この人に聞く/村田機械/常務繊維機械事業部長 正井 哲司 氏/技術サービスを強化

2024年06月20日 (木曜日)

 村田機械は昨年、世界トップシェアの自動ワインダーで新技術を相次いで発表した。新製品への手応えや今後の開発などを正井哲司常務に聞いた。

  ――繊維機械事業の前期(2024年3月期)は。

 (精紡機の)「ボルテックス」が落ち込んだ時期もありましたが、その前の期からの受注残もあって通期では順調に推移しました。ただ、足元は自動ワインダーの生産量を計画的に落としているので、今期は減収とみています。

  ――自動ワインダーでは昨年に新機種「AIcone」(アイコン)を発表しました。

 生産性の向上や省エネは大前提として、大きくはソフトの改良が特徴です。例えば自動ワインダーでは糸引きが長年の課題でしたが、制御のスマート化などで解消し、アラームが少ない機種として好評を得ています。加賀工場では現在、アイコンに切り替えるために生産ラインの整備を進めています。そのため本来の2~3割ほどに落としているのですが、早期に7~8割に達するよう生産体制を整えます。

  ――昨年は全く新しいコンセプトでノンストップワインダーをうたう「FLcone」(ファルコン)も発表しました。

 来年からの販売開始を目標に開発中で、フィールドテストを始めました。実際に工場で稼働させ、出てくる課題を解消して発売につなげます。ファルコンは新しい領域を狙う商品で、特に不良を出さないパッケージ品質が特徴です。まずは品質を重視する顧客からの導入を想定しており、スタンダード機としてアイコン、ハイエンド機としてファルコンを展開していきます。

  ――ファルコンの発売で再び生産ラインの整備が必要ですか。

 プラットフォームを共通化し、ラインを大きく変えなくてもよい設計にしています。「完全モジュール設計」と呼んでいますが、ワインダーの上部、中部、下部でモジュール化し、アイコンの中部だけ変えればファルコンになります。また、上部を変えればアームトラバース型、下部を変えれば染色用巻き返し機にできます。主な狙いは納期の短縮で、特に特殊仕様による長納期化を解消します。

  ――「ボルテックス」の開発の方向は。

 さらなる生産性向上や、リサイクル糸対応などで開発を進めます。他メーカーとの協業もポイントの一つです。既にワインダーで進めていますが、例えばアイコンの毛羽の状態を見ながら速度を調整する機能はウスター(スイス)との協業がなければ難しかったでしょう。協業は新しいソリューションの創造につながります。

  ――今期の市場環境をどうみますか。

 世界的に市況が悪く、特に中国市場が鍵とみています。今は大手しか設備投資に動いていない状況で、市場の動向を注視しています。中国以外ではトルコも金利の上昇で設備投資意欲が減退していますが、昨年に厳しかったインドは底打ちしました。ここが戻れば自動ワインダーの販売を下支えするとみています。

  ――今期の重点方針は。

 ポイントの一つはサービスの充実で、「ムラテック・スマート・サポート」(MSS)を活用した技術サポートを強化します。新型コロナウイルス禍で移動が制限された時、インドを中心にMSSでの対応が高い評価を受けました。南アジアでは有償契約も始まっています。メンテナンスのスペシャリスト不足が世界共通の課題になっているので、遠隔でも対面と遜色ないサポートを実現する機能の拡充・強化に取り組みます。

 ボルテックスのユーザー情報を発信するデジタルサービス「ボルテックスパートナー」の機能も拡張します。より顧客同士、サプライヤー同士がつながることができるコンテンツにしていく計画です。