旭化成/変革と成長施策の両輪で中計仕上げる/飛躍見据え成長軌道に回帰

2024年06月07日 (金曜日)

 旭化成は、2024年度(25年3月期)に3カ年の「中期経営計画2024~Be a Trailblazer~」の最終年度を迎えた。マテリアル領域の事業ポートフォリオ変革の加速、ヘルスケアと住宅領域における成長施策の推進の両輪で現中計を締めくくる。25年度からの次期中計での飛躍を見据え、成長軌道への回帰を目指す。

 旭化成は、22年度から3カ年の「中期経営計画2024~Be a Trailblazer~」を、30年の目指す姿に向けたファーストステップと位置付け、「次の成長事業への重点リソース投入」と、中期視点での「抜本的事業構造改革」に着手し、事業ポートフォリオ深化の追求を目指している。

 工藤幸四郎社長は、5月に東京都内で開催した経営説明会で現中期経営計画の進捗(しんちょく)状況を説明した。23年度の業績について「マテリアル領域は事業環境変化もあり低迷しているので、戦略の見直しと改革加速が必要。一方、ヘルスケア領域は一時的な停滞から成長軌道へ回帰し、住宅領域は2年連続で過去最高の営業利益を更新し、中計に沿って堅調に推移した」と説明。24年度の営業利益は中計の当初目標である2千億円達成は後ろ倒しとなる1800億円の予想とした。

 マテリアル領域は、中計策定時と環境が変化している。一つが、石油化学市場環境の悪化で、石油化学チェーン関連事業構造転換の検討を加速させることで対応していく。

 二つが、EV(電気自動車)を取り巻く環境変化で、車載電池サプライチェーンにおける中国系のプレゼンスが拡大しており、他社との資本連携を含めた、顧客との関係性強化や、北米市場にフォーカスした大型投資の実行などで対応していく。

 もう一つの、新型コロナウイルス禍後の需要変化に対しては、先端品の能力増強、汎用品から高付加価値品へのシフト、顧客接点を軸とするプラットフォーム型のビジネスを強化することで対応していくとする。

 こうした変化を受け、24年度は早々に、車載リチウムイオン電池用セパレータ「ハイポア」のカナダでの製膜・塗工の一貫工場建設を決定した。

 ヘルスケア領域は、24年度も戦略を変更することなく、引き続き高成長を追求する方針。キーアクションとして、米ZOLL社とVeloxis社のさらなる拡販に加え、中期的成長に向けた投資機会の探索を続ける。

 住宅領域は、キャッシュ創出力を引き続き強化する。24年度のキーアクションとして国内住宅の高付加価値シフト、海外事業の一層の成長展開などに取り組む。

 経営指標の一つとするROIC(投下資本利益率)は、投資効率向上の施策を通じて、WACC(加重平均資本コスト)を超える水準に早急に到達させる。ヘルスケア領域では過去に投資した事業が着実に成長しており、利益創出によるROIC向上を目指す。住宅領域では利益成長とROIC向上の両立を目指す。

 マテリアル領域では、ライフイノベーションで拡大投資の利益寄与と、より付加価値の高い製品の拡大でROIC向上を目指し、モビリティ&インダストリアルはコスト競争力強化や製品ポートフォリオの見直しで体質を強化する。環境ソリューションでは、基盤マテリアルは中期視点での他社連携と並行し、ベストオーナー視点での構造転換を推進する。

〈自動車内装材は大きく成長へ〉

 構造転換については、三井化学とのスパンボンド不織布の共同事業会社設立、フォトマスク用防塵(ぼうじん)カバーのペリクル、旭化成パックスの事業を譲渡、軽量気泡コンクリート(ALC)を生産する岩国工場の閉鎖などを実行。マテリアル領域における化学品事業の構造改革なども検討を進め、24年度中に意思決定を目指す。

 石油化学チェーン関連事業の構造転換については、「ベストオーナー視点での改革」「他社連携による最適化」「自社単独・他社連携による強化」の三つのアプローチで推進している。エチレン製造設備については、西日本に設備を所有する三井化学、三菱ケミカルと連携し、カーボンニュートラルの実現に向け検討を進める。

 業務革新を通じた生産性の向上では、旭化成グループ横断での生産性革新を推進する「BTプロジェクト」を軸に取り組みのスピードを上げている。共通固定費の効率化や間接材費用の削減、業務委託費の見直しなどで、23年度は約100億円の効果を生み出した。追加の削減策を具体化し、累計で約200億円の削減を目指す。

 成長をけん引する10の事業「GG(グロース・ギアーズ)10」において、ヘルスケア領域のクリティカルケア、グローバルスペシャリティファーマ、バイオプロセスと、住宅領域の北米・豪州住宅、環境配慮型住宅・建材が利益成長を見込んでおり、拡大投資も想定通りに実施する。

 GG10のうち収益基盤拡大事業と位置付け、安定収益を維持しつつ規模拡大機会を探索しているのがマテリアル領域の自動車内装材事業だ。米国での自動車内装材関連を中心に3年間で500億円を投資(意思決定ベース)し、24年度は21年度から約100億円の利益成長を見込む。

 自動車内装材は、中国の合成皮革(PVC)メーカーの買収や人工皮革「ディナミカ」の生産能力増強などを実施し、セージ・オートモーティブ・インテリアズがマーケットニーズに応じた製品を提供することで、事業のプラットフォーム化を進める。工藤社長は「次の中計では大きな成長を見込む」と話した。エアバッグは糸から生地、縫製のチェーンがつながったとし、その強みを生かして成長を図る。

 その他のGG10では、マテリアル領域の水素関連・CO2ケミストリーで国やパートナー企業と連携を強化しながら旭化成の素材・製品の付加価値をベースとしたプラットフォームを提供するコンセプトでの事業化を推進。蓄エネルギー(セパレータ)は、ハイポアでEV市場拡大が見込まれる北米・日本市場をターゲットに成長を追求する。

 地域視点の成長戦略では、各地域の固有の状況に加え、世界経済のデカップリング、地政学リスクの変化も踏まえて、各地域の位置付けを明確化した。

 その中で米国はヘルスケア領域の最大成長市場であるほか、住宅におけるM&A、セパレータの北米進出などによるエリアの拡大も推進していることから、今後もグループの成長を力強くけん引する地域と位置付けた。また中国では現地先進企業のパートナーとなり、新しい価値を創出する。それに加えて、環境変化の速さに適合すべく、より現地に密着した事業活動を推進していく。

 繊維事業では、キュプラ繊維「ベンベルグ」が着実に利益を上げており、ポリウレタン弾性繊維「ロイカ」は「海外は順調に拡大しており、ベンベルグとそん色ない水準の利益が稼げるようになっている」(工藤社長)とした。

〈25年度に過去最高益想定〉

 工藤社長は、25年度以降の中期的な方向性についても言及した。引き続き、ヘルスケア領域のクリティカルケアなどを重点成長、住宅領域の北米・豪州住宅やマテリアル領域の自動車内装材などを収益基盤拡大に位置付ける。重点成長事業では24年度に約600億円の営業利益を見込む。

 その上で、現中計は優先順位を明確にした成長投資と構造転換の加速で、次の成長に向けたベースを形作る3年間と説明。25年度にはこれまでの最高益だった18年度の2096億円を上回る2100億円超の営業利益を想定。領域別営業利益では、マテリアル領域で800億円、ヘルスケア領域で800億円、住宅領域で1千億円をイメージしている。

 経営の方向性については、マテリアル領域は技術とイノベーションで社会変革に挑戦する。住宅領域は快適な“くらし”に貢献しながら安定的収益を創出する。ヘルスケア領域はグローバル経営を推進してグループの持続的成長をけん引する。中計策定当初に掲げた営業利益2700億円は26、27年度での達成を目指す。

 安定的事業の収益を基に、財務健全性を維持しながら、「大胆な事業ポートフォリオ変革」「3領域の多様な成長機会」へ挑戦を続ける。これによって持続可能な社会への貢献と持続的な企業価値向上という二つのサステイナビリティーの好循環を生み出す。