技術の眼/YKK/平松工業/シキボウ/東播染工/豊和/ハイケム

2024年06月19日 (水曜日)

 「技術の眼~NEW WAVE GENERATING TECHNOLOGY~」では将来的にニューウェーブを巻き起こし得る重要な技術にスポットを当て、紹介する。

〈YKK/マグネット使用のファスナー〉

 YKKのファスナー「ビスロン・マグネットタイプ」は、左右の開具にマグネットが埋め込まれており、開具同士を近付けるだけで閉じる。この仕組みにより、手元を見なくても操作ができるため、スポーツシーン、キッズウエア、ユニバーサルファッションと用途は多岐にわたる。

 従来のファスナーは、左右の開具を係合(組み合わせる)する動作が必要なため、高齢者や手が不自由な人にとって開閉作業が負担になる場合もあった。ビスロン・マグネットタイプは、磁石の力で片手での開閉を可能にし、ファスナーに苦手意識を持つ人でも使いやすいようにした。

 同製品は、2020年度の「グッドデザイン・ベスト100」を受賞した。さまざまなシーンで活用できる発展性が評価された。

〈平松工業/10℃暖かい肌着〉

 平松工業は暖冬に伴う防寒アイテムの苦戦を踏まえ、24秋冬のメンズインナー・肌着商戦で薄手のアイテムを増強する。この一環として、プラス10℃の保温効果が特徴の新ブランド「サーモラップ」を商品化した。

 サーモラップはカーボン練り込みのポリエステルで蓄熱保温性能を持たせた肌着。温度が10℃上がるとのデータが取れていると言う。

 ポリエステル/ポリウレタンによるベア天竺を採用しており、生地の目付が110㌘と春夏アイテムのような薄さが特徴。

 アイテムは長袖シャツとタイツで、価格はいずれも980円。このほど、東京、大阪で開いた展示会では「かなりの受注が付いた」(平松明憲専務)としており現在、レディース向けも含め10万枚をめどに作り込みを進めている。

 24春夏から販売を開始した「風で紡ぐ糸」による肌着の販売が「おおむね好調」としており、24秋冬に向けて増産体制を敷いた。

〈シキボウ/綿再利用ペレット初披露〉

 シキボウは、廃棄されていた綿素材を再利用した新素材バイオマスプラスチック「コットレジン」を、都内で開かれた「2024NEW環境展」で初披露した。今回は、来場者からの反響など情報収集が目的。繊維製品の回収を手掛けるBPLab(東京都港区)と協業している。

 従来廃棄されていた綿素材をミクロサイズまで細かくし、ポリプロピレン樹脂と混ぜることで、35%混の試作品データでは曲げ強度や曲げ弾性率、引っ張り強さでポリプロピレン100%より物性が向上した。これにより椅子やスーツケースといった生活用品、電化品などの成形品の薄肉化や軽量化が可能になると言う。

 現在は生産工程で発生する綿廃材や、ファスナーはじめ副資材などのないタオルを原料に使用しているが、将来的には廃棄衣料も有効活用していきたいとする。

〈東播染工/塩素による色あせ抑える染色〉

 生地の企画から製造、販売まで一貫で行う東播染工(兵庫県西脇市)は、水道水などに含まれる塩素による色あせを抑制する染色を開発した。ネービーとベージュ、カーキの3色で提案を開始し、黒色の研究も進めている。シャツやボトムス用途で訴求するほか、染色の依頼も受ける。

 綿などの染色に用いられる反応染料は、塩素によって変色する場合がある。塩素は水道水などに含まれている(残留塩素)ため、家庭洗濯を繰り返すことで綿製衣料品の色あせや変色が起こり得る。その抑制に主眼を置いて開発したのが今回の染色で、「繊維に色を固定化している」と言う。

 先染めと後染めの両方に対応し、ニット糸の染めもできる。「AGING COLOR」(エージングカラー)の名称で展開する。東京都渋谷区の東京事務所で開いた2025年向け内見会で初めて紹介した。25春夏物で対応が可能とし、一部先行展開を始めている。

〈豊和/石使わずストーンウオッシュ〉

 洗い加工大手の豊和(岡山県倉敷市)はこのほど、石を使わずにストーンウオッシュ調の加工感を表現する「スラッガーウォッシュ」を開発した。

 ストーンウオッシュは、ジーンズを軽石と水と一緒に洗うことで製品にアタリを付けて古着感を出す加工。ただ、軽石が削れて汚泥が発生するデメリットがあるほか、強いアタリ感を出すためにはエネルギーや水を多く使用する必要がある。

 スラッガーウォッシュでは、研磨剤とセルロースの結合を分解する酵素などを混ぜた細かい粉末状の特殊な加工剤を使う。糊(のり)抜き洗いしたジーンズを加工剤とともにワッシャーの中に入れて加工することでストーンウオッシュと同じような加工感を出す。

 軽石を使わないため汚泥が発生せず、通常のストーンウオッシュで必要な洗い上がった製品と軽石とを分ける作業が不要になる。糊抜き洗いやすすぎなどを除き、同加工で水は不要だ。作業時間やエネルギーの削減にもなる。

〈ハイケム/PLA100%でフリース〉

 化学品専門商社のハイケム(東京都港区)は、ポリ乳酸(PLA)繊維「ハイラクト」100%のフリースを開発した。3年をかけて、課題だった耐久性や耐熱性を克服した。このほど東京都内でイベントを開催し、試作品のボアフリースやマイクロフリース(パーカ)を披露した。

 フリースは、保温性や軽量性といった特徴を持ち、アウトドアからスポーツ、日常まで幅広いシーンで着用されている。一般的には、染色後の生地に起毛を施して保温性や柔らかな風合いを付与しており、PLAの応用には耐久性などで問題を残していた。

 起毛の際に生地が破れるという課題には、糸の種類や組み合わせの変更、起毛剤の調整をはじめとする工夫で対応した。高温の染色で生地が硬くなるという課題には染色から起毛、仕上げの各工程で温度やスピードなどで細かい改善を重ねた。これらは現在も改良を加えている。