合繊糸・わた・不織布/再び値上げ相次ぐ/厳しい採算 生産規模縮小も

2024年07月04日 (木曜日)

 合繊メーカー各社が糸・わた・不織布などの値上げに相次いで踏み切った。今年春にも値上げを実施しており、短期間での再値上げは、合繊メーカーの厳しい採算の現状を浮き彫りにする。採算が回復しない場合、生産規模の縮小も選択肢となることから、日本の合繊産業の今後にも大きな影響が及ぶ可能性がある。(宇治光洋)

 今年に入って以降、コスト上昇を背景に合繊糸・わた・不織布の採算が低迷していた。このため合繊各社とも4月までに相次いで値上げに踏み切った。ところが間をおかず、再び値上げの動きが強まった。

 東レは7月出荷分からナイロン6長繊維(衣料用・産業用)、ナイロン6短繊維、ナイロン66短繊維、ナイロンBCF糸、ポリエステル長繊維(衣料用・産業用)、ポリエステル短繊維(同)、アクリル短繊維、ポリエステル長繊維不織布「アクスター」、ポリプロピレン長繊維不織布を現行価格から1㌔当たり20~80円(輸入品含む)値上げした。

 ユニチカも産業用のポリエステル長繊維、同短繊維、ナイロン長繊維、同短繊維を7月出荷分から値上げした。値上げ幅はポリエステル短繊維とナイロン短繊維が現行価格から20%程度、ポリエステル高強力糸は1㌔当たり200円、ポリエステルモノフィラメントとナイロンモノフィラメントは現行価格の20~40%という大幅なものだ。

 日本エクスラン工業は6月出荷分からアクリル繊維とアクリル機能材を現行価格の30%値上げした。クラレは6月からポリビニルアルコール(PVA)繊維ビニロンと「クラロンK―Ⅱ」、ポリエステル短繊維を現行価格から10%値上げし、7月からは人工皮革「クラリーノ」を10%値上げした。三菱ケミカルグループも6月1日契約分からトリアセテート長繊維「ソアロン」を原糸・加工糸、生地ともに現行価格から10%値上げした。

 前回の値上げから間をおかずして再値上げが相次ぐ背景には、合繊メーカーが直面する厳しいコスト上昇がある。原燃料価格の高止まりと労働規制強化による物流費の大幅上昇に加え、人手不足を背景に自社と委託加工先企業の人件費も上昇した。さらに円安が一段と進んだことで海外調達する基礎原料の円換算価格も大きく上昇している。

 市況の悪さも事業の採算を圧迫する。現在、アジア市場では中国による安値攻勢が続いており、日本の合繊メーカーの糸・わた事業の採算は極めて悪い。このため一部設備を停止して減産に踏み切るメーカーも出てきた。例えば東レは既に韓国子会社でポリエステル短繊維の製造ラインを一部停止している。日本エクスラン工業もアクリル短繊維を減産中だ。

 各社とも今後、採算が改善しない場合は生産設備や事業自体のさらなる縮小を視野に入れざるを得ない状況にある。このため今回の値上げは事業構造改革の一環という側面が強い。値上げの浸透が、今後の日本の合繊産業の行く末を左右する可能性すらある。