強まる中で、アパレルの関心は高い。

 アウトドア向けリップストップ生地にポリアリレート繊維「ベクトラン」、シューズ向けに人工皮革「クラリーノ」を提案するなど事業横串の取り組みにも力を入れる。8月の国際展示会「インターテキスタイル上海」にも出展し、これら素材を積極提案する。

〈環境規制対応で高機能/旭化成アドバンス〉

 旭化成アドバンスは、欧州で強化が進む環境・化学物質規制にも対応したスポーツ素材の提案を拡充する。キュプラ繊維「ベンベルグ」を活用した編み地でニッチ市場への提案にも力を入れる。

 同社は、ナイロン長繊維織物を中心に欧米スポーツ市場への販売を得意とするが、2024年度第1四半期(4~6月)の販売は勢いがない。流通在庫が多い欧州の市況が振るわないことが要因。また、国内は学販体育衣料が、やはり流通在庫増加で低迷している。ただ、欧州のスポーツ・アウトドア市場は底入れ感があり、今後は回復に向かうとみる。こうした中、ナイロン長繊維織物「インパクト」シリーズを中心に提案を強化する。

 特に環境・化学物質規制が強化される流れを受け、撥水(はっすい)剤に含まれる有機フッ素化合物(PFAS)やウレタン加工で使うジメチルホルムアミド(DMF)を使用しない環境配慮型透湿防水生地「インパクトΣ」を打ち出す。PFASとDMF非使用でも高い透湿性と耐水圧を実現した。そのほか、高通気・撥水性に加えてUVカット性も付与した「インパクトα」も重点提案する。

 ベンベルグ使いニット生地で、サイクリングやランニング市場での新規開拓にも力を入れており、徐々に評価が高まる。