特集 今治タオル産地(5)/素材編/感性と機能で高付加価値化支える/シキボウ/レンチング/愛研化工機

2024年07月19日 (金曜日)

 タオルに求められる価値が多様化、細分化している。色柄の豊富さや肌に触れた際の気持ちよさなどの感性面に加え、新型コロナウイルス禍以降は抗菌・抗ウイルス性などの裏付けのある清潔感、洗濯時の速乾性や使い勝手の良いサイズ感など機能面での訴求も続く。消費者の関心はオーガニックコットン認証やSDGs(持続可能な開発目標)対応など生産背景にも広がりつつある。それらの志向に対し、素材メーカーも新たな付加価値を持った幅広い提案を続けている。

〈独自性と差別化糸訴求/シキボウ〉

 シキボウは、別注の増加を受け試紡案件が前年に比べ1~2割増えている。特殊紡績法による絶妙な毛羽コントロール糸「ふわポップ」や、連続シルケット糸「フィスコ」など独自性の高い糸を軸に、「糸からこだわって作りたい」という今治産地での商品開発に対する意欲をうまく捉え、拡販につなげる。

 ふわポップは、特殊紡績によって糸の360度に起毛し、起毛長を短くすることで毛羽落ちや糸抜けを抑える。生地による起毛と違い、定着力があるほか、膨らみがあり、見掛け以上の太さによって風合いの良さが増す。10~80番手まで生産できる。アクリルとの混紡で吸湿発熱など機能性を高めることも可能だ。

 シルクのような艶やかな光沢感を持ったフィスコは、染着性が高いため、洗濯後の色落ちが少なく、生地の奇麗な表面感が長く続く。米国のクラウドファンディングへフィスコ使いのタオルを出品し、目標以上の支援を集めた。

 ほかにも鞘に綿、芯にポリエステル短繊維を配した2層構造吸水速乾糸「クイックドライコットン」や、綿100%吸水速乾糸「C―ドライ」といった差別化糸も拡販。SDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりを受け、生分解性ポリエステル「ビオグランデ」や、フェアトレード綿糸「コットン∞(エイト)」の提案も強めている。

〈原着でブラックタオル/レンチング〉

 レンチングはこのほど、原液着色(原着)技術で実現したHWMレーヨン「テンセル」モダール・ブラック繊維と、鑑別可能なトレーサブルレーヨン「レンチングエコヴェロ」ビスコース・ブラック繊維の混紡によるタオル製品「ブラックタオルコレクション」を発表した。バスタオルやハンドタオルのほか、メーク落としパッドなど6アイテムをそろえる。

 近年、ファッション性の高さや汚れが目立ちにくいことなどから、フェースケアやボディーケアに使うタオルでブラックが定番カラーの一つとして定着している。ただ、一般的な綿100%後染めタオルの場合、濃色の難易度が高く、洗濯による色落ちや移染のリスクも課題。これに対し同社は原着技術によって鮮やかな黒色を長期間維持することを実現した。

 また、環境負荷が小さいことも特徴。同社によると、原綿の製造工程での二酸化炭素などの炭素排出量と水の使用量を、通常のレーヨンと比較して50%削減したとする。原着のためタオルの製造工程でも染色後のすすぎ工程が不要で、同工場でも炭素排出量を60%削減すると主張する。

 こうした特徴を生かし、綿100%が主流のタオル分野で同社の再生セルロース繊維による代替需要開拓に取り組む。

〈愛研化工機/染色排水をエネルギーへ活用/産地で実証開発進む〉

 染色排水からメタンガスを発生させ、それを回収、エネルギー源として活用する実証研究開発が今治産地の染色加工場で進められている。

 実証開発は排水設備などを開発・設計する愛研化工機(愛媛県松山市)が持つ嫌気性細菌に関する技術を活用する。環境省が公募した「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択されたことに合わせ、愛媛県産業技術研究所などとの協働で5月から取り組んでいる。

 同社の嫌気性細菌を使った排水処理システムは既に食品関連工場で高い成果を上げているほか、インドネシアなど海外でも導入実績がある。

 システムについて岩田佳大社長は「排水の中で細菌が活動しやすい環境を整えることが重要なポイントとなる」と話す。

 同産地の染色加工業との関わりは愛媛県産業技術研究所など公的機関の紹介で2018年に始まった。

 当初は西染工で「そもそも染色排水の中で細菌が活動できるのか」といった基礎研究から、細菌の作用によって染色排水の色(にごり)を取り除く試験が進められた。

 結果、染色排水中には糊剤(こざい)など細菌の“餌”となる成分がある、排水の温度が高いなど十分に細菌が活動できることが分かった。

 一方で、細菌の作用によって排水から直接にごりを取り除くより、処理工程で発生するメタンガスをエネルギーとして活用し、処理機械を稼働させた方がより効率的であることなども分かった。

 20年からは同心染工で「染色加工場で発生する、どの段階の排水がエネルギーを効率よく取り出すのに向くか」を見極めて仕分ける「分散型」の研究開発を進めた。

 これらの研究を経て、25年中に越智源で実際の使用を前提とした排水設備を稼働させる。排水浄化による環境負荷の低減だけでなく、排水からエネルギーを効率よく取り出す「創エネルギー技術」としての確立を図る。

 排水処理に必要なエネルギーを排水から得ることによって二酸化炭素の発生も抑制できる。岩田社長は「脱炭素社会の実現に貢献できることも大きな要素」と話す。

 その他のメリットでは、同社が培ってきたシステムの遠隔管理システムを組み合わせることで工場の負担軽減が見込める。

 さらに既存の好気性細菌による排水処理で必要な水中への酸素供給・かき混ぜるための設備が不要なこと、有機物をガス化することで汚泥の発生が減って排水設備全体が小型化でき、工場敷地の土地活用が広がることなど副次的なメリットも得られる。

 同産地のタオル生産では、環境に優しいモノ作り技術を用いることで市場での付加価値を高めることにもつながる。

 越智源の越智裕社長は「愛媛県繊維染色工業組合が産地内の染色加工場の将来像として示す『染色パーク構想』へ技術をフィードバックすることもできる」と話す。

 岩田社長は「今回の取り組みを通じて『今治モデル』を確立し、世界に発信して染色加工場の事業継続、発展に貢献したい」と展望する。