特集 全国テキスタイル産地Ⅰ(8)/強み発揮し、生き残る/クロキ/広撚/前多/篠原テキスタイル/日本綿布/松文産業
2024年07月29日 (月曜日)
〈海外展に継続出展/クロキ〉
クロキ(岡山県井原市)は、引き続き海外展に出展しながら海外での販路開拓に力を入れている。また、新型コロナウイルス禍の中でも設備投資を行いながら、生産や社内環境の整備も進めている。
同社はコロナ禍でも海外展に継続出展してきた。今年もファッション関連の総合見本市「プルミエール・ヴィジョン・パリ25秋冬」や、5月に中国で開かれたデニム関連の展示会「キングピン」などに出展しPRした。黒木立志社長は「中国でも日本のデニムを使いたいというブランドが出てきている」と話す。
この間、設備投資も推進してきた。レピア織機の入れ替えのほか、プロジェクタイル織機の修繕、ビーム用の立体倉庫の新設などを実施。現在は糸といった材料などを保管する倉庫を建設しており、来年3月の完成を見据える。
〈今期は利益率改善重視/広撚〉
広撚(福井市)の前期(2024年5月期)は売上高92億円で前年比約6%の増収となり、利益も伸びた。トリアセテート品が順調に拡大、ポリエステルやジアセテートも堅調で主力分野が総じて伸びた。輸出がけん引役の一つで、今期もさらなる拡大に注力する。
今期は、売上高95億円の計画とし、特に利益率の改善に力を入れる。新しい開発に注力しながら不採算品を見直し、商品の入れ替えを進める。商品在庫の深みと幅を改めて見直し、在庫回転率の向上にも取り組む。
今後も引き続き北陸でのモノ作りを柱とする方針の一方で海外での染色加工も拡充し、顧客の選択肢を広げる。日本のスペース縮小への対応や海外↓海外による輸送リードタイム短縮などが狙いで、同社の強みを生かしたモノ作りを海外でも行える形にしていく。
〈98年以来の100億円超え/前多〉
前多(金沢市)の前期(2024年5月期)は、売上高105億円で前年比10・5%増、経常利益2億5千万円で同31・5%増と増収増益だった。インテリア、スポーツ、ファッションなど全分野が増収だった。
新型コロナウイルス禍で一時は売上高55億円に落ち込んだが、3期前は80億円、2期前は95億円、前期は105億円と順調に回復した。売り上げが100億円を超えるのは1998年以来。
売り上げ回復の要因の一つである合繊メーカーとの取り組みも引き続き拡大した。4年前は自販95%、メーカーからの賃加工5%の比率だったが、足元では賃加工が20%に高まっている。
今期(25年5月期)は売上高110億円を目指す。引き続き各分野で拡大を狙う考えで、グループ会社との連携による電子商取引(EC)の強化にも注力する。
〈生地開発と販路開拓に力/篠原テキスタイル〉
篠原テキスタイル(広島県福山市)は引き続き生地開発を進めながら、国内外での販路開拓に力を入れる。
現在の受注状況について、篠原由起社長は「少し落ち着いてきた」とし、傾向として「国内外で別注の話が増えてきた」と説明する。
そのような中、新たな生地開発を推進。素材においては、「再生セルロース繊維など、『これで生地を織れないか』といった新素材の持ち込みも多い」と言う。
海外販路の開拓も模索。この間、「ミラノ・ウニカ」や「キングピン」などの海外展に出展してきた。今年6月には、イタリア・ミラノで開かれた「デニム・プルミエール・ヴィジョン」を訪れるなど、海外展の視察も継続する。
このほか、地元企業の制服向けの生地提供や、地元学校とのワークショップなど、備後地域内での協業も広げている。
〈顧客との関係性強みに/日本綿布〉
日本綿布(岡山県井原市)では、国内外からの受注が堅調に推移する。
シャトル織機で織るセルビッヂデニム、ダブル幅のデニムなど、全般的に生産が好調。デニムに加え、ジャカード織りの生地など「デニム以外にも個性的な生地を作ることができる」(川井眞治社長)ことも評価を得る。川井社長は「顧客との関係性が強み」とした上で、「メインとなる取引先が好調」と状況について語る。
今後は年配の職人からの技術承継に力を入れる。さらに、「染色やジャカード織りをもっと高度なものにしていく」として、これにまつわる設備の導入も視野に入れる。
2022年に本社近隣にオープンした、同社のデニムを使った製品を販売する店舗は、デニムの知識を持つマニアなどを中心に、県内外から訪問がある。
〈各工場の連携強化/松文産業〉
松文産業(福井県勝山市)は今年のテーマに「ワン松文」を掲げ、各工場の連携を強化していく。織布の稼働は足元も引き続き堅調に推移しており、次の展開を見据えた糸からの開発に注力する。
同社は織布の本社・勝山工場と鶴岡工場(山形県鶴岡市)、仮撚り加工の栗東工場(滋賀県栗東市)を持ち、撚糸、仮撚りからの織物開発を強みとする。近年は栗東で開発した糸を勝山で織物に仕上げるなど工場の強みを掛け合わせた展開も進んでおり、今年は3工場間の連携をさらに強化する考え。自社内だけでなく、北陸以外を含めた産地企業との連携も強化する。
将来を見据えた生産体制の整備も重視。鶴岡工場ではレピア織機の更新を継続して進めており、撚糸でも中国製の新台を導入するなど先を見据えて設備投資を進める。