リサイクル紡績糸/開繊技術の進化に注目/課題は鑑別方法の確立

2024年06月12日 (水曜日)

 世界的に資源循環型経済への移行が叫ばれる中、繊維分野でもリサイクル技術の開発が進んでいる。古くから存在する反毛を使ったリサイクル紡績糸も、新方式の開繊技術が登場するなど進化が加速してきた。(宇治光洋)

 紡績分野では廃棄繊維製品や生産工程で発生する端材を開繊してわた状に戻す反毛が古くから実用化されてきた。反毛を使った紡績糸は、いわゆる「特紡糸」として主に資材用途で使用されてきたが、近年は環境配慮型リサイクル糸として再評価されている。このため反毛によるリサイクル紡績糸をさらに普及させようという動きが高まる。

 日本繊維機械学会は再生糸普及委員会と繊維リサイクル技術研究会が中心となり、産官学によるリサイクル紡績糸の総合研究を進めている。研究の結果、糸の物性や織・編み物にした際の風合い評価によってリサイクル紡績糸が通常の紡績糸と同様に使用できる可能性が明らかになりつつある。普及のためにはデザインや消費者心理、さらに文化論に基づくアプローチも不可欠であることが示唆された。

 新しい開繊方式など技術革新も注目だ。その一つが、東洋紡せんいが協力関係にある海外の大手紡績と連携して商品化したリサイクル綿糸「さいくるこっと」。従来の反毛は、金属製の針で繊維を引っかくことで開繊するが、どうしても繊維が破断し、繊維長が短くなる。このため反毛100%や細番手の紡績が難しかった。これに対して、さいくるこっとに使用する反毛は特殊な前処理と空気の力で開繊することで繊維長が維持される。このため反毛100%や細番手の紡績が可能になった。

 セイコーエプソンは水を使わない独自の古紙再生技術「ドライファイバーテクノロジー」を応用し、これまでは再生が困難だった繊維の開繊技術確立に取り組んでいる。今年、香港繊維アパレル研究所(HKRITA)と共同研究に関する契約を結んだ。HKRITAは繊維リサイクル技術の研究開発で豊富な実績を持つ。

 一方、課題もある。一つが混率などを通じて環境性能を客観的に算定・表示するための標準化だ。現在、日本化学繊維協会と日本紡績協会、日本羊毛産業協会が協力して環境配慮型繊維の標準化を進めている。リサイクル綿糸の規格作成は日本紡績協会が担うが、化繊と比べて進捗(しんちょく)が遅れている。

 ネックとなっているのが標準化の前提となる鑑別方法の確立だ。天然繊維はリサイクル原料とバージン原料の間に物理・化学的差異が少なく、化学的再生・合成工程もないため化繊のように化学的マーキングによる鑑別も導入しにくい。顕微鏡による外観観察、繊維長、油脂分、染色性それぞれを分析する鑑別方法が検討されたが、今のところ期待される効果を得ていない。このため自己認証評価法や第三者認証方式によって鑑別を代替することも検討する。

 こうした課題の克服がリサイクル紡績糸のさらなる普及のために不可欠となる。