特集 商社OEM 2024/変貌するサプライチェーン/供給体制を訴求し需要開拓
2024年06月28日 (金曜日)
アパレル商社のOEM/ODM事業の2023年度業績は、新型コロナウイルス禍の影響の軽減に伴い、衣料品の販売が回復したことから好調ぶりが目立った。その一方で、時代の変化を乗り越えOEM/ODMを維持、発展させるため、各社は差別化につながる提案を追求している。
MNインターファッションは23年度、営業組織を再編した。22年に三井物産アイ・ファッションと日鉄物産の繊維事業との統合により発足した同社は、旧2社でアパレルOEM/ODMの営業手法が異なるという課題を抱えていた。その課題を解消するべく、市場・顧客別を基礎にして商材別の機能も補完する組織に整備した。
顧客別の戦略策定や生産背景の共有を促す組織に作り変えることで、生産効率が高まり、顧客への価値提供の面でも効果が表れ始めたという。
今後もOEM/ODM事業については、顧客の直貿シフト、円安に伴う価格圧力の増大、小ロットQRへのニーズの拡大と要求水準が高まることを見据え、状況変化に柔軟に対応していく。
海外拠点でも新しい展開が生まれている。中国は内販を強化し、香港では欧州や豪州をマーケットにしたOEM/ODM事業を拡大させている。ベトナムも内販に注力するほか、中国や欧州の企業に対する生産のサポートを推進する。
田村駒は、海外で築いた生産背景の発信に力を注ぐ。特にバングラデシュについては、東京本社(渋谷区)で現地の体制を伝えるための展示会を開くなど提案を強める。生産国をテーマにした展示会は同社にとって初の試みだった。
バングラデシュでの生産は丸編み製品が約7割に達し、残りはほぼニット製品が占めるが、一部ではデニムも手掛けている。それぞれのアイテムを担う協力工場では、欧米ブランドの強い要望があることから、サステイナブル対応の取り組みが進んでいる。こうした環境負荷低減の施策と併せ、労働環境の向上も図られている実態も伝えた。
その後、インドをテーマにした展示会も大阪と東京で開き、インド綿を使った衣料品をはじめインテリアや雑貨にも対応する体制を紹介した。
ヤギは、アジアで築いた生産背景を生かし、海外ビジネスの新しい形を追求する。各地の拠点の特徴を訴求し、潜在的な需要を掘り起こす。
設立から50年を超える八木香港グループは、サステ対応の先駆けとして、欧米のアパレル各社に供給してきた再生綿の原料や生地、製品を強みとする。
その子会社である中国法人の譜洛革時〈上海〉貿易(プログレス上海)は、日本の生地担当と連携し、日本の生地の中国内販に注力する。日本のアパレル向けに中国の生地の販売も行っている。
ヤギ・ベトナムは現地の紡績、生地、縫製の協力工場と密なコミュニケーションを図り、原料を絡めた縫製品の提案を可能にした。タイ、インドネシア、韓国、中国、インド、パキスタン、トルコからも素材を調達できると言う。
〈販売力強化を方針に追加/管理力、調達力磨く/クラボウインターナショナル〉
素材メーカー系商社のクラボウインターナショナルは今期(2025年3月期)、これまで通り①新規ビジネスの構築②既存ビジネスの収益改善③調達構造の見直し④有能な人材の確保、育成――に取り組みつつ、新たなテーマとして販売力強化を掲げる。
中川眞豪社長によれば、同社の24年3月期決算は、前期比、計画比とも増収増益だった。円安の恩恵も受けて中東民族衣装向けや欧米ブランド向け生地販売が好調に推移し、OEM・ODM事業では国内工場を2拠点持つ点が小口・短納期化の流れの中で評価されたほか、広範な海外生産体制が奏功して受注を増やした。分野別では主力のカジュアル、ユニフォームともに1年を通して堅調だった。
ただし今期は、国内市場の在庫過多や紛争の長期化など世界情勢が混沌としていることなどを受けて「かなり不透明な事業環境」とみる。その中でクラボウグループの中期経営計画最終年度の数値目標は達成したい考えだ。
販売力強化に向け、強みに磨きをかける。中川社長が認識する自社の強みとは、サプライチェーンの管理力とそれらを組み合わせた調達力。縫製のサプライチェーンは日本の自社工場に加えて中国、バングラデシュ、インドネシア、ベトナム、その他ASEAN各国で構築しており、今後は各縫製地周辺での素材開発や調達を増やして地産地消を実現させていく。
新規の工場を開拓して生産アイテムも拡充させる。その際は「合繊トレンドが続いている」としてグループの強みである綿だけでなくポリエステルやナイロンの調達先も増やしていく。
また「サステイナブルも引き続き重要なテーマ」とし、裁断片などを開繊・反毛技術で再資源化する「ループラス」や、ハイブリッド短繊維原綿「ルナセル」、サステ商材の総称ブランド「エコロジック」の活用も積極化する。
〈ベトナムで多様な製品に対応/STXとの連携生かす/蝶理〉
蝶理は、グループ会社のSTXと連携し、ベトナムで幅広いアイテムを手掛ける生産体制を整備した。ベトナム国内の各拠点が技術力や特徴を生かして生産を担う。
蝶理が新たにラインを確保したヴェストン工場は、中南部フーイエン省エリア3でアンフングループが運営する。最先端の設備を駆使し、100%日本向けにジャケットやパンツ、セットアップなどを生産する。
STXがホーチミン市で運営する縫製工場「SGS」は25春夏向けで、得意とするシャツの提案に注力する。STX独自のオーガニックコットン「コンフィル」を素材として取り入れた。SGSでは、コンフィルを経糸に、高伸縮機能糸「テックスブリッド」など蝶理の合繊を緯糸に使ったシャツも生産する。
中部ダナン近郊のSGHは、SGSの技術と品質管理を継承した工場で、デニムや〝奇麗め〟パンツを主力とする。25春夏向けにはデニムアイテムに焦点を当て、ベトナムのデニム生地と加工技術を提案していく。
ニット製品の提案でも、ASEAN地域にバングラデシュとネパールを加えた生産背景を紹介する。ハイゲージ対応の技術を持つベトナム、現地一貫生産によるコストメリットが大きいインドネシア、無税のメリットがあるカンボジア、価格訴求力と品質を兼ね備えたバングラデシュ、手編み技術を継承するネパールと各国の生産地の強みや特徴を示す。
これら産地と、世界各地の供給元から調達できる原料を結び付ける生産ネットワークを築いたため、一貫した品質管理が可能になった。
中国でも、山東省に専用ライン「ファンタイ」を新設した。編み立て機はこの地域では珍しく、16ゲージを42台、14ゲージを100台そろえた。内陸部の荷澤(かたく)市には、リンキング専用ラインを設けた。
〈DX活用で業務効率改善/商品提案高度化、迅速化へ/豊島〉
快適なライフスタイルの提案を進める豊島はDX推進室を軸に業務効率の改善や、販売先への提案精度向上への取り組みを加速する。昨年7月にDX推進室を新設済みで、専従部署として課題解決を進める。
デジタル技術で企業を変革するDXの活用を進めるため、DX推進室は機能する。デザイン企画室との連携もこれまで以上に強化していく。人工知能(AI)を活用しながら画像や3Dの製品イメージを制作した上で、販売先のニーズに合わせた高精度な商材提案の具現化を図る。2022年5月に経済産業省が定める、DX認定制度に基づく「DX認定取得事業者」となり1期(2年)が完了した。このほど2期目の認定を受けたと言う。
人の感性と基になる柄の情報を組み合わせ、生成AIが自動で数千パターンの柄を制作する「n感性AIシステム:バーチャルスタンダードAIパターン」の利便性もアピールする。
柄の種類ごとに「かわいい」「現代的な」「清潔感のある」など好みを表す46の感性キーワードと、「やや」「かなり」「ノーマル」の3段階で強弱を表す程度がそれぞれ選択可。ほどなく画像が完成する仕組みだ。
ファッションブランドやクリエーター、プリントサービスを手掛ける事業者などに同システムの導入を促し、業務効率改善や新たな発想のヒントにつなげてもらいたい考えを持つ。
サプライチェーン全体で標準化した受発注管理システムを生かす取り組みも着実に進める。情報・通信業のNTTデータ(東京都江東区)や複数の商社、副資材メーカーなどと協業し、電子データ交換を行う「FEDI」(フェディ)プロジェクトを進めている。アパレル製品や生地、副資材など“モノの流れ”と請求・支払いなど“カネの流れ”も一元管理できる。
このシステムを貿易に関する情報とひも付けする取り組みも視野に入れる。