特集 環境(2)/社会の要請に応える/旭化成/帝人フロンティア/小松マテーレ

2024年06月27日 (木曜日)

〈人気高まる「ベンベルグ」/西アフリカ民族衣装にも/旭化成〉

 旭化成が世界で唯一生産するキュプラ繊維「ベンベルグ」の人気が一段と高まってきた。サステイナブル素材としての評価が高く、合繊からの置き換えを進める動きが加速する。サステに焦点を当てたプロモーションも強化した。

 ベンベルグは、未利用繊維であるコットンリンターを原料とし、土中だけでなく海水中での生分解性も確認しており、国際的な第三者認証「OKバイオディグレーダブルマリーン」も取得している。これらが評価されて世界的に引き合いが増加した。ラグジュアリーブランドやグローバルアパレルが安定的に採用する。

 こうした中、欧州でのプロモーションを強化。昨年10月にイタリア・ジェノバで開催されたジーンズイベント「ジェノバジーンズ2023」に参加し、同じく10月の「ベネチア・ファッションウィーク」でも現地アパレルやデザイナーと連携してベンベルグを使ったコレクションを披露した。

 もう一つ、重要市場と位置付けているのがインド。民族衣装で高い評価を得ているが、消費者の間での認知度が不十分とみており、消費者プロモーションに力を入れる。高級民族衣装ブランド「アニタ・ドングレ」とコラボレーションし、海洋生分解性に焦点を当てた「アズール(紺碧)」コレクションを発表した。店頭商品のベンベルグのブランドタグ添付も始まった。

 イタリアのテキスタイルメーカーと連携し、セネガルやマリなど西アフリカ地域の民族衣装“バザン”にベンベルグを提案する取り組みも始まった。国連開発計画(UNDP)に協力して収益の一部をアフリカ支援に拠出する取り組みも始めた。マリでバザンの染色に従事する女性への用具支援や健康診断費用支援などに使われた。環境だけでなくSDGs(持続可能な開発目標)達成への取り組みにもつながっている。

〈繊維to繊維を推進/「シンクエコ」で目標達成へ/帝人フロンティア〉

 帝人フロンティアは、環境戦略「シンクエコ」を掲げ、環境配慮素材とサーキュラーエコノミー(循環経済)の社会実装に取り組む。特に“繊維to繊維リサイクル”の普及に向けた技術的ブレークスルーが加速した。

 シンクエコは、「素材からエコにこだわろう」(脱化石原料による省資源社会実現)、「きれいな空気と海を守ろう」(環境負荷低減による自然との共存)、「省エネな毎日を送ろう」(CO2排出量削減による低炭素社会実現)を重点目標とする。

 特に省資源社会実現に向けて取り組むのがリサイクル繊維の普及となる。同社は早くからポリエステル繊維のマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルに取り組んでおり、「エコペット」ブランドとして展開してきた。現在、廃棄物の国境を越えた移動が事実上禁止される中で、国内の廃棄物をどれだけ有効活用するかが問われる。このため同社は特に繊維to繊維のケミカルリサイクルの普及に力を入れる。繊維to繊維リサイクルの課題の一つであるポリウレタン弾性糸を複合した使用済み繊維からポリウレタン弾性糸を除去する技術も開発した。

 環境情報の算出・提供も重視しており、ポリエステル繊維に関する二酸化炭素排出量を算出する独自システム「TLC3」(テレックサン)も運用する。このほど日本LCA推進機構からライフサイクルアセスメントの国際標準規格である「ISO―14040 200」「ISO―14044 2006」に準拠した算出方法であるとの第三者認証も取得した。

 シンクエコが掲げる目標の達成には、社会全体の認識が大きく変わる必要があるというのが同社の見方だ。そのために取引先との連携も含めた取り組みに力を入れる。

〈マーバスをリニューアル/大切に長く着る衣服へ/小松マテーレ〉

 小松マテーレは、ポリエステルを改質して吸水性や制電性、汚れ除去(SR)性などの機能を持たせた「MAWUS」(マーバス)をリニューアルし、用途を広げていく。洗濯耐久性100回を実現するなど性能も向上させており、「良質な衣服を大事に長く着る」流れに沿ったサステイナブル素材としても展開していく。

 マーバスは、疎水性であるポリエステルをグラフト重合で親水性に改質し、吸水速乾や汚れ除去(SR)などの機能を持たせた多機能素材。1980年から展開しているロングセラーだが、この間に環境負荷の低い加工薬剤への変更や各性能の向上など改良を進めてきた。現在はユニフォーム用途を中心に展開するが、ブランドリニューアルを機に再拡販を図る。

 ブランド名はマーバスが持つ各特性の英文での頭文字から付けたもので、「多用途」(M)、「制電性」(A)、「吸水速乾性」(W)、「洗濯耐久性」(U)、「汚れ除去性」(S)に再定義した。スペックも再定義し、特に洗濯耐久性は従来の家庭洗濯20回から100回に大幅に向上させ、繊維製品の長寿命化に寄与する素材として提案していく。現在は工業洗濯50回での検証も進めている。

 織物、ニットとも多様な種類の生地をそろえ、ポリエステル100%だけでなく綿混などもそろえる。ユニフォーム用途ではマーバスの制電性と導電糸を組み合わせてクリーンルーム用などにも展開する。

 今後はユニフォーム以外にも用途を広げていく考えで、シャツやスポーツ、シーツなどの寝装、生活雑貨や介護などさまざまな分野に展開していく。現在の販売量は年間50万~60万メートルだが、24年度は100万メートル、3年後には300万メートルへ拡大する計画だ。