2024年夏季総合特集(3)/特定分野・特定用途で活躍する「繊維」たち/安全から防災・災害復興まで

2024年07月25日 (木曜日)

 重布・帆布、膜材などによる工業資材は、日本の繊維産業でも特に歴史が古い用途だ。例えば大和紡績とカンボウプラスの重布・帆布製造・加工事業は、第2次世界大戦前に日本陸軍にトラックほろ用の防水加工帆布を納入したことにまでさかのぼることができる。合繊帆布が主流となった現在でもトラックほろ・シートで豊富な実績を持つ。大和紡績が製造し、カンボウプラスが加工した合繊帆布の販売は帝人フロンティアが担っており、産業資材分野の祖業ともいえる事業たちだ。

 防炎・難燃の素材・加工も資材分野では重要な役割を果たしてきた。工場など生産現場の安全に貢献することや、インテリア製品を通じて人々の住空間の安全性を高めることで重要な役割を果たす。

 こうした事業をベースに、近年は防災や災害復興に活躍する商品群の開発と提案が拡大する。阪神淡路大震災、東日本大震災、そして今年の能登半島地震など未曽有の災害を何度も経験してきた日本の環境下で、防災や災害復興のために繊維素材・製品が果たす役割は、ますます大きくなる。

〈軽量化で作業者負担軽減/綿100%難燃加工も根強い人気/大和紡績〉

 大和紡績の産業資材事業本部工業資材部が製造販売する重布・帆布は、同社の産業資材事業の中でも戦前から続く祖業とも言える事業だ。主力のトラックほろ・シートは近年、作業者の負担軽減のために軽量化へのニーズが高い。同社は合繊帆布のラインアップを拡充し、社会的要請に応える。

 近年、物流業界では労働規制強化によって労働時間の短縮が求められており、そのためには効率的な作業が欠かせない。また、トラック運転手の高齢化も進んでおり、従来以上に作業負担の軽減による労働環境の改善が求められる。

 このためトラックほろ・シートを軽量化し、作業効率の向上と負担を軽減しようという動きが強まった。これを受けて大和紡績が開発したのが軽量合繊帆布「エアスカイ」と超軽量合繊帆布「エアフェザー」だ。一般的な5号帆布の重量が1平方㍍当たり560㌘に対して、エアスカイは同450㌘、エアフェザーは390㌘を実現した。

 今年5月にはパシフィコ横浜で開催されたトラック関連総合展示会「ジャパントラックショー2024」に販売を担う帝人フロンティアと共同出展し、エアフェザーを中心に提案した。展示会を通じて運送業者などエンドユーザーの間での認知度向上に取り組んだ。

 安全に貢献する商品としてもう一つ実績豊富なのが綿100%防炎加工生地「ダイワボウプロバン」。加工の委託先企業が廃業したことで一時販売を停止していたが、新たにクラボウの徳島工場が加工を担うこととなり、販売を再開した。溶接作業などの際に着用する難燃エプロン用途が主力だが、ほぼ商権も回復した。綿100%のため溶融の危険性がない点の評価が高く、鉄鋼や建機業界で高い支持を得ている。

 工業資材としては、このほかにもトンネル工事の際に使用する防水シート、のり面補強のための防草ネットなどがある。いずれもインフラ整備などに欠かせない資材として社会の安全に貢献している。

〈テント・膜材の採用拡大/豊富な実績へ評価高まる/カンボウプラス〉

 カンボウプラスは、自社が取り扱うテント・膜材などを応用し、「防災」「減災」「復興」をコンセプトとした多彩な防災製品をラインアップする。豊富な実績への評価は高く、採用が拡大中だ。

 同社が防災製品に参入したのは、阪神淡路大震災や東日本大震災での経験がきっかけ。元々、自衛隊や警察、消防、自治体に同社のテント・膜材を採用した製品が多く納入されていたが、それらが災害時に活用されていたことから、独自に製品を販売することになった。

 このため同社の防災製品は、既に災害現場で使用された知見が生かされているところに強みがある。例えばYKKAPと共同開発した災害避難所向け製品である自由拡張型エアテント「クイックエアドームコンボ」は自衛隊が採用しており、PKO活動でも活躍した。避難所向けではプライバシー問題がクローズアップされる中、コンパクトな収納が可能な間仕切りテント「らくらくシェルターテント」も注目が高い。

 今年1月に発生した能登半島地震でも同社の防災製品が活躍した。その一つが折り畳み式簡易水槽「アクアマイスター」。工具を使わず広げるだけで自立可能な水槽は、被災地で生活用水の一時貯蔵などに使われている。

 ゲリラ豪雨などによる浸水被害を抑制する商品としてパネル型止水シート「パネテクター」も採用が拡大中だ。都市部は土がないため土嚢が使えない。パネテクターは建物の入り口に立てることで浸水を防ぐことができる。最近では鉄道会社が地下街の止水に採用するケースも出てきた。そのほかにもターポリン救護担架「ストレッチャーマイスター」や、テントによる仮設トイレなどテント・膜材を活用した商品を多彩にそろえる。

 新たな取り組みとして名古屋工業大学発ベンチャー企業のLIFULL ArchiTech(東京都千代田区)が開発した簡易住宅「イベントハウス」がある。膜材のドーム型生地を膨らませ、内部にウレタン材を吹き付けるだけで施工が完了する。元々はキャンプ・グランピング向けに開発されたが、能登半島地震でも活躍するなど防災用途でも活用が進む。昨年2月に発生したトルコ・シリア地震でも支援物資に採用され、避難所の簡易住宅として活用された。

〈複合素材の耐熱消火カーテンなど/商社機能生かし総合提案/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアは、防炎カーテンなど自社製品だけでなく商社機能を生かしてパートナー企業の商品も含めた多彩な防災製品を「まるごと防災」として総合提案している。一般社団法人まるごと防災協議会も設立し、啓発活動にも力を入れる。

 同社が防災製品に力を入れるきっかけとなったのが、2011年の東日本大震災。1次災害だけでなく2次災害、3次災害も相次ぐ中で、災害に対する予見可能性が社会的に問われるようになった。災害時に起こり得る被害リスクを低減する防災製品への関心が急速に高まった。

 こうした中で、帝人フロンティアが販売していた“新防炎カーテン”「プルシェルター」が注目された。一般的な難燃カーテンは、難燃ポリエステルを使用したものが主流だが、延焼を抑制するものの燃焼現象自体は発生する。これに対してプルシェルターはアラミド繊維・モダクリル複合素材を使っており、燃焼自体を防ぎ、防炎性が高い。このため燃焼物に被せて消火に使うこともできる。商業施設や老健施設などで採用が進む。そのほか、担架としても使える防災毛布「もうたんか」なども提案した。

 ただ、防災製品は備蓄も含めて官民ともに単品ではなく複数アイテムを一括調達するケースが多い。このため商社機能を生かし、パートナー企業の商品も含めて「まるごと防災」として総合提案することで販売拡大を進めた。現在、35アイテムをラインアップする。

 防災製品に対する啓発活動にも力を入れる。21年には防災製品を扱う企業と防災士や学識者、政治家などが協力し、一般社団法人として「まるごと防災協議会」を設立した。防災に関する調査研究と防災製品の普及・啓発に加え、防災製品の規格や推奨制度を作ることなどを目指している。

 引き続きまるごと防災協議会を通じての啓発活動に力を入れ、まるごと防災の商品ラインアップも拡大することで防災製品の需要創出に努めていく。