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今年前半の生地販売/アパレル市況低迷が直撃/活路は海外と付加価値化

2024年07月24日 (水曜日)

 「国内市況が悪い……」。生地商社のトップや幹部らがこう口をそろえる。新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行したことで、23春夏や23秋冬の衣料品に向けた生地販売は総じてにぎわいを見せた。各生地商社の業績にも、2023年8月期で創業以来の過去最高売上高を更新した宇仁繊維(大阪市中央区)や、24年1月期で5期ぶりの営業黒字化を達成した瀧定名古屋(名古屋市中区)に代表されるように、コロナ禍からの反転が顕著に表れた。しかし昨年の暖冬で衣料品消費は急速に低迷し、今年の春物も猛暑到来が早すぎた影響で振るわなかった。消費低迷を受けたアパレルが生地発注を控える傾向を強めている。大量生産・大量廃棄からの脱却を迫られるアパレル各社の事情も背景にある。(吉田武史)

 国内服地最大手、スタイレム瀧定大阪(大阪市浪速区)の上半期(24年2~7月)生地販売は、輸出が引き続き伸びたものの、国内向けは減少した(前年同期比)。同社は国内衣料品に使われる生地の占有率が高いため、市況低迷の影響は避けられない。継続取引のあった染色加工場が倒産したことも機会損失になった。

 サンウェル(同中央区)の上半期(24年2~7月)生地販売も、「悪かった前期後半の流れが続いている」。

 宇仁繊維(同)の今期ここまで(23年9月~24年6月)は前年同期比2%減収。価格改定の影響も一定あるため、出荷数量はさらに減っている見込みだ。

 双日ファッション(同)の第1四半期(24年4~6月)の国内向け服地出荷数量は前年同期比ほぼ横ばいだが、市況低迷が長引く切り売り向けは苦戦が続いている。

 中には上半期(24年2~7月)で前年同期比4%増収を果たした柴屋(同)のような例もあるが、その内容は「価格改定効果が大半」であり、生地が順調に売れた結果とは言えない。

 市況低迷がいつまで続くのかについては、「流通在庫がかさんでいる24秋冬は絶望的。25春夏以降に期待するしかない」との声が大勢を占めるが、「リベンジ消費は一過性のもの。国内衣料品市況や生地販売の状況がコロナ禍前に戻ることはない」と断言するトップもいる。SDGs(持続可能な開発目標)が浸透する中、サプライチェーン全体が「作る」ことに慎重にならざるを得ない。売り残し回避の流れが強まり、小口化はより顕著になり、期中の追加発注も望めない。

 シェアの拡大を除き、国内アパレル向け生地販売では、特に数量面で成長戦略を描くことは難しい。各社が目を向けるのは、海外市場と付加価値化・差別化による単価アップだ。海外展への出展加速や、仕入れ先との連携による開発力強化などに各社が動きだしている。