繊維ニュース

特集 全国テキスタイル産地Ⅱ(1)/生地商社編/サンウェル/双日ファッション/宇仁繊維/柴屋

2024年07月30日 (火曜日)

〈サンウェル/社長 今泉 治朗 氏/国内一貫生地を投入〉

 当社は生地の染色加工の大半を日本の染色加工場に依頼しています。色や風合いを追求する当社の生地企画に、日本の染色加工場の技術力は欠かせません。繊細な色出し、特殊加工などは海外ではできない日本ならではの職人技ですし、日本の生地業界、繊維業界の財産と言えます。

 少子高齢化や海外シフトの中でこの高いレベルをどうやって維持するかが課題です。国内外に存在するさまざまな認証を取得することはその一つかもしれません。大手の染色加工場では既に取得されているケースも多いですよね。特に欧米のブランドでは認証が必須になってきています。環境配慮やトレーサビリティーが、売るためにより重要な要素になっているということです。認証があると当社としても売りやすいですから、積極的にいろんな認証を取得してもらえたらと思いますし、可能な限りそのための協力もしたいと考えています。

 当社は染色加工の大半は国内ですが、生機は玉不足という背景もあって輸入がメインです。しかし、日本のモノ作りに協力するという観点で、国内生機を国内で染色加工した生地シリーズを打ち出します。

 当社には備蓄(ストック)機能もありますので、これを強みに海外販売を拡大させます。それを国内仕入れ先へのより安定した発注につなげ、共に事業を維持拡大できればと思います。

〈双日ファッション/社長 由本 宏二 氏/備蓄機能で役割果たす〉

 6月ごろからやや失速感があるものの、中国市場向け生地販売が堅調に推移しています。昨年は同国の景気が減速する中で安価な生地を求める流れが強まったのですが、今年はより良いものを求める流れが出てきました。日本製や日本企画の生地はその一つです。

 中国は魅力的な市場です。ここに当社の生地をしっかり売っていきたい。そのためには日本のモノ作りが必要不可欠です。日本には技術力に裏打ちされた付加価値の高い生地がたくさんあります。そこに対しての発注責任が当社にはあります。国内外で市場のシェアを拡大させつつ、今後も責任を果たしていきます。

 日本の繊維産業は分業体制で成り立ちます。サプライチェーンがしっかり回らないとモノが止まり、利益も配分されません。全ての段階で事業を維持していかないといけないわけです。

 海外製生地と比べ日本製の方が価格は高い。この勝負は熾烈で、ある工程だけということではなくサプライチェーン全体で日本商品の価値を高め、勝たなくてはいけません。チーム全体で「売れるもの、価値のあるもの」を作り上げることが重要なのだと思います。

 当社には備蓄(ストック)機能という商品プラスアルファの付加価値サービスがあります。この当社の機能・役割をしっかり果たしていくことが、日本商品の輸出拡大、サプライチェーンの維持につながるのだと考えています。

〈宇仁繊維/会長 宇仁 龍一 氏/設備投資続ける〉

 当社は生地商社という面もありますが、設備を保有するメーカーでもあります。兵庫県の播州織産地や北陸産地の協力工場に、当社が購入した織機を貸与・敷設して稼働させていますし、子会社に染色加工場のハクサンケミカル(石川県白山市)もあります。そしてこのほど、元々発注先で占有ラインも引いてもらっていた織布工場のコマテックス(同能美市)にジャカード搭載レピア織機5台を購入・貸与しました。

 この5台はもちろん宇仁繊維専用織機として空きが出ないよう継続稼働させます。継続稼働は当社の理念の一つで、他の織布工場や染色加工場でもコスト削減のため基本的にずっと設備を稼働させ続けます。「国産だから高い」では市場では通用しません。

 日本のジャカード織物は海外でも人気が高く、当社でも売れ筋の一つです。設備増強によってさらなる安定供給を図ります。今後も必要に応じて設備投資を行います。

 日本のモノ作りは「組み合わせ」を得意としており、それが海外でも高く評価されています。さまざまな糸、織り・編み、染色加工を組み合わせて唯一無二の価値観を生み出す。これが日本の繊維の力だと思います。とりわけ加工は今後の大きな差別化ポイントになってくるでしょう。こうした優れた生地を国内外にしっかり売っていくことが当社の使命。産地や染色加工場に生き残ってもらうためにも売る力を磨き続けます。

〈柴屋/社長 奥野 雅明 氏/意識と構造の変化を〉

 当社はフランスの「プルミエール・ヴィジョン(PV)・パリ」やイタリアの「ミラノ・ウニカ」(MU)などに出展していますが、最近感じるのは、サステイナビリティーは当たり前な要素であり、言い換えればもはや古いものということです。ブランドのバイヤーの関心は違うところに移っています。それはトレーサビリティーです。

 ある米国のエージェントは日本に対して保守的なイメージを持っているとのことです。伝統を重んじるあまりイノベーションに消極的ということです。またある著名ブランドのバイヤーからは、「当ブランド行きに乗車しますか?乗るためにはさまざまな審査を通る必要がありますが、そこをクリアできればずっと一緒にやっていけます」と言われました。

 審査というのは主にトレーサビリティーの確保です。どこで栽培された綿花なのか、どういう工程で染色を施したのかなどの証明を海外ブランドは求めています。

 この1~2年で海外バイヤーの意識と買い付け基準は大きく変化しました。日本の会社にこうしたことを話すというのは逆に言えばそこをクリアしてもらえるのであれば日本の生地を買いたいということです。

 伝統を捨てる必要は全くありませんが、産業として生き残るためには時代に応じて意識と構造を変化させることも必要ということですね。