特集 環境(5)/進化する東レ「&+」/資源循環型経済の拠点に

2024年06月27日 (木曜日)

 東レのリサイクル合繊「&+」(アンドプラス)が進化を続けている。ポストコンシューマー型リサイクル原料を一部使用し、トレーサビリティーも併せ持つ環境配慮型素材としての存在感が高まる。企業だけでなく一般消費者まで含めて資源循環のための原料回収への参画を促すブランドとしての取り組みが進められている。

〈ナイロンが本格スタート〉

 アンドプラスは、製品として使用されたリサイクル原料(ポストコンシューマー型リサイクル原料)を一部に使用し、化学的マーキングによる鑑別と国際的な第三者認証であるグローバル・リサイクルド・スタンダード(GRS)もしくはリサイクル・クレーム・スタンダード(RCS)を取得することでトレーサビリティーを確立していることが特徴。

 まずは2019年からポリエステル繊維での展開を開始し、順調に採用が拡大している。ペットボトルリサイクル大手の協栄産業(栃木県小山市)と協力して、高品質なペットボトル由来再生ポリエステル繊維を実現した。高度な選別・洗浄技術と異物除去技術によって、バージン原料によるポリエステル繊維と同等の白度や粘度を実現している。

 さらに対象をナイロン繊維にまで拡大した。23年には日東製網(東京都港区)とマルハニチログループの大洋エーアンドエフ(同中央区)と協力し、使用済み漁網を原料として漁網に再生する「漁網to漁網リサイクル」がスタート。これを応用し、漁網由来再生ナイロン繊維も今年3月からアンドプラスのラインアップに加わり、本格的に販売が始まった。

 既に「ポーター」ブランドのバッグで知られる吉田(同千代田区)がアイコン商品である「タンカー」の裏地に採用した(表地には東レの100%植物由来ナイロン繊維「エコディアN510」を採用)。

 そのほか、複数のアパレルからも採用に向けた動きがある。ポリエステル繊維とナイロン繊維の両方をラインアップしたことで、アンドプラスの可能性が一段と広がった。

〈消費者も回収に参画〉

 アンドプラスの最大の特徴は、ポストコンシューマー型リサイクルのキーとなるリサイクル資源の回収プロセスに、企業だけでなく一般消費者の参画を促す取り組みを積極的に進めている点。そのためのさまざまなイベントにも参加してきた。その一つが、東京マラソンでのペットボトル回収とボランティアウェアへのリサイクルだ。

 マラソン競技では選手の給水によって大量の廃棄ペットボトルが発生する。これを回収し、アンドプラスの原料に再利用する。21大会で回収したペットボトルを原料にしたアンドプラスが3月に開催された24大会のボランティアウェアに採用された。

 マラソンに参加した一般消費者がペットボトルの回収に参画し、それから生み出されたアンドプラスを使ったウェアを、やはり消費者であるボランティアが着用する。消費者がリサイクルのプロセスに意識的に参画することになる。

〈学生とも協業〉

 学生とのコラボレーションも積極的に進めている。その一つが、大妻女子大学家政学部被服学科が立ち上げた学生目線で社会貢献を目指すファッションブランド「マールトウキョウ」との取り組み。アンドプラスを一部採用した日傘を共同開発した。

 文化服装学院との取り組みも始まった。東レが同校でアンドプラスに関する講義を行ったことをきっかけに浴衣の製作が始まった。学生から浴衣地の柄デザインを募集し、アンドプラスを使った生地で浴衣とシャツ、風呂敷を制作する予定。

 このほか、日本最大級のファッション総合展示会「ファッションワールド東京」にも参加し、展示会中のセミナーで学生との対話を行った。

 近年、学生など若い世代の間では環境配慮への意識が急速に高まっている。こうした若者の意識に寄り添った素材としてアンドプラスをアピールすると同時に、リサイクルへの主体的な参画のきっかけ作りに貢献することを目指す。

 消費者の参画を促す形で拡大を続けるアンドプラス。アンドプラスのペレットを使い、中国やインドネシア、マレーシアなどの子会社でもアンドプラスによる原糸・原綿を生産している。マレーシアではペットボトル回収の取り組みも始まった。グローバルな広がりが加速する。将来的には“繊維to繊維”リサイクルの社会実装も目標となる。アンドプラスの進化が加速する。

〈繊維サーキュラーエコノミー戦略室長 白石 肇 氏/企業・業界横断でチームを〉

 繊維サーキュラーエコノミー戦略室は、繊維資源循環のためのプラットフォーム構築の役割を担っています。そのための取り組みの一つが「&+」(アンドプラス)です。繊維の循環型経済実現は部署や企業単位で取り組んでも限界があります。企業、さらに業界を横断し、それぞれの役割をはっきり区別しながら“オール・ジャパン”で取り組むことが必要でしょう。そうやってサーキュラーエコノミーを早期に社会実装することがアンドプラスの目指すところです。

 現在、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの転換が求められていますが、まだ道半ばというのが現実です。やるべきこと、課題が山積しています。法的な規制や枠組みもこれからどんどん変わっていくことが予想されます。このためゴールも変化することを考えながら取り組んでいかなければなりません。サプライチェーンの各工程、さらには一般消費者まで含めて、考え方に賛同するメンバーによるチームを作り、取り組むことが重要になると考えています。(談)

《トピックス》

〈ペットボトルから白無垢〉

 東レの自社展示会や出展する合同展示会で注目を集めた展示品がある。アンドプラスで作った白無垢だ。回収されたペットボトルが、日本人にとって特別な衣装である白無垢(むく)へと生まれ変わった。

 白無垢制作は、長繊維事業部の女性従業員が友人でもある同期入社の同僚の結婚式のために企画した。白無垢は、文字通り“白さ”が最も大切だが、再生ポリエステル繊維はどうしても不純物が含まれやすいため高白度を実現するのは並大抵のことではない。

 そこで回収したペットボトルの洗浄・異物除去を担う協栄産業や織布、染色整理加工、そして縫製までさまざまな立場の人が力を合わせることで純白の白無垢を実現した。

 その様子はユーチューブで公開し、展示会やイベントなどでも紹介した。映像作品の評価は高く、このほど日本で唯一の国際的広告映像アワード「ブランデッド・ショート」のナショナル部門とHR部門にノミネートされた。

 また、映像を見た一般女性からアンドプラスの白無垢を使いたいという声も寄せられ、実際に結婚式で使用した。この女性は中学校で教員を務めており、白無垢をきっかけに中学校で東レがアンドプラスと繊維リサイクルについて講演する予定で、SDGs(持続可能な開発目標)教育にも寄与した。

 環境配慮への関心と共感を生み出すストーリーによって繊維リサイクルの可能性を伝えている。

〈大妻女子大と日傘共同開発〉

 東レと大妻女子大学の学生が日傘を共同開発した。洋傘・服飾雑貨製造販売のオーロラ(東京都渋谷区)が4月からオーロラ・オンラインショップで販売している。

 共同開発は、23年に東レが大妻女子大家政学部被服学科で開いた特別講義「東レのサーキュラーエコノミーに関する取り組みと『&+』(アンドプラス)について」がきっかけ。同学科は教育活動の一環としてファッションブランド「マールトウキョウ」と立ち上げており、アンドプラスの取り組みとコンセプトがマッチした。

 開発した日傘は、学生ならではのかわいらしいデザインに。傘地は高い遮熱性・遮光性、UVカット性を持つ東レの「サマーシールド」、親骨には炭素繊維「トレカ」を採用した。サマーシールドの原料の一部にアンドプラスが使われている。

 マールトウキョウ日傘企画チームの代表を務めた同学科の城所愛佳さんは「機能性と環境に配慮した夏の必需アイテムをぜひ手に取っていただけたらうれしいです」と話す。Z世代など環境配慮に関心の高い消費者のニーズに応える日傘が実現した。