繊維ニュース

特集 2024年夏季総合Ⅱ(6)/こんなところで活躍するわが社の「繊維」/帝人フロンティア/東洋紡せんい/ユニチカ/クラレトレーディング

2024年07月26日 (金曜日)

〈汚泥向け脱水助剤販売/産廃排出削減などに貢献/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアが販売する「フローデハイ」は、下水処理場や工場などで発生する汚泥に使用する脱水助剤だ。濃縮汚泥中に投入すると、繊維による導水効果で脱水効率が向上し、処理コストや産業廃棄物量の削減につなげられる。官需と民間の両方で販売が増えてきた。

 汚泥は、水中の浮遊物質が沈殿または浮上して泥状になったものを指し、各種産業活動の排水処理の過程で発生する。環境省によると、汚泥の排出量は約1億6千万トン(2021年度)。国内で排出される産業廃棄物の42・5%を占めており、汚泥の処理は無視することができない大きな課題と言える。

 通常は、濃縮・脱水などの過程で減容化され、処理される。脱水効率を高めるために古紙やもみ殻などが使われてきたが、相当量が投入されるという問題点があった。代替品として15年ごろに開発を始めたのが、ショートカットファイバーの脱水助剤、フローデハイだった。

 繊維表面張力を利用した内部保有水導水脱水、導水路確保(圧密化による閉塞防止)、機械圧搾時の繊維ネットワークずれといった効果で脱水効率を高める。製品は、ポリエステルとポリ乳酸(PLA)の両方を取りそろえる。天然由来の繊維を使った製品の開発も進めている。

 汚泥固形物量に対して、1~4%添加することで効果を発現する。含水率や水分量が低減し、汚泥の排出量自体が減少する。このため汚泥を焼却処分する際の重油使用量が削減でき、二酸化炭素(CO2)の排出量低減につながる。

 官需では、し尿処理場への提案を強化し、民間向けでは自動車関連企業や機械メーカー、食品メーカーなどに訴求する。汚泥を焼却ではなく、堆肥化する企業も増えているとし、PLAタイプの活用や天然由来繊維の開発でそうしたニーズに対応する。

〈産資向けで複合紡績糸/非衣料分野強化に注力/東洋紡せんい〉

 東洋紡せんいは非衣料分野の強化に取り組む。2024年4月1日付で技術開発部に非衣料分野の開発を担う新規事業開発グループも設けた。同グループが担当する素材の一つが炭素繊維と熱可塑性繊維の複合紡績糸「CfC yarn」だ。日本企業が開発した複合紡績糸は衣料用が大半で産業資材用への応用はほとんどない。それだけにCfC yarnの開発は画期的な試み。25年春以降の本格販売を目指す。

 島精機製作所と共同開発により、同紡績糸を島精機製作所のホールガーメント横編み機で熱可塑性炭素繊維複合材料(CFRTP)の中間基材に仕上げ、立体成形も成功した。

 CfC yarnは炭素繊維と、熱可塑性のナイロン6繊維の3層構造糸。芯部分のナイロン6長繊維を炭素繊維で覆い、ナイロン6短繊維を鞘部分に配する。さらにナイロン6長繊維で再度、糸全体をラップする。開発に際しては衣料用の長短複合糸「マナード」を参考に3層構造糸「フィラシス」の技術を応用した。炭素繊維複合材料は炭素繊維を樹脂など異なる材料で固めて生産する。エポキシ樹脂など熱硬化性樹脂使いのCFRPが多いが、生産性や環境配慮から長期保存や再成形が可能なCFRTPも増えている。ただ、熱可塑性樹脂を使用した場合、樹脂含侵性が悪いと強度が上がらず、柔らさがないと複雑な形状に成形しにくいなどの課題があった。CfC yarnはそれを解消した。

 ホールガーメント横編み機による中間基材を成形すると、熱硬化性樹脂使いと同等の性能を持ち、自由度の高い成形品が可能となる。熱可塑性炭素繊維複合材料向けには他社が混繊糸を開発するが、同社によると混繊糸よりも樹脂の含侵性が高いと言う。

 同技術を応用し、現在のナイロン6繊維以外の熱可塑性繊維使いや、炭素繊維以外の高性能繊維を活用した、複合紡績糸の開発も視野に入れる。

〈不燃性と透明性を両立/建物の安全性向上に貢献/ユニチカ〉

 ユニチカは総合繊維メーカーとして多彩な繊維素材を扱っているが、ガラス繊維もその一つ。電子材料から土木・建築資材、内装材など幅広い分野で活躍している。その一つが、ガラス繊維強化樹脂シート「ユークリアーシート」。ガラス繊維による不燃性と特殊樹脂加工によって透明性と軽量性を両立したもので、建物内部の安全性向上に貢献している。

 ユークリアーシートは、極薄ガラスクロスに特殊樹脂加工したもの。ガラスクロスだけでは透明性がないものを、特殊樹脂によって透明性を確保している。建築基準法に基づく不燃認定も取得している。

 2008年から販売を開始し、主に防煙垂れ壁として採用が拡大した。建築基準法では一定面積以上の建築物には排煙設備もしくは防煙垂れ壁を設置することが義務付けられている。透明なユークリアーシートは室内の明度への影響が少ない防煙垂れ壁材として評価が高く、特に商業施設での採用が進む。既に累計60万平方㍍を超える販売実績となっている。

 こうした実績を生かし、防煙垂れ壁以外の用途への展開も進めており、不燃性と透明性を生かし、板ガラスや樹脂ボード代替がターゲットとなる。例えば自動車工場の塗装ブースなど工場で有機溶剤を使用するスペースの間仕切りなどだ。揮発した有機溶剤の拡散を防止しながら、ブース内の様子を視認できることで安全性を確保したいとのニーズは高い。既に工場内のシャッターでは採用実績がある。巻き上げ方式に対応し、屈曲への耐久性を高めたネット入り塩ビシート貼り付けタイプも用意した。

 近年、建材など産業資材分野でも環境負荷低減への要求が強まる。このためユークリアーシートに関しても製造工程で発生する端材から樹脂を分離し、ガラス繊維をリサイクルする開発を進めている。

 また、原材料や加工プロセスの改良によって製造工程での二酸化炭素排出量を削減したエコタイプ「ユークリアーシートE」を開発した。

〈扁平断面で衣料再挑戦/リサイクル原料タイプも登場/クラレトレーディング〉

 クラレトレーディングは、扁平断面マイクロファイバー「ランプ」を改めて打ち出す。ワイピング材用途で豊富な実績を持つが、新たなリサイクル原料タイプも開発し、衣料用途への提案に再挑戦する。そのために海外での展示会でも積極的に打ち出し、環境配慮素材の要望が強いアパレル・製品メーカーへの訴求を進める。

 ランプは、ポリエステル・ナイロン複合紡糸による割繊型マイクロファイバー。最大の特徴は割繊の形状にある。割繊型マイクロファイバーは、繊維の円形断面に対して扇形に分割する“フルーツ割繊”が一般的だが、ランプは円形断面を平行にスライスするよう分割した扁平断面を実現した。扁平断面とすることによって、通常の扇形断面とは異なる風合いとなる。エッジが増えることで防滑性にも優れる。

 また、通常の割繊型マイクロファイバーは、割繊時に分離しやすいようにアルカリ減量処理を施すことが多いが、ランプは分割しやすい断面形状のため、仮撚り工程で自然に割繊が生じる。このためアルカリ減量処理工程を省くことができ、水使用量や廃水処理による環境負荷も抑えることができる。

 これまでは優れた防滑性を生かし、主にワイピング材用途で豊富な実績を重ねてきた。特に自動車整備・洗車分野で評価が高い。また、近年はアウトドア用タオルでも高い速乾性で人気が高まってきた。使用するポリエステルとナイロンをともにマテリアルリサイクル繊維を採用した環境負荷低減タイプの開発も進め、今年春に量産技術を確立した。

 これを生かし、ワイピング材用途以外にも提案を改めて強め、衣料用途にも再挑戦する。そのためにランプによる高密度織・編み物でスエード調生地なども試作した。8月に中国・上海で開催される国際ファブリック見本市「インターテキスタイル上海」にも出展し、ここでもランプを提案する。リサイクル原料タイプもそろえたことで、環境配慮型繊維への要望が強い欧米のアパレルや製品メーカーからの引き合い拡大に期待を寄せる。