ごえんぼう

2024年06月19日 (水曜日)

 職人の対価を考えさせられる場面があった。高級着物の代名詞、大島紬(つむぎ)の反物は10万~100万円を超える価格で取引されているが、そのイメージとは程遠い実情がある▼一般的には30以上の工程を経て、この絹織物が完成する。ほとんどを手作業で行い、制作期間は半年から1年を要する。反物が完成すると問屋など中間業者を介して流通する▼あるファッションデザイナーの話では、職人の作業時間を時給換算すると200~300円になると言う。反物を制作する「鹿児島や石川、宮崎など織元の現状は深刻」と警鐘を鳴らす▼中間業者が幾つも介在すると、反物価格が跳ね上がる。その一方、職人への対価はそのまま。慣習と言えばそれまでだが、これでは職人を目指す人が減っても仕方ない。職人の高齢化、後継者問題といった従来からの課題に加え、100年以上前から脈々と続く、業界の制度疲労も横たわる。